一章『ゆっくりと、廻りだした歯車』
「はぁっ!!」
アレンの剣が空気を斬る。敵が動かなくなったことを確認して、剣を収めた。
今倒したのは、クラムジーと呼ばれる中級モンスターだ。近頃このモンスターが村を荒らしているという噂を聞き、住処を探し当てたアレンはクラムジーの活動が最も鈍くなる昼間を狙って襲撃したのである。
狙い通り、アレンは怪我一つも無くクラムジー達を討伐出来た。
するとアレンは傍に置いていたバッグから薬のような液体が入った注射器を取り出し、横たわっているクラムジー数匹にそれらを注入した。
注射器の中に入っていた液体はアレン自身が調合したもので、防腐剤の役割を果たす。モンスターの中には毛や肉が高値で取引きされるものがあるため、腐らせずに市場へ持っていくことが大切になってくる。そのための薬品だったのだが、今回は別の用途に使われた。
死んだクラムジーを村に持って帰ること――――それがクエスト成功の条件だったのだ。
アレンは住民に理由を尋ねたが、「村を荒らしたモンスターを懲らしめるため」という、何とも言えない返答しか返ってこなかった。
「俺が倒したっていうのに、それ以上に何をするっていうんだ……?こいつらとっくに死んでるのに……」
ぶつぶつと呟きながら注射を打ち終えたアレンは、あらかじめ持って来ていた網の中に次々とクラムジーと入れ、それを肩に担いだ。
「さ、早く村に戻って宿に泊まらせてもらうか。流石にあれだけの数のモンスターを倒すと疲れるな……」
クエストを攻略し、依頼主から報酬を貰う。今までと全く同じ日常が続くと思っていた、そんなある日のこと。
彼に史上最悪で、最低な、最大の出来事が起こるまで、あと少し。