第五話 アイリス再び
少女は止まり木に向かった。
蔦で覆われた階段はすっかり秋色に染まっている。階段を横目に止まり木のある広場へ足を向けた。
止まり木のもとまで来たとき、まだアイリスは島には来ていなかった。アイリスのことを想うと鼓動が早くなった。
この1ヶ月想い続けたアイリス。アイリスに会えば、罪悪感や、嫌悪感、すべての負の感情を忘れることができる。
アイリスが来るのはいつも島で事件が起きたときだ。
突然少女の体は影に覆われた。強い羽風を感じ、少女は空を見上げた。真っ赤なワンピースに身を包んだ少女をアイリスは見つめた。
少女は何もせず、ただそこに佇んだ。アイリスは止まり木に止まった。
周りにはたくさんの人が集まっていたが、少女とアイリスはなおも見つめあっている。二人だけの世界が広がった。
アイリスを見つめていると、少年のことは脳内から消え失せていた。こうして罪は消え去り、明日から新しい家族が現れ、またいたいけな少女としての生活をするのだろう。
両親の記憶は霞がかり、少年との思い出さえ、もう鮮明には思い出せない。
少女はふと島に来る前のことを思い起こした。
まだ明瞭な記憶に安堵と恐怖を感じた。