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煙草の煙に誘われて。  作者: 梅屋さくら
第三章 悩み、進む。
19/40

**3-8 どうしたら良いの。

「りのちゃんとほのちゃんはね、“ふたご”なんだって。梛くんはね、女の子みたいに可愛い顔してるの!」

「そうか……」


 言いたいことがたくさんあるのだろう。

 みやこは口をせわしなく動かしている。

 それを聞いて相槌あいづちを打つあまねは微笑んでいた。

 新たな環境の中、新たな関係を築き上げるまでに時間がかかってしまうのではないか……そんな周の不安は必要のないものだった。


あいちゃんはお人形さんが好きで、良くお洋服作ってるんだって。弘士ひろしくんは車が好きで、写真いっぱい撮ってるんだって」

「ふうん……」


 止まらぬ都の話に、周はただ頷いていた。

 頷くことくらいしか出来ないほど、話に間がないからだった。

 周がなにも言わないことに気付くこともなく、目を輝かせ、新たな仲間のことを延々と話し続けていた。

 都のおしゃべりは夜までずっと続いた。


 クラスの中で当番決めなどをする日が数日続いたのち、ついに授業が始まった。

 国語、算数、生活。主にこの三つの教科がある。

 初めのほうは“勉強をする”ことに対する抵抗をなくすために隣の席同士パートナーとなって考える時間が多く取られた。

 “いちたすいち”がなぜ二になるのか……などについて自分の意見を述べるのだ。

 ケーキやドーナツの描かれたカードも含め、わかりやすい絵を使って意見交換が出来るので自分の意見を伝えやすい。

 都が自分の両手の人さし指を一本ずつ立てて言う。


「“いち”と“いち”、それをこうやって合わせると……」


 両手の指をくっつけて梛にぐいっと近付ける。


「ほら、二本になった!」


 梛は頷きながら顔をしかめて、都の指から目を遠ざけた。

 その動きはまるで老眼の老人のようだった。

 そんな梛はカードを使って説明する。


「都ちゃんとほぼ同じだけど……一個のケーキと一個のケーキ、このカードを並べると二個になる。一枚のカードをドーナツに変えても二個は変わらない」


 梛は賢い子供である。

 こういった説明のときも常に彼は理論的に話せている。

 単純でわかりやすい都の説明と、賢く理論的な梛の説明……この二人はお互いの意見に刺激を受け合っていた。

 都は男親にのみ育てられたので、小さいころから虫捕りを良くしていた。

 だから生活の中の生物分野では梛にもおとらぬ点数を取れるのだった。


 運動に関しては都のほうが得意だった。

 男子の中で走るのがかなり遅い梛に対して、都は女子の中で一番足が速かった。


「梛くん、遅い!」

「うるさいな、本気で走ってるよ」

「相変わらず都ちゃん速いよね、梛くん遅いよね」


 りのやほのよりも遅いので、四人で鬼ごっこするときはいつも梛が鬼のままなのだ。

 梛は意地悪を言われても笑顔で“うるさいな!”と言うだけの、穏やかな少年だった。


 日々楽しそうに学校へ行っていた都が、ある日梛を家に連れて来た。

 梛は泣き腫らした目で周を見た。


「ごめんなさい……」

「俺は大丈夫だけど、どうした? おじさんに話してくれるかな」


 ぺこりと礼儀正しくお辞儀じぎしたのち、赤い鼻をわずかに動かした。

 鼻水をすする音が止まらぬ彼に、周はティッシュを渡してやった。

 どうにか鼻水をすする音が止み、梛は話し始めた。


「りのちゃんとほのちゃんが、“はっきり言ってよ”って……」

「なにを?」

「ショートケーキとチョコレートケーキ、どっちが良い? って聞かれて、僕はどっちでも良いよ、って言ったの。そうしたらね」

「はっきり言ってよ、って言われたのか」


 ぐすんという音とともに、首を縦に振る。

 周が子供のころは、男子が女子に“はっきりしろ”と言って泣かせてしまったものだが……草食系男子なるシマウマのような男子が増加しているのか、その立場は逆転していた。

 最近は男女が立場逆転していることは知っていたが、いざ目の当たりにしたらなんだかショックだった。

 今は“男なんだから”、“女なんだから”と言うと男女差別だと言われてしまうのか、周はそんなことまで考えていた。

 大人しくて自分の意見を主張出来ない梛と、学校でも積極的に挙手して答えるりの、ほのは対照的なので、こういった喧嘩が勃発ぼっぱつするのもおかしくはない。


「僕は謝ったんだけど、二人とも怒っちゃってなにも聞いてくれなくて……」

「都も謝ったよ。でもだめだった」


 都が首を横に振る。

 なにをしても話を聞いてくれないりのとほのに困り果て、周に聞きに来たのだろう。


「うーん、そうだなあ。今二人はどこに?」

「わかば公園のドラム缶の中だと思う。二人はなにかあるとすぐあの中に入るから」


 “わかば公園のドラム缶”というのは、近所の公園にあるカラフルなドラム缶のことである。

 子供二人くらいは余裕で入れるくらいの大きさで、子供の隠れ場所としては最適な遊具だった。


「じゃあ行こうか」

「……わかば公園に?」

「うん、ほら、早く」


 薄手の上着を羽織って、周はすぐに公園へと出て行った。

 都と梛は顔を見合わせ、走って周の後ろをついて行った。

更新がこんなにも遅くなってしまい、申し訳ございません。

これからはまた今までのペースに戻る予定です。


 誤字脱字、疑問点などありましたら、感想欄またはメッセージにてお願いいたします。

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