第四話 知らせ
早朝、雨がちらつく街でけたたましいサイレントが鳴り響いた。
少女はまだ車の少ない大通りを歩く。薄暗い道を赤色灯が照らし出した。少女の頬が微かに赤に染まる。
視線をすれ違うパトカーに向けた。
ざっと5台といったところ。このサイレンを聞いたのは1ヶ月ぶりだろうか。何が起こったかは記憶に霧がかかったように霞んで思い出せない。必要のない記憶なのだろう。
少女は振り向くことなく、歩を進める。目的地はない。少女は赤に染まる指先に舌を絡ませる。
懐かしい鉄の味がした。
街に惨劇を知らせるニュースが広まったのは、その日の通勤ラッシュ前だった。テレビには暗い表情をした中年の男性アナウンサーと若い女性アナウンサーが写し出された。
川で刺殺体が発見されたという。淡々と伝えられる事件に現実感はない。
現場はこの島だが、怯えている人もいなければ、真剣にニュースに耳を傾ける人もいない。この事件はすぐに住民に忘れ去られ、立ち話の話題にさえならない。事件が起きて騒ぐのは部外者だ。この島ではよくある話。
少女はきつね色に焼き目のついたトーストをかじった。
軽快な音楽が流れ、ローカルニュース番組が始まった。リモコンを手に取り、テレビの電源を切った。
今日はアイリスが来るだろう。アイリスが来るのはいつも島で事件が起きたときだ。久しぶりにアイリスに会える。
期待に胸をふくらませた。
少女はトーストを食べ終わると、キッチンに行き、積み重なった食器が放置された流しに皿を置いた。部屋に皿と皿があたる音が鳴った。