次兄アレックスの場合
かさり、と枯れ葉を踏みしめる。
あいつが去った盛夏の名残はどこにもなく、乾いた音が胸を刺した。
目指した場所には、先客の影。さて兄王か弟か…そう考えつつ近づいてゆく。
父親譲りの癖のある赤毛頭は、足音に気付いて顔を上げた。
「…待ってたぞ、アレックス」
にやりと笑った顔が在りし日の父を思い起こさせる(そう言えば本人は複雑そうだが)、兄王ロイヤル。
「俺を待っていたのですか?」
うん、と一つ頷いて、兄は大きく体を伸ばした。熊みたいに大きな体躯は、それだけで威圧感がある。
「もうすぐスバーが逝って一月だろ。生真面目なお前は、きっとあいつとの思い出を辿るだろうと踏んだのさ」
弟アレックスはそれには応えず、またかさりと歩を進める。
そしてふっと空を見上げた。
「何だか、未だに信じられないよなぁ。確かに人間離れしたとこのあるやつだったけど」
兄ロイヤルも同じように空を見上げて呟く。
「俺には、ただの寂しがりの弟ですよ」
父があいつを疎んで排斥しようとしても、母と自分たち兄弟は断固として認めなかった。誰が何と言おうが、俺たちは家族だ。過去形にだってしたくはなかった。
「そうだな、俺にはお前も不器用で可愛い弟だよ」
そう言って、とても温かい笑みを浮かべた兄は、在りし日の父を彷彿とさせた。
あいつを巡る騒動を経て、急速に老いてゆく前の、家族の象徴だった父の表情だった。
「俺は親父を未だに赦してやれないが、お前が親父を忘れずに弔い続けてくれるのは、支えになってる。でも、そうしながらお前が苦しんでいるなら、俺は解放してやりたいよ」
こんな時、自分はやはりこの兄には適わないと強く感じる。
たった一つしか年齢は違わないが、兄は人間としての器が大きいのだ。(ただし極端にルーズな部分も内包しているが)
「兄さんは、」
俺を見くびっているのですか、と問おうとして。
ふと逝ってしまった弟の声が脳裏に蘇った。
『アレックス兄さんが大事だから、ロイヤル兄さんは不器用になるんですよ』
共に支え合って生きてきた兄弟で、今は国を背負う片腕でもある存在で。
ーーあぁ、そうか。
唐突にその意味が理解できて、アレックスは声を上げて笑い出す。
「な、何だよ。」
訝しむ兄の視線を受けて、ようやく息を整える。
「スバーの言っていた意味がようやく分かったんです。兄さんは俺がいないとダメなんですよね?」
すると兄は真顔で言い返した。
「何だよ、今更。当たり前じゃないか!」
むしろ今まで理解していなかったのが心外だとばかりに言う兄を見て、弟は決意を新たにする。
この兄が兄である限り、自分は支え続けてゆく。
逝ってしまった弟と、残された弟と共にーー。