第六話 過去
少女の両親は島の人間ではなく、大陸都市の中心部から外れた工場で働いていた。
工場の近くのアパートを借り、マイホーム、マイカーを持つことを夢見た。都会でも、田舎でもない静かなところで小さく暮らしていた。
母親が二十代後半のとき少女は生まれた。母親に似た小さな女の子は大切に大切に育てられた。
近所には子供は少なく、公園も小さかったが、少女は母がいるだけでどんなことをしていても楽しかった。
少女が3歳になると、母親は再び働き始め、保育所に預けられた。
その頃、人工知能に感情を与える研究が成功し、アンドロイドが人と全く変わらなくなった。
一般販売が始まると両親の働く工場もアンドロイドの部品を作り始めた。
アンドロイドは皆が欲しがり、需要に供給が追い付かなくなっていた。残業が増え、少女は夜遅くまで保育所に預けられていた。
人型、犬型、猫型様々なアンドロイドが発売された。街でも見た目にはわからないが、アンドロイドが増えていった。
アンドロイドに家事をさせる人、アンドロイドに仕事をさせる人、アンドロイドに子供を世話させるされる人さえいた。少女の両親もその一人であった。
アンドロイドが家に初めて来たのは多分4歳の時だろう。母にそっくりなアンドロイドは母と見分けがつかなかった。
しかし、その頃から母は常に笑顔であったので、アンドロイドだったんではないかと思う。
父はほとんど家に帰ってくることはなかった。
毎日同じ時間に保育所に行き、同じ時間に保育所に迎えに来た。家では常に横にいて、仮面を被ったように笑顔だった。
大好きな母がずっと一緒にいてくれて、とても嬉しかったのをよく覚えている。
それでもいつからか違和感を感じ始めた。私が皿を割ってしまったとき、母は表情を変えずに微笑んでいた。その顔に意思はなく幼心にえもいわれぬ恐怖を感じた。
アンドロイドは感情を手に入れたが、プログラムされたことには絶対に従う。母は私を叱らないようにプログラムしたのだろう。
恐怖は少しずつ積み重なり、小学二年生のときついに家出をした。
少しずつ貯めていたお小遣いを小さな熊のワッペンのついた財布に入れて家を出た。
その頃にはアンドロイドが横にいることもほとんどなかったので、簡単に家を出ることができた。
固い意思をもって家出をしたはずなのに、電車に乗るために街灯の少ない路地を歩いているときはくじけそうになった。ほとんど乗ったことのない電車に乗り、繁華街に向かった。