バレバレ
午後5時過ぎ、黒髪で長身の、右腕にデカデカと『生徒会』や『風紀委員』と書かれた、2つの腕章をつけた精悍な顔つきの少年、永木道徳が街の表通りを、胸を張って姿勢よく歩いていた。
その背後を、気配を消しながら歩く1人の人物がいた。水野流である。永木の正体をその目で探るべく、彼を尾行している最中だった。頭の中では、先ほどの由香里の話が反芻していた。
ただの思い違いかもしれないが、もしも彼がくだんの事件の犯人だったとしたら…さて、どうするかな?
流が思い悩んでいると、小銭が大量に入ったアクリルボックスを持った胡散臭い男が、永木の側に近寄って言った。
「恵まれない子供たちに愛の手を〜!ほんの10円でも構いませんので…」
「10円だって?とんでもない!これを上げますので、どうぞ換金してください!」
そう言うと彼は最近購入したばかりのキラリと輝く腕時計を、何のためらいもなく男に渡した。
「あ…ありがとうございます〜!ヒヒッ!」
その様子を眺めながら、流はボソッと呟いた。
「少なくとも悪党には見えないがな…間違いなくアホ野郎ではあるが」
男はそれだけでは飽き足らず、媚びたようなニヤケ面で流にも話しかけて来た。
「恵まれない子供たちに愛の…」
「やかましい」
「おぶぇ」
流は男を邪険に押し退けた。
永木はやがて表通りを外れ、人気の無い住宅街に入ると、十字路をフラリと右に曲がった。
流が曲がり角から身を乗り出して覗き込むと、どこにも彼の姿は無い。
「ン…?どこ行った?確かにここを曲がったはずだが…」
そう言って電信柱を横切ろうとした瞬間、右足に何かが引っかかる感触がした。下に目をやると、そこに1本の糸が張られていた。
「これは…罠?」
突然、糸が足に巻き付くと、流は強烈な力で一瞬にして逆さ吊りにさせられた。
「うおっ…!?」
「フハハハ!無様な姿だな蛾男!」
威勢のいい声に視線を向けると、少し先に、2メートルを超える巨躯を持つ、蜘蛛のような頭部をした異形の怪人が、彼を見上げていた。
「蝶男の無念を晴らすため!そしてあのお方のため!お前を始末させてもらうぞ!このスパイダ…」
「まさかアンタ…生徒会長か!?」
「…違う!!生徒会長兼風紀…ゴホゴホッ!フン、何の話だ?」
その狼狽えぶりに、正体を完全に察した流は、風に吹かれた蓑虫の如く、ブラブラと揺れながら彼に言った。
「分かりやすい奴だな…!追跡はバレていたのか…。蛾男だと?一体何のことだ?それにあのお方って…」
「とぼけても無駄だ!さぁ、正体を現せ!!」
蜘蛛男…もとい永木道徳は、流目掛けて手の平から糸の塊を射出した。
「…チッ」
流は懐から護身用ナイフを取り出し、足に絡まった糸を切断してそれを危うげなく回避すると、猫のように空中でクルリと体勢を立て直して、地面に三点着地した。
「その身のこなし…やはり蛾男…なのか!?」
「いや半信半疑なのかよ…」
そうボヤきながら、流はナイフを構えながら立ち上がった。




