プロローグ Moon Cat
とある日の真夜中。ある宝石店にて事件は起こった。
――――事件10分前
「そろそろ上がりだ。嫌になるよな~。契約時には、朝~夕方までの勤務とか契約書に書いてあったはずなのによ~。いきなり、人手がなくなったから夜中の見回りお願いしますだもんな~。店長もひどいぜ。おかげで俺は日中睡魔と闘うはめになった。あぁ~休みほし~」
警備員の男は懐中電灯で廊下の床や壁を照らしながら日々の愚痴をこぼしていた。
「無駄口叩くなよ。まあ、いいじゃないか。ここ、それなりに有名な店で給料も朝~夕方だけで結構な額だったのに、それプラス数時間で給料もバカ見てぇに上がったしよ。他の奴らに比べたら俺達大金持ちだぞ?でもまぁ、ほんと、いきなりだったしさすがの俺も休みほしいわ~」
もう一人の警備員は注意しながらも話に乗ってきた。
「だよなぁ~。おし、残りあと一室。宝石管理室だけだな」
―――――パリン
「なぁ、なんか今ガラスの割れる音しなかったか?」
「ああ、確かに。宝石管理室のほうか??行ってみよう」
警備員の男たちはこれから見回りをするはずの宝石管理室を目指し走った。
(くっそ!何だってこんな真夜中にガラスの割れる音がするんだよ!!)
警備員の男は走りながら嫌な予感に冷や汗をかいていた。
「―――ハア、ハア、着いた。よし、開けるぞ」
――――バン!!
管理室の扉をあけるとまず目に入ったのは割れたガラスケースだった。
そのガラスケースの中に入っていたはずの宝石が無くなっていた。それは確か、店長が一番のお得意様にお出しすると言っていた当店で一番値の張る宝石だった。
「はぁ。これも違う・・・・・」
「「!!」」
警備員二人は声のした方向に目線を上げた。
そこには、少し上に設置された少し大きめな窓の縁に座り満月を背に、少女がガラスケースの中にあった宝石を月明かりに照らして眺めていた。
警備員は息をのんだ。その幻想的なシーンに。
少女のストレートの銀髪は月光に照らされ輝いているように見える。
そして、その手に持つ透き通るような赤紫色の宝石はより一層少女を幻想的に見せていた。
少女は銀色の髪をなびかせて窓の縁から舞い降りた。
逆光で少女の顔は見えなかったが唯一、金色のその目だけは確認できた。
着物の様な服装、銀の髪、金色の瞳。
警備員は知っていた。なにしろ最近日本のメディアを騒がしている人物だからだ。
「・・・Moon Cat?」
警備員の1人がぽつりとつぶやいた。
そう、いまこの日本中で話題を集めている怪盗だ。
日本人でMoon catの名を知らないのは赤子だけだろう。
一部だが、海外にもアイドル並みに人気がある。
「――――これ、貰って行くね」
「「・・・・へ?」」
凛とした奇麗な声音に警備員二人は聞き入ってた。
が、気がついた瞬間にはもう少女はいなかった。まるで消えたように一瞬でいなくなったのだ。夢でも見ていたのかと思うくらいに。
「なぁ。ここって確か俺たちが居なくても不審者や不法侵入者はすべて機械が察知するはずなんだが・・・・。何で反応しないんだ・・・?」
「俺が知るかよ。くそっ!!俺達明日どう言い訳すればいいんだよ!」
「事実を言うしかないだろ?あ~あ。多分、否、絶対くびだろうな。終わったな、俺の人生」
二人は脱力し床に座り込み顔を見合わせると乾いた笑いを浮かべた。
挿絵を描いて下さったアオジタトカゲ様、ありがとうございました!!
ここまでお読みいただきありがとうございます。