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煙草の煙に誘われて。  作者: 梅屋さくら
第一章 こうして二人は出逢った。
3/40

**1-2 初めてばかり。

 みやこと過ごす時間が長くなっていくとともに、あまねのデジタルカメラには都の写真が増えていった。


「一日に三枚は撮っているからなあ……」


 このごろ、周は都に話しかけるようになった。

 都は未だに話すことは出来ないが、誰かが自分の話を聞いてくれていると思うだけで安心し、思わず話し続けてしまうのだった。


 拾った直後はずっと眠っていただけだった都も、順調に生後二ヶ月を迎えたころになると起きている時間が増えてきた。

 体もずいぶん大きくなったように見え、それに伴ってミルクの量もより多く必要になってきた。

 頻繁にミルクを作ってやらねばならない。

 周は自分の胸を凝視してつぶやいた。


「ごめんな、俺は母乳出せないから……」


 ミルクを作り始めたころは大変だった。

 作って都に与えようとすると、ミルクを飲むことをすごく嫌がる。

 周はなにがいけないのかわからず、大人にとっては不味まずい粉ミルクを一舐めしてみた。


「ああ、熱いのか!」


 周は、なぜ都がミルクを嫌がるのかすぐに理解した。

 ミルクは、びん越しではわからなかったが、実際に口に入れると予想以上に熱かったのだ。

 大人からすればちょうど良い温度だが、赤ん坊に飲ませるのなら熱くしすぎているのだろう。

 そんな熱いミルクを無理やり飲ませようとしていた自分が不甲斐ない父親だと思い、都に謝った。

 謝った途端、都は周のほうに顔を向けた。

 今までは目があまり見えないようだったのだが、最近はこういうことも増えてきた。

 どうやら都は目が開いてきて、周りが見えるようになってきたらしい。

 どんどん大人になっていく……おかしい話だが、周は都が成長したことを確認する度にそう思っていた。

 拾ったときと比べると、今の自分などの大人たちに近付いてきている、ということだった。


 順調に五ヶ月を迎えることが出来た。

 都は体が丈夫なようで、これまで大きな病気にかかったことがない。

 だが、五ヶ月を迎えてすぐに初めて病気になってしまった。

 それは都を眠らせようと布団に横にさせたときだった。

 なんだか動こうとしていると思ったら、彼女はいきなり寝返りを打った。

 初めての寝返りが出来て、周は手を叩いて喜んだ。

 なんだろう、周はどこか違和を感じていた。

 普段は手を叩く音がするとそちらに顔を向けようとするのだが、この日は正面を向いたまま固まっていた。


「どうした? なにかあったか……え⁉︎」


 心配して小さな背中をさすろうとしたとき、都は思いきり布団に吐いた。

 布団はすごく汚れていたが、都の服はあまり汚れずに済んだようだ。

 未だ吐き続ける都の前に桶を用意し、そこに吐かせた。

 苦しそうな都はとても見ていられない。

 周はすぐに小児科に電話をかけた。


「五ヶ月になった娘が吐きました! ええ、ミルクしかあげていません。俺はどうしたら良いですか⁉︎」

「わかりました。では、落ち着いてから病院に連れて来られますか?

……ええと、落ち着くというのはあなたもです。落ち着いてください」


 周と同じくらいの年の看護師に電話越しに怒られた。

 たしかに都が吐いてから自分はパニック状態になっていた。

 そのことにはっと気が付き、ふと我に返った。


「俺らしくもない……」


 思わず独り言を言っていたことに気付かぬまま、彼は娘をチャイルドシートに乗せて病院へと出発した。


 家から病院まで、およそ二十分。

 その間、また吐くのではないかと気が気ではなかった。


 十月とは思えぬ暑さ。周は袖で汗を拭った。

 周のような家々を回る営業マンからすると、この時期の嫌な暑さは敵だ。

 無駄に汗だけが噴き出すから、スーツは辛い。

 周の娘もまた、汗をかいていた。

 だがそれは暑さのせいなのか、病気のせいなのかはわからない。


「もう少しだからな、もう少し我慢してくれよ」


 周はそう言って、バッグの底から見つけたハンカチで額の汗を拭いてやった。


 初めて足を踏み入れた小児科で受付を済ませ、周と都は名を呼ばれるのを待った。

 患者が多いため待ち時間を懸念していたが、受付が終わってから五分も経たぬうちに放送で名を呼ばれた。

 初めての小児科に戸惑う周と、初めて見る場所を怖がる都は手を繋いで診察室へ入った。


 そこには髪の薄い小児科医が待っていた。


「娘さんの嘔吐おうと……ということでよろしいですか?」

「はい、娘が初めて寝返りを打ったと思った途端……」

「……うん、心配しなくて大丈夫。ただの風邪だから」


 説明をしている間も都ののどや鼻を見ていた医者は、すぐにそう言った。


「たぶんこのあと熱が上がると思うけど、解熱剤出しておくからそれ飲ませて。これくらいの年齢の子はみんな、まだ抵抗力が弱いから。こういうことはたくさんあるよ」


 ただの風邪と言われ、周はほっと胸を撫でおろす。

 これからこういうことがたくさんあると思うと、不安感しかなかった。

 毎回騒ぐ気がしてならなかったからだった。

 水分を補給させ、その日はすぐに家に帰った。


 吐いて疲れたのか、都はチャイルドシートの上でぐっすり眠っていた。

 安心した周も、その穏やかな寝顔を見たら眠気に襲われた。

**次回更新……6/2くらいまでには必ず。1日に出来るよう、努力いたします。


~07/12 改稿完了

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