第三話 心の闇
少女はすっかり日が落ちて、暗くなった細い路地を歩く。道を照らす電灯が頼りなく揺れる。
街はこの世界に自分しかいないのかも知れないと感じてしまうほど静寂に包まれていた。
いっそ本当に誰も居なくなればいい。
少女の心に生まれた闇はいつしかなくなる事を忘れ、少女もまた闇を求めた。本質的に少女を理解してくれる物は心の中に小さく息づく闇しかなかった。
いくら友達を作ろうとも、仲のいい家族関係を築こうとも結局は独りぼっちで死んでいく。楽しい時間を味わう程、人の愛を知る程に孤独は深く心を蝕み、色濃く影を落とす。
その事を少女は知っている。
薄暗い道の先に大きなマンションがある。ほぼ全ての家の窓にカーテンの隙間から広がる灯りが見える。
途端に少女は生を感じ、人の世界に引き戻られた。
マンションの前の蔦に覆われたコンクリートの階段をゆっくりとした速さで登る。階段の中央を仕切るように設置された手すりは錆びて所々茶色くなっている。
少女は手すりに手を乗せた。夜に冷やされた鉄の冷たさと錆びのざらついた感触に懐かしさを感じ、階段の登る足を止めた。振り向き完全に日が沈んだ漆黒の空を見上げ、そのまま階段の上から三段目に腰掛ける。
百段近いこの階段は朝の通勤ラッシュでさえ利用者は少なく、この時間は尚更少ない。
月の明かりは勿論、星も見えない空はまだ少女が闇に浸る事を許してくれているようだった。