月光妃の最期
それは孤独に負けそうになっていた、小さくて儚いだけの存在だった。
―どうしたの?
私がそう声をかけると、その子はびくりと空気を揺らした。
それからしばらく返事を待ってみたけれど、その子はただじっと動かない。
―ねぇ、うちの子になってみない?
口に出してみると、それはとても素晴らしい案だと思えた。
私はさっそく新しい家族を迎える日を思い浮かべて、くすくす笑みをこぼす。
あの方は喜んでくれるかしら。息子たちはどんな表情で迎えるのかしら。
その子はまだ淡く儚い光だけだったのに、私にはもう我が子だった。
そっと両手を広げて、いらっしゃい、と呼ぶ。
光は戸惑いながらもおずおずと近づいてきて、私は光をゆっくりと抱きしめる。
そうして私は三番目の息子となる金色の光を生んだ。
『お前も…お前までも俺を裏切るというのか』
彼の苦しげな瞳と低い声が今も忘れられないでいる。
今や建国の始祖王となった貴方は、数えきれない苦難を乗り越えてきた人。
その貴方が今切り捨てようとしているのは、私という存在そのもので。
―私はいつも貴方を信じているだけ。
だってあの子は私たちの家族だわ。かけがえのない息子の一人でしょう?
ロイヤルもアレックスもスバーもセイバも、みんな愛しい子どもたち。
それは父親である貴方にとっても同じことだと思っていたのに。
―でも、貴方はもう私を信じてはくれないのね。
心がすうっと冷えてゆくのを、他人事のように感じた。
それから王宮を後にした私を、再び導いたのは金色のあの子。
我が子スバーはあの時のように、所在なさげな表情で私の前に立っていた。
「王妃陛下、どうかお戻りください」
臣下となった我が子は、そう言って頭を垂れた。
「国王陛下は弱っていらっしゃる。此処で貴女様まで失っては…」
「…あなたを切り捨てる父を、まだ信じろというのですか」
私がそう返せば、何故か息子は穏やかに微笑んだ。
「もう十分です、陛下。ですから、どうか」
その言葉の続きも、込められた真意も、私はついに知ることはなかった。
追ってきた侍女があの人が倒れたとの知らせを運んできて。
―貴方がそのまま儚くなってしまうなんて、思いもしなかった。
キング、貴方は私たち家族の太陽だった。
だから息子に太陽神の化身がいたって不思議なんかじゃないのに。
貴方が太陽で、私は貴方に照らされる月だから。
貴方が逝ってしまうのなら、私ももう意味がなくなってしまうのよーー。