ミラさんという少女
ミラさんというその女の子はいつから鏡の世界にいたのかわからないと言う
気が付いたらいたし、出る方法もわからない
そんなバカなと僕は思った。なにせ、僕は入るも出るも自由
でも試したら出られない。不思議なことこの上ない
なんとなく僕は彼女と会うようになった。
不思議な雰囲気に興味が出たのかもしれない。
もしくは暇つぶし?
「じゃあ、本当の世界には、たくさんの人たちがいるの?この大きな道を埋めつくすような?」
ミラさんは大げさに驚く。彼女なりに僕に合わせてくれてるのかも?
「そうだよ。日曜日…特定の日の日中はね。たくさんの人が歩くんだ。ホラ、あそこの店から、向こうのずっと先まで」
ミラさんはクスクスと笑う
「そんなわけないじゃない。きっとこの道はもっと大きなものが通るのよ。私、あそこで見たことがあるわ」
彼女が指さす先には広場に展示されている機関車があった。
「違うよ。あれが走ってるのは、線路って言ってね。こう…木と鉄が並んでいる場所を走るんだ」
「そんなこと、あるわけないわ。あんなに歩きづらいところ、走れるわけないもの」
「ね、この大きい絵って楽しいわね。外の世界ではきっと、代わり映えしない景色を変えるためにあるんだわ」
「広告のこと?これはここに描いてあるコレを買ってもらうためにあるのよ」
クスクスと笑う
「そんなことあるわけないわ。だって人間のほうが大きいでしょ?」
手を後ろに組み、右に左に髪を揺らしながらミラは歩く。
ゆらゆら揺れる髪を見て、僕はつい思ったことを口にした
「ねえ、ミラさん。髪の毛を切ってみる?」
「私、髪を切ってもらうのって初めて!誰かに切ってもらうときはシーツ?を被るのね」
聞けばミラさんは自分で髪を切り、服に髪が入ってチリチリしたら捨てていたらしい
そのうちに痒さに我慢できなくなり、今は伸ばし放題の髪
「はいはい。動かないでね」
僕たちは美容院にいた。とはいえ、鏡の世界なので人は誰もいない。でも電気やガスは通っているはず。ハサミや櫛は控室にあったものを使う。
「お客様、今日はどんな感じにしますか?」
「えっとね、こんな感じ!」
ミラさんが示したのはファッション誌のモデルさん。ショートカットで、少し脱色した茶色髪
「僕にできるかな…」
女の子の髪なんて今まで切ったことがない。きっと、こんな機会が無ければ一生切ることもなかった。
「後ろはこんな感じになっております」
「痒いところはございませんか~?」
「お疲れ様でした。終了です」
ミラさんは鏡の中の自分をじっくり、じっくり見た。右から、左から。
5分たっぷりと見て言った。
「ありがと!あなたのおかげでとっても嬉しいな」
ニッコリ笑ったミラさんの笑顔に僕は…
僕はすっかり心を奪われた。




