異説桃太郎
桃から生まれた少年は
桃太郎と名付けられ、
流れで鬼退治に行くことになりました。
鬼たちは鬼ヶ島という島に住んでおり、
そこには
付近の村などを略奪したりして
集めた金銀財宝が
しこたまためこまれているという
もっぱらの噂でした。
もちろん、
金に目が眩んで
退治に行くのではありません。
鬼がいると村を略奪したりするから
この地方は栄えないのです。
鬼達と
うまいこと話しをつけて
鬼ヶ島および鬼を
県やら市の管理下で観光資源化するか、
鬼を殲滅してしまった上で
鬼ヶ島を第三セクターのなんやかやで
やっぱり観光地化したり
してしまおうという
地域活性化こそが目的なのでした。
鬼がため込んだ財宝
どころではない利権が
その裏には見え隠れしています。
その青写真を描いていたのは
地元6区選出の某国会議員と
その後援会幹部達でした。
水面下では既に
大手ゼネコンあたりによって
工事の入札を視野に入れた
熾烈な裏工作の応酬が
始まっていました。
桃太郎は
お婆さんに作ってもらった黍団子と
お爺さんに作ってもらった、
なんか、旗みたいなやつをもって
鬼ヶ島に向かいました。
ちなみに、
お爺さんもお婆さんも
後援会の一員でした。
途中、犬、猿、雉を黍団子で買収し
島を目指していた桃太郎ですが、
冷静に考えたら
数匹の鳥獣連れてったからって、
どうなる?
と不安になってきました。
しかしそういった素振りを
見せなかったため、
見た目上は
うまくいっているように見えました。
ククク、おまえらは捨て駒よ。
桃太郎は心の中でつぶやきます。
一日平均53回は
つぶやいているのでした。
犬と猿は
反目しあっていました。
まさに
犬猿の仲という諺どおり、
まるで仲良くしようとはしませんでした。
雉は表向きは
二匹の仲を取り持とうと
奔走しているふうでしたが、
まるで目が笑っておらず
怪しい匂いがぷんぷんしていました。
犬は、
猿も黍団子をもらったのが
許せません。
雉は、もらった黍団子を
「これ、よかったら先輩方でどうぞ」
と言って、
半分ずつ渡すなどと
なかなか
よくわかっているやつのようだ。
しかし、猿は許せん。
猿さえいなければ
俺の団子の取り分は増えるのに。
俺は猿よりも先輩だ。
猿だって俺に
団子を渡してもよかったはずだ。
それをなんだあいつは。
もらうなり丸呑みにしやがって。
しかも最近、猿は
ご主人に俺の悪い噂を
あることないこと吹き込んでいるようだ。
近いうちになんとかしないといけない。
そう考えていました。
猿は、鬼退治の裏に
既に金の気配を感じ取っていました。
考えの浅い犬や雉には
わかりかねるだろうが、
この件の成功報酬は
莫大なものに違いない。
そして、このお人好しの雇い主は
雉や犬にも成功報奨を与えるに違いない。
豚に真珠だ!
犬や雉だけど、奴らは豚だ!
豚以下だ!
俺の取り分を少しでも増やすべく
犬も雉もまとめて葬りたいところだが、
二人とも消しては怪しまれよう。
まずは何かと気に入らない犬からだ。
雉はまぁ、あとからどうとでもなる。
とにかくこの戦いにおいて
邪魔者を排除し、
さらには大手柄を立てて
雇い主の裏にいる大物への覚えを
めでたくしておかなければならない。
そういうようなことを企んでいました。
鬼ヶ島までは長い旅です。
しかし、桃太郎には
金に困っているような気配は
ありません。
雉は
桃太郎が
意外にたくさんの路銀を
隠しもっていることを悟り、
隙あらば
それを奪って
逃走しようと考えていました。
持ち出した金をつかって、
えっと、そうだなー、
団子屋のチェーン展開でもしようか。
犬や猿は一触即発だ。
しかし小さな諍いではつまらん。
もっと大きな争いに発展した時、
そのときこそ
どさくさに紛れ
金を盗んで逃げよう。
そんなことを考えていました。
各人各様の思いを秘め、
一行は鬼ヶ島をめざします。
まだまだ鬼ヶ島は
とおいのです。
つづく