整形したい!
整形したい!
第一章 整形したい!
「整形したい!」
朝食のテーブルでそう言った瞬間、味噌汁の湯気が止まった気がした。
母の箸が空中で止まる。
「……は?」
「整形したいって言ってるの」
ヒナは逃げなかった。真正面から母を見た。
「この顔で、この先ずっと生きていくの無理なんだけど」
母はゆっくり箸を置いた。
「整形ったってね。あんたいくらかかると思ってるの」
「いくらでもいい」
即答だった。
「まず二重。あと顎。ちょっとシャクれてるでしょ。それ直して、鼻も高くしたい」
母はヒナの顔をじっと見た。
「……まあ、二重くらいならね」
一瞬、希望がよぎる。
「でもさ」
母は続けた。
「そんなにあちこち直したら、それ、もう元の顔じゃなくなるよ」
「それでもいい」
ヒナは迷わなかった。
「遺伝子には逆らえないじゃん。このままだと、いくら化粧してもブスコース確定なんだけど」
母の声が低くなる。
「それは失礼」
少しの沈黙。
「大人になって金貯めて、やりたきゃやればいいわよ。でもその前に」
母はヒナを見た。
「勉強しなさい。教養を身につけなさい。内面から美しくなるほうが、コスパいいわ」
ヒナは思わず笑った。
「女の人生は顔でしょ」
母は黙った。
「ママだってさ、美人だったら、あんな冴えないおっさんと結婚してないでしょ」
空気が止まる。
母は淡々と言った。
「その冴えないおっさんと出会ったから、あんたが生まれたんでしょ」
ヒナは何も言えなかった。
「文句言う暇があったら、感謝しなさい」
会話は終わった。
でも、ヒナの中では何一つ終わっていなかった。
第二章 女の人生は顔で決まる
高校に入って、ヒナは知ってしまった。
女の人生は、顔でだいたい決まる。
クラスで一番可愛いのはレイカだった。誰も否定しない。
男子は最初からレイカに優しい。重いものは自然と持たれるし、「おはよう」と言えば笑顔が返る。
ヒナが同じことをしても、世界は動かない。
仕様だ。
レイカは性格までいい。
「ヒナちゃん、英語のスピーチの班一緒だね」
「ヒナちゃん英語得意でしょ?よかった」
「一緒で嬉しい!」
悪意は一切ない。だから余計につらい。
整形に五百万円積んでも、レイカには届かないかもしれない。遺伝子には勝てない。
女の人生は、不平等だ。
第三章 私はこうしてみただけ
カホは、美人じゃない。でも彼氏がいた。
「私はこうしてみただけ」
そう言って、挨拶をする。聞き役に回る。誰にでも同じ態度を取る。
「やらない自分が一番嫌だから」
その言葉が、ヒナの中に残った。
ヒナは真似をし始めた。
挨拶する。話を聞く。皮膚科に行く。
世界は急に変わらない。でも、ゼロじゃなくなった。
第四章 小さな成功
クラスの男子に告白された。
人生で初めて。
断ったけれど、胸の奥に小さな灯りがともった。
ブスでも、告白される。
でも同時に思った。
ああ、私はこのレベルだと思われたんだ。
嬉しさと、がっかりが同時に来る。
第五章 無難な女
野上先輩と話すようになった。
ヒナは無難な女になった。
否定しない。空気を壊さない。聞き役に回る。
「ヒナって聞き上手だよね」
褒め言葉なのに、胸が痛んだ。
レイカは無意識に場を支配していた。
第六章 役割
野上先輩とレイカが付き合った。
ヒナはつなぎ役になった。
それでも、前より自分を嫌いじゃなかった。
一方でカホは疲れていた。
笑っているのに、楽しいか分からない。
第七章 終わらせる勇気
カホは別れを選んだ。
理由は曖昧だった。
「ちゃんと笑えてなかった」
それだけ。
レイカも捨てられた。
初めて、不完全になった。
ヒナも普通の男の子と付き合ったけれど、一番好きなのは野上先輩のままだった。
続かなかった。
第八章 悪くない
三人で歩いた。
「野上先輩、好きだった」
「クソだったけど、もう大丈夫」
カホは言った。
「彼氏探しやめる。ちゃんと好きな人見つけたい」
レイカは言った。
「しばらく男いい。三人で遊びたい」
ブスでいることは負けじゃなかった。
彼氏がいることは価値じゃなかった。
美人であることは勝ちじゃなかった。
女の人生はめんどくさい。
でも――
悪くない。




