夜のお仕事
「今のは…?」
どうやら少年達には見えていないようだ。確かに彼の指先から糸のようなものが放たれたように見えたが…。気の所為だったのだろうか?それとも、まさかコイツも…?
流が考え込んでいると、アルファードが路肩に停車し、助手席の窓からサングラスをかけた運転手が甲高い怒鳴り声を上げた。
「危ねえだろボケェ!オメェらケガは無かったかァ!?」
「ええ、なんともありません。な?」
永木が尋ねると、少年は黙って頷いた。
「今度から気ィつけろォ!?チッ、コレで美味いもんでも食っとけェ!」
運転手は窓から1万円札を放り投げると、演歌を熱唱して法定速度を守りながら、安全運転で去っていった。バックドアには初心者マークが大量に貼られていた。
その後、少年達を見送ると、流は永木におもむろに話しかけた。
「…よく赤の他人のためにあそこまで出来たな。下手すりゃ死んじまうかもしれないってのに」
永木は彼の方に振り返ると、爽やかな表情で言った。
「ちょっと違うな、俺は自分のためにやってるんだ。ある人に近づきたくてね」
「ある人…?」
「ああ、幼い頃に変異者に襲われてるところを、蝶男に命を救われてね」
その言葉に、流はピクリと反応した。
「それ以来、彼のような立派な人物になりたいと思うようになったんだ。生徒会や風紀委員会に入ったのもそのためさ。まぁ、俺なんかがそんなふうに思うのは、おこがましいかもしれないがね」
柄にもなく謙遜する彼に、流は一拍置いて呟いた。
「…なれるかもしれないな、もしかしたら」
「ん?何か言ったか?」
「いや…別に」
永木は突然、ハッとした表情を浮かべると、みるみるうちにその顔が青ざめていった。
「し…しまった!そういえば今文無しだった!あっ!さっきの1万円は…!?」
「さっきのクソガキが持っていったぞ」
「クッソォ〜!流!お詫びの件だが、日を改めさせてくれるか?」
「…勝手にしてくれ」
流がそう投げやりに答えると、彼はまたたく間に元気を取り戻した。
「すまないな!それじゃあ俺はこれで失礼させてもらう、これからやる事があるからな。ではまた会おう!フッハハハ!」
永木はそう言って踵を返すと、高笑いしながら堂々とした足取りで、颯爽とその場を去った。
「フン、永木道徳か…また面倒なヤツが増えちまったな」
流はどこか満更でもなさそうな様子で呟いた。
その晩、とある一軒家の庭先で、1つの黒い影が怪しく蠢いていた。その正体は、薄汚い身なりをした、薄らハゲの中年男だった。
常習犯なのか、男は慣れた手つきで物音一つ立てずに、ベランダに干された洗濯物の中からパンティーをつかみ取ると、したり顔でズボンのポケットに押し込んだ。
…その時だった。
「…おい」
背後からの声に男が青くなりながら振り返ると、学ランに身を包んだ、頭部に八つの単眼と2つの鋭い鋏角を持つ蜘蛛のような姿をした怪人が、ブロック塀の上に腕を組んで仁王立ちしながら、男を見下ろしていた。
「へ…変異者!?」
「そう言うお前は変質者だな?この俺が成敗してやる」
次回、変異者vs 変質者!!ファイッ!!




