女の子同士?1
愛恵は、シクシク泣いていた。
ゲル(花音に聞いた)とか言う、テントの外では、結婚のお祝いで
随分賑わっている様だが全然楽しい気持ちになれなかった。
どうしてこんな事になったのだろう
どうしてこんな所に来てしまったのだろう
もう帰れないのだろうか?と哀しくて堪らなかった。
今、食事が終わって
親切にも、ちゃんとお湯を桶に溜めた
お風呂を用意してもらって花音ちゃんが入っている所で
先にお風呂に入った愛恵は、ここの民族衣装に着替え
もともと着ていた自分の服を畳んでいるうちに
寂しさと哀しさが込み上げて来て
ポトリポトリと膝の上の服に、涙が零れ落ちた。
そうするともう耐えられなくて次々と涙が溢れてきた。
「お父さん、お母さん、お兄ちゃん、お姉ちゃん・・・」
花音に聞こえないように小さな声で呟く。
「帰りたいよ・・・」
その時だった。
いきなり入り口の布を捲り上げて何かが入ってきた。
もう、疲れているから寝ると言う事で明かりは消されて月と星の
光だけに照らされていると言う薄暗い所に乱入してきた黒い影は
気にした風もなくズカズカと近づいてくる。
『なぁおい』
「いやああ!!・・・・おにいちゃん!!」
余りの恐怖に愛恵は奥のお風呂用に仕切られた
此処より少し明るい場所へと走った。
『待てよ!』
影が逃げようとする愛恵の腕を掴んでより愛恵の恐怖を増加させる。
「おにいちゃ~ん!!!」
愛恵は、泣き喚きながら風呂場に居た
白い背中に思い切り抱きついた。
バシャン!!
白い背中を押し倒した上に物凄い水音がして、
自分も全身お湯を被ったが、愛恵は必死だった。
もう一瞬も耐えられないと思った。
「おにいちゃん恐いよぅ~もう嫌よ~帰りたい、帰りたいの~」
小さな子供のように愛恵は、エグエグと泣いた。
泣きじゃくる愛恵の下で苦しげながら怒りに満ちた声がした。
「鈴木愛恵・・・・・貴女は・・・なんっって事するんですか!」
ついに『さん』を抜いて愛恵の下で珍しく
花音が感情的に怒っていた。
『どうした!!』
見ず知らずの青年が飛んできた。
野性味に満ちた少し乱れた感じの茶褐色の長い髪に
釣り上がり気味の生き生きとした焦茶色の瞳
愛恵はぼんやりと青年を見上げた。
『濡れちまったのか・・・大丈夫か?桶で頭打たなかったか?』
青年が、愛恵を、そして花音を気遣い花音に触れようとした瞬間
急いで近くにあった着替えの服を引き寄せて
花音は、裸の身体を隠し青年の手を振り払った。
「触るな!」
驚いた顔をして振り払われた自分の手を見て青年はその後
再びこちらを見てニカッとお日様のように笑った。
『悪かったな、女の子の沐浴の所来ちまって
ちっちゃくても女だもんな俺が悪かったぜ』
一瞬青年の笑顔に見とれていた愛恵だったが、
涙が溢れたままの顔だったけど必死で怒った顔になって
花音の前に出て背中で庇う。
「な・・・なんですか!貴方は!
女の子の入浴中ですよ!で・・・出てってください。」
『俺の名はチーフォンだ。
もう怒るなって・・・だから悪かったって、ただフールンが
こっちに来てるって聞いたから来ただけなんだけどな・・。』
何故か微妙に話が通じて謝るとチーフォンは出て行った。