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煙草の煙に誘われて。  作者: 梅屋さくら
第四章 成長していく。
22/40

**4-2 悩んで、悩んで。

 りのとほのは先に帰ってしまったため、この日はみやこなぎだけで下校した。

 小学校の友達らも一時期、都たちと梛のことを冷やかしたりしていた。

 だがあまりの仲の良さに慣れてしまったようで、めっきり冷やかしはなくなった。

 だから二人きりで下校しても誰もなにも言わない。


 止まることを知らないように話し続けていた都が、突然ぴたっと止まった。


「どうしたの」


 梛が尋ねると、都は彼の肩に手を置いた。


「昨日、りのに告白されたでしょう」


 まるで梛の瞳から読み取ったかのように自分の悩んでいること、考えていることを当てられ、梛は素直に驚いた。

 都は人の表情や行動を見てなにがあったのかを予測することにけている。

 それは父であるあまねや、隣の家に住んでいる中村なかむらという女性をはじめ、大人と関わる機会が多かったことによって芽生えた能力かもしれない。

 都は、表現を変えるならば“顔色ばかり伺ってしまう”のであった。


「なんでわかったの⁉︎」

「……当たった?」


 にひひ、と意地悪そうな笑みを浮かべ、彼の顔を覗き込んだ。

 そこで思わず、“当たっている”と言うかのように驚いてしまった自分に気が付いた。

 はっと慌てて口を押さえる梛を見た都は、先ほどまでの意地悪そうな笑みとは打って変わって優しげな笑みを浮かべた。


「なにがあってそんなに悩んでいるのか、話してくれれば協力するよ」


 初めはりのに告白されたことを自分の口から言ってしまって良いのかと迷い、戸惑っていた梛であったが、そんな梛に都は微笑みかけた。

 その微笑みに引き出されるように、彼の口からするすると一日前に起きた出来事が流れ出した。

 チョコレートを渡されたこと、突然泣き出したこと、突然告白されたこと、そしてなにも言わずに帰ってしまったこと……すべて話した。

 梛がゆっくりと自らの頭を整理しながら話している間、都はうんうんと頷いて聞いていた。


 話し終えて都のほうをちらりと見た梛を、彼女はじっと見つめていた。

 これはじっくりと考えるときの彼女特有の癖なのだが、梛はそれに気が付いてはおらず、なぜ自分がじっと見られているのかわからなかった。

 “こんなことに悩んでいる自分を内心嘲笑(あざわら)っているのだろうか”……ネガティヴな梛はそんなことも考えたが、都はそんな人じゃない、そう信じてそんな考えはどこかへ放り投げた。

 梛が持ち前のネガティヴさを発揮していたとき、都が突然びくりと動いた。

 それと同時に梛もびくりと驚いて小さく叫んだ。

 考えることに没頭し終わったとき、なんの前触れもなく電流が走ったかのようにびくりと肩が動いてしまうのも彼女特有の癖であった。


「前からりのは私に相談していたんだ。告白する、ってことを」


 都もまたどこまで言って良いのか迷いつつ話し始めた。

 実は都たちも梛がいないとき“コイバナ”にはなを咲かせていたのだ。

 さらに小さいころは、梛も交えて四人でそんな話をしていたこともあった。


「さすがにりのが梛を好きになってからは四人でしなくなったけれど……りのが渡したチョコレート、本来はハート型で、キラキラしたデコレーションもされていたはずだよ」


 梛はあの日もらったチョコレート、いや、チョコレートの液体を思い出した。

 たしかに言われてみれば、液体の中に銀色をしたなにかが見えたような気がした。

 あれはアラザンだったのか……一日経ってやっと銀色の粒の謎が解けた。


「“一年生のときからの友達に告白したら、友達の関係が崩れちゃうんじゃないか”って悩んでいたみたい。今日何事もなかったかのように話していたのは、昨日の告白の返事よりも今と変わらない関係を大切にしたかったからだと思う」

「僕たちの親同士が仲が良いことも関係あるのかな……?」

「わからないけど、それもあるかもしれない。お母さんたち、みんな高校生のときからの友達なんでしょう?」

「うん、今でも親同士だけでもお互いの家に遊びに行ったりしているみたい」

「りのはたぶん……いろいろと考えすぎちゃうんだろうね」


 都がかろうじて聞こえるほど小さな声で言う。


 好きという恋愛感情に任せて突っ走ってしまうことはなく、“友達という関係なのに”、“親同士も学生時代からの友達だし”と彼女の中の限界まで悩んでから行動するのだ。

 りのは比較的明るくてなにも考えていないように見えて、実は彼女なりに悩みを抱え続けているのだった。

 そんなりのとは対照的にほののほうが悩んでいそうに見えて、勢いで乗り越えてしまおうという考えを持っている。

 双子といえど二人は他人に持たれる印象と実際の姿が反対だった。


 梛も都と同じく彼女らと小さいころから一緒にいたため、その性格は良く知っていた。

 りのはきっと昨日告白したことを後悔しているはずだし、悩んで悩んだ末に梛に告白しようと決めたはずだ。

 “彼女が告白をなかったことにしている、ということに甘えず、答えを出さなければならない、そうしなければ彼女の中で整理がつかないだろうから”……梛は決心した。


「りのが悩んだぶん、梛もいっぱい悩んであげてね。相談したかったら乗るから」

「うん……ありがとう」

「梛……」


 都が見た彼の瞳はまっすぐ前に向けられており、なぜだか目の黒い部分が大きくなったように思えた。

 その大きくなった黒目は、夕陽ゆうひを浴びて茶色に輝いていた。

 誤字脱字、疑問点などありましたら、感想欄またはメッセージにてお願いいたします。

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