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鳥の守る島  作者: aki
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第一話 巨大な鳥アイリス

 島に影が落とされた。突然、街は闇に包まれ、雑踏の中を歩いていた人々は立ち止まり、静まり返った。

 鳥が来た。

 人々は皆何かに操られたように空を見上げた。少女はそれにつられ、数秒遅れるように空を見上げる。そこには深紅の翼を動かす大きな鳥が飛んでいた。



 大陸から遠く離れたところに島はあった。

 国の中心部、大陸都市では自動車は空を飛び、人工知能が感受性を手に入れ、人類が人類だけで生きることをやめた。

 世界中の人々の頭を悩ませていた地球温暖化、温室効果ガスの問題は科学者たちの研究によりあっさりと解決された。

 それに伴い、次々と森は伐採され、姿を消していった。

 島の人々はそれを拒むように、昔ながらの鉄筋コンクリート建造物を作り、街の中心部には森を作った。時代に抗い島民は自然と共存することを望んだ。

 大陸都市では機械化が進み、人々の場所は着実に減っていた。

 場所をなくした人々は時代に逆らい自然化する島に居場所を求め、島の人口は年々増え続けた。

 役人が策を講じる頃には島民のおよそ八割を移住民が占めていた。

 島民は移住してきた人々を大きな文化の違いから外来種と揶揄した。外来種を減らすため、原住民の生活を守るという建前で今は移住を禁止している。


 数ヶ月に一度この島は闇に覆われる。雲に日が遮られたからでも、日が登らない訳でもない。

 赤い羽をもつ巨大な鳥が現れるのだ。

 皆が立ち止まり空を見上げる。箍が外れた観光客でさえ騒ぐのをやめ、鳥に見惚れる。人々は親しみを込めその鳥をアイリスと呼んだ。



 少女は国立図書館行きの少し錆び付いたバスから飛び降り、走り出した。

 交通量の多い大通りを抜け、蔦に覆われた階段をスカートが膨れるのも気にせず駆け上がる。立ち止まることなく、マンションの内階段もかけ上った。

「アイリスが来たよ」

 肩で息をしながら、勢いよく扉を開け放ち叫んだ。額に汗が光っている。

 壁に打ち付けられた扉もそのままに、少女は目を煌めかせ廊下を足早に歩む。

 リビングの木製のドアを開けると、部屋の中央にある黒革のソファーに少年は座っていた。

 薄手の少しシワのある白の半袖シャツに紺の半ズボンというラフは格好をしている。三人座れるソファーにもかかわらず膝を抱え、小さくなり、手には型の古い携帯ゲームを持っている。

「うるさい」

 少女の方は見ることなく、携帯ゲームに目を落としたまま少女を制した。

「ついにアイリスが来たんだ」

「前にも来たことがあっただろ」

「その時は、怖くてよく見れなかったから」

 半年前、島にアイリスが来た時、少女はアイリスのあまりの大きさに、この世のものとは思えなかった。

 丁度両親の休日が重なり、買い物に出かけようとしていた時だった。

 少女の視界は暗くなり、強い風を感じた。すぐ隣にいた母親が空を見上げた。少女は母親を追うように空を見上げた。

 そこには巨大な物体が空を覆っていた。少女は恐怖を覚え、その日はもう空を見れなかった。

 アイリスが去った後、母親にアイリスがこの島を守ってくれていることを聞いた。少女は未知の好奇心を刺激された。

 それから、毎日街の国立図書館に行き、アイリスについて書かれた本を読んだ。いつもアイリスのことを想い、この日を待ち望んでいた。

「アイリスが私の真上を飛んだの。風を感じた。羽根は赤かった。とても綺麗だった」

「知っている。小さい時に何度も観察した」

「アイリスを見に行こう」

 少女の細く華奢な腕が少年の腕を掴んだ。力強く引っ張られ、少年はよろける。少女は気にすることなく強引に部屋から出た。


 アイリスは、島民が数十年前に作った止り木にいた。太く大きな止り木はこの島のシンボルのようなものになっていた。

 今ならアイリスの近くまで行ける。

 少女は長い黒髪をなびかせ駆け出した。

 止り木は街の端、島が見渡せる場所にあった。止り木の周りには芝生が広がり、島民の憩いの場となっている。少女と少年が住むマンションの目と鼻の先にあった。

 止り木の下につくと、アイリスは羽根を広げ、飛び立とうと大きく翼を動かした。

 強い羽風が街を吹き抜ける。赤い翼は空を覆った。少女は乱れる息さえ忘れ、右手を空へ伸ばす。

「アイリス、いってしまうの」

 少女は島を離れ黄昏た太陽が反射してオレンジ色に光る海を飛ぶアイリスを見つめた。今までに感じたことのないような胸の高鳴りを感じた。


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