ナイスキャッチ
小さな一戸建ての家が延々と立ち並ぶ車通りの少ない住宅街を、1人の虚ろな瞳の少年が猫背気味に歩いていた。
両耳ではワイヤレスのイヤホンから、陰鬱な音楽が鳴り響いている。
少年、水野流は不意にパタリと歩みを止めると、振り返って後ろにいる人物に、苛立たしげに声をかけた。
「なぁ…!何で尾けて来るんだ!?」
背後にいた少女、吉見由香里は目を丸くしながら、どもり気味に答えた。
「えっ?い、家がこっちだからですけど…」
「……フン、そいつは失礼したね」
流はまた歩くのを再開した。
「あの〜今日はありがとうございました。あのカス共…じゃなかった、春日君達を追い払ってくれて…」
「…別に君を思ってやった訳じゃないんだがね、つーか口悪いな君」
素っ気ない口調でそう言うと、流はイヤホンを詰め直して、早歩きで歩を進めた。由香里はその後ろを、負けじとしつこく追ってきた。
「え〜と、もしよかったらですけど…これを期に私の王子…いや、お友達になってくれたりとか…」
「無理だな」
「ヒィ〜〜!!何でですかぁ〜!?やっぱり私がドドドブスだから…!」
即答されて半泣きになる由香里に、流は続けて言った。
「そうは言ってないが…これは君のためを思って言ってるんだぜ」
「え…どういう意味ですか?」
由香里の問いに、流は伏し目がちに告げた。
「僕は疫病神だからな、関わるとよくないことが起こるんだよ」
数秒間の沈黙の後、由香里はようやく口を開いた。
「そ…それって『俺に触れるとヤケドするぜ?』的なアレですか?」
「違う」
「めちゃくちゃ痺れました…!今のセリフ、メモっときます!」
「だから違うと言って…ん?」
流が思わず振り返ると、由香里は忽然と姿を消していた。呆然としていると、頭上から耳をつんざくような、甲高い悲鳴がとどろいた。
「ぎぃにぇぇぇぇぇ!!」
すかさず空を見上げると、4枚の翅と6本の手足を持つ、トンボのような姿をした怪人が由香里を抱えて飛び去っていくのが見えた。
流は舌打ちすると、吐き捨てるように言った。
「クソッ、言ってるそばからか…!」
一方、由香里を捕獲したトンボ男は、泣きわめく彼女を気にもとめずに、家々の上空を悠々自適に飛翔していた。
「食〜べちゃお!!頭から足の先まで食〜べちゃお!!」
「助けてェ!もっと美味しそうな人いるじゃないですか!!ホラ!あそこにいる女の人とか…あッ!?」
由香里は地上から猛スピードでまっすぐこちらに向かって飛んでくる、謎の黒い影を目撃した。その驚きの正体に、彼女はギョッと目を見開いた。
「えっ!?ガガガ…蛾男!?」
「…ハァ?うわっ!マジじゃねーか!おい!どうする!?どうする!?」
「ひぇぇ〜!どうしましょう!!」
時既に遅く、トンボ男は顔面に蛾男の渾身の一撃をお見舞いされ、脳味噌をぶち撒けながら遥か彼方へとぶっ飛んでいった。
「ほげええええええ」
そのまま蛾男は、真っ逆さまに落ちていく由香里を空中で華麗にキャッチして、地上へと優雅に降り立つと、彼女の顔を覗き込んだ。
由香里は失神から覚めたのか、ゆっくりと目を開けた。
「あれ?一体何が…ぎゃああああ!!ガクッ…」
蛾男の顔を見た途端、由香里は白目を剥いて再び気絶した。そんな彼女に、蛾男は小さく言った。
「…だから言っただろ」




