異世界恋愛「ざまぁ」短編集 ~不遇令嬢と、彼女を見抜く最強の理解者~
無能な悪役令嬢と「呪い」の魔眼 ~偽りの聖女に婚約破棄されましたが、私を唯一見守ってくれた冷徹騎士団長と辺境で幸せになります~
シャンデリアの光が降り注ぐ、王城の大広間。
今宵は、隣国からの賓客をもてなすための夜会が開かれていた。
きらびやかなドレスをまとった貴婦人たち。 一分の隙もなく仕立てられた礼服を纏う貴族たち。 誰もが楽し気にグラスを傾け、洗練された会話に花を咲かせている。
だが、その華やかな輪の中心から少し離れたテラスの入り口。 私、イザベラ・フォン・アルトハイムは、壁の染みになることを選び、息を潜めていた。
アルトハイム公爵家の長女。 そして、この国の王太子オズワルド殿下の、公的な婚約者。
それが私の立場だ。
(……聞こえる)
周囲の喧騒に混じり、私へと向けられる囁き声が耳に届く。
「ご覧になって。あの方、また一人ですわ」
「『呪われた悪役令嬢』ですもの。当然よ」
「婚約者であるオズワルド殿下も、最近はすっかり聖女リリアン様にご執心ですわね」
「あの魔眼で見つめられたら、誰だって不気味ですもの」
ひそひそとした声。 隠そうともしない侮蔑の視線。
私の左目には、生まれつき【呪いの魔眼】が宿っている。
魔力の流れを、その色と形で視覚化し、そこに込められた「害意」を感知する力。 この力は幼い頃から「不吉」と忌み嫌われ、実の家族からさえ疎まれてきた。
だから私は、この力を隠すために仮面を被る。
感情を殺し、「無能で冷淡な令嬢」を演じ続ける。 それが、この息苦しい宮廷で生き抜くための、私なりの処世術だった。
(ああ、また……)
私の魔眼が、ひときわ強い光の集まりを捉える。 夜会の主役である、婚約者のオズワルド殿下だ。
彼は、私のことなど視界に入っていないかのように、隣に立つ一人の少女に熱心に話しかけている。
少女の名は、リリアン。 最近どこからか現れ、「癒やしの奇跡」を起こす聖女として、宮廷中の注目を集めている平民の娘。
「リリアン、君のおかげで父上の頭痛もすっかり良くなった。本当に感謝している」
「もったいないお言葉です、オズワルド殿下。私は、神の御心を代行しているにすぎませんから」
可憐に微笑むリリアン。 彼女が微笑むたび、周囲の貴族たちから賛美のため息が漏れる。
だが、私の魔眼には、まったく別の光景が視えていた。
(……「癒やし」ですって?)
リリアンの体からは、清らかな聖属性の魔力など出ていない。 彼女がやっているのは、周囲の人々(特にオズワルド殿下)から微弱な魔力を吸収し、それを増幅させ、対象者の体調不良を一時的に「上書き」しているだけ。
まごうことなき「欺瞞」の力。 だが、その流れは巧妙に隠されており、魔術師でも見抜くのは困難だろう。
オズワルド殿下は、その欺瞞の光に魅入られたように、恍惚とした表情を浮かべている。
(……馬鹿馬鹿しい)
真実を告げたところで、どうなるというのか。 「呪われた悪役令嬢」の戯言と、「奇跡の聖女」の言葉。 どちらが信じられるかなど、火を見るより明らかだ。
波風を立てれば、面倒なのは私。 私はただ、この婚約が円満に(あるいは、できるだけ穏便に)解消される日を待つだけだ。
そうやって無感動に夜会をやり過ごそうとしていた、その時。
「――イザベラ嬢。このような場所でお一人とは、お寂しいのではないですか?」
背後から、滑るように柔らかな声がかけられた。
この声の主は、振り返るまでもない。 ユーリウス・フォン・キルヒアイス。 公爵家の分家筋にあたる嫡男で、オズワルド殿下の側近を務める美青年。
「ユーリウス様」
私は仮面を貼り付けたまま、彼にカーテシーを捧げる。
「ごきげんよう」
「ごきげんよう。……相変わらず、美しい佇まいだ。だが、その瞳には憂いが見える」
ユーリウスは、芝居がかった仕草で私の手を取り、その甲に口づけを落とそうとする。
私は、彼が触れる寸前に、そっと手を引いた。
「お戯れを」
「はは、つれないな。だが、それも君の魅力だ」
彼は表向き、「慈悲深い聖人」として宮廷で称賛されている。 王太子を盲信し、その影として完璧に振る舞う理想の側近。
そして、この宮廷で唯一、私に「優しく」接してくれる男。
「オズワルド殿下も、聖女リリアン殿には夢中のご様子。君の孤独は、この私だけが知っている」
彼は甘く囁きながら、私をテラスの暗がりへと誘おうとする。
(……始まった)
私の魔眼は、この男の本性も正確に捉えていた。 彼の言葉と共に流れ込んでくる魔力は、粘つくような、暗い紫色の光。
「歪んだ支配欲」の色だ。
彼は王太子を盲信しているがゆえに、王太子に相応しくないとされる私を心の底で軽蔑している。 彼が望んでいるのは、「救済」ではない。
私がこの仕打ちに耐えきれず、婚約破棄され、絶望の底に落ちた瞬間。 その時に「唯一の理解者」として手を差し伸べ、私という公爵令嬢を精神的に支配し、自分に縋らせること。
それが彼の待ち望むカタルシスだ。
(……本当に、反吐が出る)
私は内心の激情を完璧に押し殺し、冷淡なまでの無表情で彼を見つめ返す。
「ユーリウス様。私は公爵令嬢として、殿下の婚約者として、あるべき場所にいるだけです。お心遣いには及びませんわ」
「……そうか。それもまた、君らしい」
ユーリウスは一瞬だけ目を細めたが、すぐに完璧な「聖人」の笑みに戻った。
「だが、覚えておいてほしい。君が本当に助けが必要になった時、手を差し伸べられるのは、この私だけだということを」
そう言い残し、彼は優雅に一礼すると、オズワルド殿下の輪へと戻っていった。
(助け、ですって……)
あなたこそが、私の孤立を画策し、リリアンを連れてきた張本人だというのに。 私はテラスの柱に身を寄せ、冷たい大理石に火照った額を押し付けた。
この息苦しい宮廷。 欺瞞と悪意に満ちた魔力の渦。
私はいつまで、この「無能な悪役令嬢」を演じ続ければならないのだろうか。
◇◇◇
その頃、夜会を遠く離れた王太子の執務室では、二人の男が対峙していた。
「――呼んだか、殿下」
低い、感情の読めない声を発したのは、ギデオン・シュヴァルツ。 王太子直属の特務騎士団長。
平民の出身でありながら、その卓越した剣技と冷徹なまでの任務遂行能力で、異例の出世を遂げた男。 宮廷では「冷徹な王の猟犬」と噂され、貴族たちからは畏怖と侮蔑の目で見られている。
「うむ。ギデオン、お前に頼みたいことがある」
王太子オズワルドは、夜会を中座し、不機嫌そうに執務椅子の背もたれに体を預けていた。
「イザベラのことだ」
「……アルトハイム公爵令嬢、でありますか」
ギデオンの黒い瞳が、わずかに揺れる。
「そうだ。あの『呪われた女』だ」
オズワルドは、忌々し気に舌打ちをした。
「近頃、どうにも様子がおかしい。私がリリアンを側に置いていることへの当てつけか、以前にも増して冷淡で、何を考えているか分からん」
「……」
「ユーリウスは『彼女も孤独なのだ』と庇うがな。私には、あの女が何か不吉なことを企んでいるようにしか思えん」
オズワルドは机を叩く。
「リリアンに何かあってはならん。……ギデオン」
「はっ」
「『王の猟犬』たるお前に命じる。イザベラ・フォン・アルトハイムを監視しろ」
「……監視、ですか」
「そうだ。あの女が『呪いの魔眼』で何を見ているのか。何を企んでいるのか。不穏な動きがあれば、即座に私に報告しろ」
それは、王太子の婚約者に対する命令としては、あまりに常軌を逸していた。 だが、ギデオンは表情一つ変えない。
彼はただ、軍人として完璧な敬礼を捧げた。
「――御意」
その日から、「冷徹な王の猟犬」による、「呪われた悪役令嬢」の静かな監視が始まった。
イザベラはまだ、その視線が、やがて自分にとって唯一の救いとなることなど、知る由もなかった。
◇◇◇
ギデオン・シュヴァルツによる「監視」は、その日の翌朝から開始された。
彼は「王の猟犬」として、その気配を完全に消し去る術を心得ている。 王城の梁の上、回廊の死角、庭園の木陰。 彼はイザベラ・フォン・アルトハイムの日常を、影となって淡々と追い続けた。
(……報告通りの令嬢だ)
ギデオンが最初に抱いた感想は、それだけだった。
イザベラは、王太子の婚約者としての務めを最低限こなしつつも、そのほとんどを図書室で過ごしていた。 誰とも会話せず、感情のない人形のように本を読むだけ。 時折、侍女たちから聞こえよがしな悪口を言われても、反応一つ返さない。
(『呪われた悪役令嬢』……か)
オズワルド殿下が懸念するような、不吉な企みの兆候はどこにも見当たらない。 ただひたすらに「無能で冷淡な令嬢」がそこにあるだけだ。
(監視、ね。殿下も存外、暇を持て余しておいでだ)
ギデオンがそう結論付けかけた、監視開始から三日目の昼下がり。 事件は、王城の中庭で起こった。
その日、イザベラは王太子妃教育の一環として、宮廷魔術師長から古代魔術史の講義を受けていた。
「……以上が、第三王朝における魔力紋様の変遷である。何か質問は?」
「……いいえ、特に」
イザベラは無感動に答える。 その態度が気に入らないのか、魔術師長は露骨に眉をひそめた。
彼はオズワルド殿下の側近であり、最近は聖女リリアンにも深く傾倒している男だ。 イザベラに対する視線には、隠しようのない敵意がこもっている。
(害意だ)
柱の影に潜むギデオンではなく、講義を受けるイザベラの【呪いの魔眼】が、その魔力の淀みを正確に捉えていた。
(この魔術師長……私を疎ましく思っているわね)
魔術師長の指先で、微弱な魔力が編まれていく。 それは、赤黒く濁った「呪詛」の光。
(……なるほど。私に軽い「失陥の呪い」をかけて、王太子の前で恥をかかせようという魂胆ね)
対象は、イザベラの目の前にあるインク瓶。 講義が終われば、私はこのインクで署名を求められる。 そのインクに呪詛を仕込み、私の手を滑らせ、重要な羊皮紙を汚させるつもりなのだろう。
(くだらない)
だが、ここで私が呪詛を指摘しても、「悪役令嬢の妄言」として一蹴されるだけだ。
イザベラは、動かない。 ただ、魔術師長が呪詛を完成させ、インク瓶に定着させる瞬間を待つ。
「……では、本日の講義録にサインを、イザベラ様」
魔術師長が、歪んだ笑みを隠しながら羊皮紙を差し出す。
イザベラは静かに立ち上がり、羽ペンを手に取った。 そして、呪詛の込められたインク瓶にペン先を浸そうと……した、その瞬間。
「あ」
イザベラは、まるで足を滑らせたかのように、わざとらしくバランスを崩した。
ガシャン、と。 彼女の手がテーブルの端にぶつかり、呪詛のインク瓶が床に落ちて派手に砕け散る。 黒いインクが、高価な絨毯の上に無残な染みを作った。
「なっ……!?」
魔術師長が息を飲む。
「申し訳ありません、魔術師長。どうやら少し、眩暈がしたようですわ」
イザベラは「無能な令嬢」の仮面を貼り付けたまま、悪びれもせずにそう言った。
「すぐに新しいインクを侍女に持ってこさせます。……ああ、でも、この絨毯はもう駄目ですわね」
「き、貴様……!」
呪詛の媒体を失い、怒りに震える魔術師長。 だが、イザベラはただの「過失」を装っている。これ以上、彼も追及のしようがなかった。
「……」
その一部始終を、ギデオンは柱の影から見ていた。
(……ただのドジ、か?)
いや、違う。 ギデオンは、イザベラの動きに違和感を覚えていた。 彼女がバランスを崩す直前、その視線は足元ではなく、インク瓶に一瞬だけ、鋭く注がれていた。
まるで、狙いを定めたかのように。
(……まさか)
ギデオンの脳裏に、王太子の言葉が蘇る。 『あの女が『呪いの魔眼』で何を見ているのか』
(あの女……見えていたのか? 魔術師長の呪詛が)
もしそうなら、今の行動は「過失」などではない。 あまりに鮮やかな、「賢者」の立ち回りだ。
ギデオンは、この「無能な悪役令嬢」への評価を、根本から改め始めた。
◇◇◇
ギデオンの疑念が確信に変わったのは、さらにその数日後。 王妃主催の茶会でのことだった。
今日の茶会には、聖女リリアンも主役の一人として招かれている。 そして、婚約者であるイザベラも、当然のように末席に座らされていた。
「まあ、リリアン様! そのお召し物、なんて可憐なんでしょう!」 「オズワルド殿下がお選びになったと伺いましたわ」
貴婦人たちが、リリアンを取り囲んで持て囃す。 その輪の中心で、ユーリウスが「聖人」の笑みを浮かべていた。
(……また始まった)
イザベラは、うんざりしながら紅茶を一口飲む。 彼女の魔眼には、ユーリウスとリリアンが交わす、粘つくような魔力の交感が視えていた。
(今日は何かしら)
ユーリウスの狙いは、イザベラの評判をさらに失墜させ、精神的に追い詰めること。 彼の「歪んだ救済」計画の一環だ。
やがて、侍女が新しい紅茶のポットを運んできた。 その給仕の役目は、なぜかイザベラに回ってきた。
「イザベラ嬢。あなたは殿下の婚約者なのですから、聖女様へ最初の一杯をお注ぎするのが筋ですわね?」
王妃の側近の貴婦人が、意地の悪い笑みでそう言った。 公爵令嬢に給仕をさせるなど、明らかな嫌がらせだ。
「……かしこまりました」
イザベラは感情を殺し、銀のポットを手に取る。 そして、リリアンの待つカップへと、紅茶を注ごうとした。
その瞬間。
(!)
リリアンの指先から、悪意に満ちた魔力が奔るのが視えた。 魔力はイザベラが持つ銀のポットに触れ、その温度を瞬時に沸点近くまで引き上げる。
(熱っ……!)
常人ならば、熱さに耐えきれずポットを落とし、聖女リリアンに熱湯を浴びせてしまうだろう。 それこそが、ユーリウスが仕組んだ「公の場での失敗の演出」だった。
(……させるものですか)
イザベラは、焼けるような熱さを左手で耐え抜く。 そして、魔眼でリリアンの害意を睨みつけながら、右手でカップを掴むと……
わざと、自分自身のドレスの膝へと、ポットの中身をぶちまけた。
「キャッ!?」
悲鳴を上げたのは、イザベラ自身ではなく、周囲の貴婦人たちだった。
「な、何を……!」
「申し訳ありません。手が滑ってしまいましたわ」
熱い紅茶が、高価なシルクのドレスを台無しにする。 じり、と太ももを焼く痛みに、イザベラは奥歯を噛み締めた。
「まあ、イザベラ様! なんてことを!」
「聖女様のお茶会を台無しにするなんて!」
貴婦人たちの非難が集中する。
「ああ、イザベラ嬢、大丈夫かい!?」
待ってましたとばかりに駆け寄ってくる、ユーリウス。
「火傷を……! すぐにリリアン、彼女に癒やしを!」
「はい、ユーリウス様!」
リリアンが「慈悲深い」顔でイザベラに触れようとする。
(お断りだわ)
他人の魔力を吸い取る、その汚れた手で触れさせなどしない。
「お構いなく。お見苦しいところをお見せしました。私はこれで失礼いたしますわ」
イザベラは誰の手も借りず、毅然と立ち上がった。 火傷の痛みなどおくびにも出さず、完璧なカーテシーを残して、その場を退出する。
残されたのは、イザベラの「無様」を嘲笑う貴族たちと、計画が中途半端に終わったことに不満げなユーリウス。 そして……
(……すべて、見抜いていた)
庭園のアーチの影。 ギデオン・シュヴァルツは、そのすべてを目撃していた。
リリアンが放った魔力の奔流。 イザベラがポットの熱さに耐え、咄嗟に自分へと被害を向けた自己犠牲。 そして、ユーリウスの歪んだ笑み。
(あの女……! あれほどの屈辱と痛みに耐えながら、一切の弱さも見せんかった)
ギデオンは、もはやイザベラを「監視対象」としてではな、「守るべき者」として認識していた。
◇◇◇
その日の夜、ギデオンは王太子の執務室を訪れていた。
「殿下。本日の茶会の一件ですが」
「ああ、聞いたぞ。あいつ、ついに聖女の前で失態を演じたそうだな。恥知らずめ」
オズワルドは、うんざりした顔で書類にサインをしている。
「殿下。あれは失態ではありま――」
「もういい!」
オズワルドがペンを叩きつけた。
「あの女の言い訳など聞きたくない! リリアンがどれほど心を痛めていたことか!」
「ユーリウスが、必死でイザベラを庇っていたぞ! それに引き換えお前は、猟犬のくせに何もしなかったそうだな!」
「……」
(……駄目だ。このお方は、もはや聖女リリアンとユーリウスの言葉しか耳に入らない)
ギデオンは、報告を呑み込んだ。 ここで真実を述べても、自分が王太子の不興を買い、監視任務から外されるだけだ。 そうなれば、イザベラを守る者がいなくなる。
「……申し訳ありません。引き続き、監視を徹底いたします」
「ふん。まあいい、下がれ」
執務室を退出したギデオンは、冷たい廊下を歩きながら決意を固める。
(王太子殿下があの状態では、報告は無意味)
ユーリウスとリリアン。 あの二人の陰謀を暴くには、決定的な証拠が必要だ。
(……「沈黙の守護者」か)
「王の猟犬」は、その日から、王太子のための「監視者」であることをやめた。 ただ一人、虐げられる「賢者」を守るため。 彼は己のすべてを使い、ユーリウスの陰謀を暴くための証拠集めを開始した。
◇◇◇
一方、自室で火傷の手当てを終えたイザベラは、窓辺に座り、月を眺めていた。
(……痛むわね)
ドレスの下の火傷が、じくじくと熱を持っている。 だが、それ以上に心が冷え切っていた。
(あの茶会での、皆の視線)
オズワルド殿下の侮蔑。 ユーリウスの歪んだ喜び。 貴婦人たちの嘲笑。
悪意と欺瞞に満ちた世界。
(……でも)
ふと、イザベラの脳裏に、一つの視線が蘇る。
茶会から退出する直前。 遠いアーチの影から、自分を見つめていた黒い瞳。
(ギデオン・シュヴァルツ様……)
「冷徹な王の猟犬」。 彼もまた、王太子の命令で私を「監視」していることは知っている。
だが、あの時の彼の視線は、他の誰とも違っていた。 そこには侮蔑も、嘲笑も、歪んだ喜びもなかった。
ただ、静かに。 私の行動の意図を……火傷の痛みを……そのすべてを正確に理解したかのような、「共感」の光が宿っていた。
(……あの人だけが)
この宮廷で、私の仮面の下にある真実に気づいている。
(あの人だけが、私を「視て」いる)
イザベラは、ドレスの下で小さく拳を握った。
孤独な「悪役令嬢」の心に、その日。 「沈黙の守護者」という、微かだが確かな光が灯ったのだった。
◇◇◇
数週間後。
ギデオンが陰でユーリウスの証拠を集め、イザベラが彼を心の支えにし始めた頃。
王国は、年に一度の「建国記念の式典」の日を迎えていた。
王城の最も格式高い「玉座の間」。 国王陛下の御前には、国の主だった貴族がすべて集結している。 イザベラも、オズワルド殿下の婚約者として、その末席に控えていた。
(……空気が重い)
式典は厳かに進行している。 だが、イザベラの【呪いの魔眼】には、この会場に渦巻く不穏な魔力の流れが視えていた。
(ユーリウス様と、リリアン様……)
二人は、玉座の間でもオズワルド殿下のすぐそばに侍っている。 彼らを中心に、粘つくような悪意の魔力が、まるで蜘蛛の巣のように張り巡らされていく。
(今日、何かを仕掛けてくる)
イザベラは直感していた。 ユーリウスの「歪んだ救済」計画。その総仕上げを、この公の場で、国王陛下の御前で行うつもりなのだと。
イザベラはそっと、広間の片隅に立つ黒い影に視線を送る。
(ギデオン様……)
彼は「王の猟犬」として、今日も警備の任についている。 イザベラの視線に気づいたのか、彼は微かに、本当に微かに頷いた。
(……大丈夫)
彼が見ている。 それだけが、イザベラの張り詰めそうな心を支えていた。
やがて、式典の最終段階。 聖女リリアンが国王陛下から「国の宝」として祝福を受ける儀式が始まった。
リリアンが、国王の前に進み出る。 彼女が手を差し出すと、オズワルド殿下が満面の笑みでその手を取った。
「聖女リリアン。君の『癒やしの奇跡』に、父上も国も救われている。ありがとう」
「もったいないお言葉です、オズワルド殿下」
誰もがその光景に微笑む、その瞬間だった。
「――キャアアアアアアッ!!」
甲高い悲鳴が、玉座の間に響き渡った。 リリアンが、まるで糸が切れた人形のように、その場にくずおれる。
「リリアン!?」
オズワルド殿下が狼狽して彼女を抱きかかえる。
「う……あ……」
リリアンは青ざめた顔で、ガタガタと震えながら、玉座の間の隅を指さした。
その指がまっすぐに捉えた先。 そこに立っていたのは――
「イザベラ、様が……」
リリアンは、か細い声でそう呟いた。
「イザベラ様が、私に……黒い、呪いを……!」
「な……!?」
すべての視線が、イザベラに突き刺さる。 貴族たちの賞賛の眼差しが、一瞬にして侮蔑と恐怖に変わった。
「イザベラ! 貴様、リリアンに何をした!!」
オズワルド殿下が、怒りに顔を歪めて叫ぶ。
「何も、しておりませんわ。殿下」
イザベラは、まだ「無能な令嬢」の仮面を貼り付けたまま、冷静に答えた。
「何を言うか! リリアンがこれほど苦しんでいるのだぞ!」
「落ち着いてください、オズワワルド殿下」
ここで、待っていましたとばかりにユーリウスが進み出た。 彼は苦悶のリリアンを抱きかかえ、その表情を悲痛に歪ませる。
「イザベラ嬢……! 君はついに、こんな公の場でまで……!」
彼は、まるで信じていた者に裏切られたかのように、イザベラを見て嘆いた。
「君の孤独は知っていた。君が聖女リリアン嬢に嫉妬していたことも、私は知っていた……!」
「ですが、これほどの罪を犯すとは……!」
ユーリウスの言葉は、集まった貴族たちに決定的な印象を与えた。
「ああ、やはり……」
「『呪われた悪役令嬢』が、聖女様に嫉妬して呪いを……」
「なんて恐ろしい……!」
イザベラは、四面楚歌だった。 国王陛下さえもが、険しい顔でイザベラを睨みつけている。
「イザベラ・フォン・アルトハイム!」
オズワルド殿下が、憎悪を込めて言い放つ。
「この場でリリアンに謝罪し、許しを乞え! さもなくば……!」
「謝罪は、いたしかねます」
イザベラの答えは、変わらなかった。
「事実無根のことで、謝る必要はございません」
「……っ、この、悪女め!」
オズワルド殿下の怒りが頂点に達する。
「もうたくさんだ! 貴様のような女は、私の婚約者として相応しくない!」
「イザベラ! 貴様との婚約は、ただ今をもって破棄する!!」
きた。 ついに、この言葉がきた。
貴族たちが息を飲む。 イザベラにとって、これ以上の屈辱はない。 公の場での、王太子からの婚約破棄宣言。
(……これで、終わり)
ユーリウスの計画は、ここで完成するはずだった。 イザベラは公爵令嬢の地位を失い、絶望の底に突き落とされる。
「お待ちください、オズワルド殿下!」
計画通り、ユーリウスが「救済者」の声を上げた。
「彼女は、可哀想な人なのです! 『呪いの魔眼』に心を蝕まれ、道を踏み外してしまった……!」
彼はイザベラに向き直り、慈悲に満ちた表情で、そっと手を差し伸べた。
「イザベラ嬢。もう、いいんだ」
「君の罪は、私が背負おう。私が君を更生させてみせる」
「さあ、私の手を取って。そして、すべてを告白するんだ。そうすれば、道は開ける……!」
ユーリウスの顔には、歪んだ喜びが浮かんでいる。
(さあ、縋れ!)
(絶望したお前が、この俺に「救済」を求めるんだ!)
彼の心の声が、魔眼を通じてイザベラに流れ込んでくる。
すべての視線がイザベラに集まる。 彼女が、差し伸べられたユーリウスの手を取るのか。 絶望に泣き崩れ、罪を認めるのか。
だが。
イザベラは、動かなかった。
彼女は、差し伸べられたユーリウスの手を、ただ冷たく見下ろしていた。
「……イザベラ嬢?」
ユーリウスが、怪訝な顔で彼女を呼ぶ。
次の瞬間。 イザベラは、ゆっくりと顔を上げた。
その表情は、もはや「無能な令嬢」のものではなかった。 貼り付けていた仮面は剥がれ落ち、そこには、すべてを見通す「賢者」の冷徹な眼差しがあった。
パシン、と。 乾いた音が、玉座の間に響き渡る。
イザベラは、ユーリウスの差し伸べた手を、強く、侮蔑を込めて払い除けていた。
「なっ……!?」
ユーリウスが、初めて狼狽の表情を見せる。
「……もう、その茶番は終わりになさいませ、ユーリウス様」
イザベラの声は、鈴が鳴るように、しかし氷のように冷たく響いた。
「イザベラ……? 貴様、何を……」
オズワルド殿下も、彼女の豹変に戸惑っている。
イザベラは、自分の左目を覆っていた前髪を、ゆっくりとかき上げた。 そこにある「呪われた」瞳を、初めて公の場に晒す。
「皆様は、私のこの眼を『呪いの魔眼』と呼び、忌み嫌っておられましたわね」
彼女は、玉座の間を見渡す。
「ですが、真実は違います」
「私のこの眼は、『呪い』などではありません」
イザベラは、苦しむリリアンと、彼女を操るユーリウスを真っ直ぐに指さした。
「この眼は、あなた方が視ようとしない、『真実』を視るための眼です!」
「何を……たわごとを……!」
ユーリウスが叫ぶ。
「たわごとですって? では、お見せしましょう」
イザベラは、そっと目を閉じた。
(……今まで、ありがとう。私の仮面)
(でも、もうあなたは必要ない)
彼女が再び目を開いた瞬間――
「――【破邪の祝福】、解放」
イザベラの左目から、眩いほどの白銀の光が迸った。 それは「呪い」などではない。 あまりに清らかで、神々しいほどの聖属性の魔力。
その光が玉座の間を照らし出すと、それまで誰の目にも視えなかった「魔力の流れ」が、可視化された。
「な、なんだ、あれは!?」
貴族たちが叫ぶ。
彼らの目に視えたのは、おぞましい光景だった。
苦しむ聖女リリアンの体から、黒い魔力が暴走するように溢れ出している。 そして、その黒い魔力の奔流が……一本の糸のように、ユーリウスの指先へと繋がっていたのだ。
「ああ……あああっ!」
リリアンが、ユーリウスの魔力誘導に耐えきれず、絶叫する。
「ユーリウス様……! もう、やめ……魔力が、私の体を喰っ……!」
「リリアン!? し、静まれ!」
ユーリウスが慌てて魔力を抑えようとするが、もはや遅い。 イザベラの【破邪の祝福】の光が、すべての欺瞞を白日の下に晒していた。
リリアンが「聖女」ではなかったこと。
彼女が他者の魔力を吸収し、暴走させていたこと。 そして、ユーリウスがその暴走を意図的に誘導し、「呪い」に見せかけ、イザベラを陥れようとしていたこと。
「そん、な……」
オズワルド殿下が、目の前の光景を信じられないという顔で、立ち尽くしている。
「これが、真実ですわ、殿下」
イザベラの白銀の光が、暴走するリリアンの黒い魔力を包み込んでいく。 それは、害意ある魔力だけを優しく「鎮静化」させる、真の聖属性の力。
【破邪の祝福】。
「呪われた悪役令嬢」が、この国で最も気高い「祝福」の使い手であったという事実が、すべての者の前で明らかになった瞬間だった。
◇◇◇
玉座の間は、静まり返っていた。
ほんの数分前までイザベラを「悪役令嬢」と罵っていた貴族たちは、目の前で可視化された「真実」を前に、言葉を失っている。
「そん、な……馬鹿な……」
王太子オズワルドが、力なくその場に膝をつく。 彼が「聖女」と信じた少女。 彼が「聖人」と信じた側近。 そのすべてが、自分を欺いていた。
そして、彼が「悪女」と断罪し、婚約破棄を突きつけた女こそが、本物の「祝福」の使い手だった。
「う……あ……」
聖女リリアンは、イザベラの【破邪の祝福】の光に包まれ、暴走していた黒い魔力を鎮静化させられ、ぐったりと床に倒れていた。 もはや彼女に害意はなく、ただ怯えたように小さく震えている。
「ユーリウス・フォン・キルヒアイス……!」
オズワルドが、憎悪を込めて側近の名を呼ぶ。
「き、貴様……! 私を、国を、騙していたのか!」
「ち、違……! 殿下、これは誤解です! あの女の『呪い』が見せている幻影に……!」
ユーリウスは、まだ見苦しく言い訳を重ねようとする。 だが、その言葉は、冷徹な声によって遮られた。
「――そこまでだ、ユーリウス公子」
コツ、コツ、と。 軍靴の音を響かせ、広間の片隅から歩み出てくる影が一つ。
ギデオン・シュヴァルツ。 「冷徹な王の猟犬」は、国王陛下の御前に進み出ると、無言で一つの羊皮紙の束を差し出した。
「……ギデオン。それは、なんだ」
国王が、絞り出すような声で問う。
「ユーリウス公子が、聖女リリアンを利用し、王太子殿下の寵愛を背景に宮廷魔術師たちを違法に束ねていた証拠」
「並びに、イザベラ様の評判を失墜させるため、数々の呪詛具や噂の流布を指示していた証拠文書のすべてであります」
「なっ……!?」
ユーリウスの顔から、血の気が引いていく。
「お、お前……! いつの間に……!」
「王太子殿下」
ギデオンは、血の気の引いたユーリウスには目もくれず、床に座り込むオズワルドに向き直った。
「貴方様より拝命した、イザベラ様の『監視任務』は、ただ今をもって終了いたします」
「……あ」
オズワルドが、呆然とギデオンを見上げる。
「監視……?」
「そうか、お前は……私の命令で……」
「はい。監視した結果、『シロ』であったとご報告申し上げます」
ギデオンの淡々とした報告が、オズワルドの心を抉る。 自分がどれほど愚かであったかを、彼は今、骨の髄まで理解していた。
「では、陛下」
ギデオンは国王に向き直り、完璧な騎士の礼を取る。
「ユーリウス・フォン・キルヒアイス公子を、王家に対する欺瞞と、国家転覆未遂の容疑で拘束することを具申します」
「並びに、聖女リリアンを、魔力暴走の被害者として保護することを具申します」
「……許可する」
国王の重い声が響く。 ギデオンの合図で、控えていた騎士たちがユーリウスの両腕を取り押さえた。
「よ、よせ! 離せ! 私は王太子の側近だぞ!」
「殿下! オズワルド殿下! 何とかおっしゃってください!」
ユーリウスが、かつての主人に助けを求める。 だが、オズワルドは、答えない。 いや、答えられなかった。
彼は、自分の愚かさの象徴であるユーリウスを見ることさえできず、ただ俯いていた。 「聖女」も「親友」も、そして「真実を見抜く婚約者」も。 彼は、そのすべてを、自らの手で失ったのだ。
ユーリウスの無様な叫び声が、玉座の間から遠ざかっていく。 「ざまぁ」と呼ぶには、あまりに静かで、決定的な終焉だった。
◇◇◇
すべての騒乱が終わり、貴族たちも退出させられた玉座の間。 そこには、国王と、オズワルド、そしてイザベラとギデオンだけが残されていた。
「……イザベラ嬢」
国王が、疲れた顔で口を開く。
「そなたには、まことに……すまないことをした。この国の王として、そなたの真価を見抜けなかったことを、謝罪する」
「お顔をお上げください、陛下。私は、何も」
「婚約の件は、白紙に戻そう。オズワルドに、もはやそなたの隣に立つ資格はない」
「……はい。謹んで、お受けいたします」
イザベラは、仮面を外した素顔で、静かに頷いた。 長年望んでいた「解放」が、ついに訪れたのだ。
「だが……」
国王は、複雑な表情で続けた。
「そなたのその【破邪の祝福】の力。国宝級のものだ。……このまま国元に帰すわけには、いかぬのだが」
国王の言葉は、暗に「国のためにその力を差し出せ」と要求していた。 王太子妃ではなくとも、別の王族に嫁がせるか、あるいは神殿に幽閉するか。 結局、自分は「力」のために、また別の籠に囚われるのか。
イザベラが、そっと唇を噛んだ、その時。
「――恐れながら、陛下」
それまで沈黙を守っていたギデオンが、一歩前に出た。
「な、なんだ、ギデオン」
「そのイザベラ様の御力ですが、王都ではなく、北の辺境でこそ必要とされております」
「北の辺境? あそこは魔物の領域で、今や……」
「はい。だからこそ、であります」
ギデオンは、まっすぐに国王を見つめた。
「この度、私、ギデオン・シュヴァルツは、北の辺境伯領の守護、並びに再建の任を拝命いたしました」
「なんと! お前が、あの死地へか!」
国王が驚きの声を上げる。
「北の地は、魔物の瘴気に満ちております。ですが、イザベラ様の【破邪の祝福】があれば、その瘴気を浄化し、土地を取り戻すことが可能かと」
「……」
「イザベラ様の力を『呪い』と呼んで虐げてきたこの王都よりも、その力を『祝福』として心から必要としている辺境こそが、彼女のいるべき場所と愚考いたします」
ギデオンの言葉は、理路整然としていた。 だが、それ以上に、彼の瞳には強い「意志」が宿っていた。
国王は、深く長い溜息をついた。
「……よかろう。イザベラ嬢の処遇は、お前に一任する」
「ただし、辺境伯領の守護、必ずや成し遂げよ」
「はっ。必ずや」
ギデオンは深く頭を下げた。
◇◇◇
玉座の間からの帰り道。 二人きりになった回廊で、イザベラはギデオンの少し後ろを歩いていた。
(……助けられた)
またしても、この人に。 「監視者」であったはずの、この人に。
「あの……ギデオン様」
イザベラが、おそるおそる声をかける。 ギデオンは立ち止まり、彼女に向き直った。
「先ほどは、ありがとうございました。辺境へのお誘いも……」
「……礼には及びません。俺は、俺の任務を果たしたまでです」
彼は相変わらず「冷徹な猟犬」のように無表情だ。
「ですが、本当に……私でよろしいのですか? 辺境の守護など、私には……」
「貴女でなければ、駄目なんです」
ギデオンの言葉は、静かだが、断定的だった。
「俺は、貴女のその『眼』と『祝福』の力を、誰よりも知っている」 「国の害意を見抜き、耐え忍び、そして最後には自ら立ち上がった貴女の強さを、知っている」
「……!」
イザベラは、息を飲んだ。 彼が「監視」していたのは、力だけではなかった。 自分の「心」ごと、彼は見守っていてくれたのだ。
ギデオンは、そこで初めて、ふっと表情を和らげた。 それは、ぎこちないが、確かな「微笑み」だった。
彼は、イザベラに向かって、騎士の礼ではなく、一人の男として、そっと手を差し伸べた。 あの日のユーリウスとは比べ物にならないほど、不器用だが、誠実な手。
「イザベラ様」
「俺は北の辺境伯領の守護を拝命しました」
「どうか、貴女のその力を、俺のために貸してはいただけませんか」
そして、彼はこう続けた。 今までの、そしてこれからのすべてを込めて。
「――俺の『となり』で、共に来てはいただけませんか」
(……ああ)
「となり」 それは、彼が王太子に命じられた「監視」任務の終わりと、 これからは自分の「隣」で、対等なパートナーとして生きてほしいという、二重の誓い。
イザベラの頬を、一筋の涙が伝った。 それは、屈辱や悲しみの涙ではない。 生まれて初めて感じる、温かい喜びの涙だった。
「……はい」
イザベラは、差し出されたギデオンの大きな手を、ためらうことなく、両手で強く握り返した。
「喜んで、あなたのお『となり』へ」
「呪われた悪役令嬢」は、婚約破棄という名の「支配」から解放された。
そして、唯一自分を「見守って」くれた沈黙の騎士と共に、辺境という新たな地へ、「自立」した幸福を求めて旅立つのだった。
――数年後。
北の辺境は、かつての瘴気が嘘のように浄化され、豊かな大地を取り戻していた。 人々は、その地を守る美しい銀髪の女性を「辺境の聖女」と呼び、 その隣で彼女を支え続ける黒髪の夫を「聖女の守護騎士」と呼んで、心から敬愛したという。
一方、王都では。 すべてを失ったオズワルドが王位を継ぐことはなく、彼の弟が次期国王として教育されることとなった。 「真実」を見抜けなかった王太子は、歴史の片隅へと消えていった。
それもまた、別の物語である。
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