15年の人生
人の人生に「長い」も「短い」も、本当はないのかもしれない。
百年生きて、何も残らない人もいれば、数年しか生きなくても、確かな何かを誰かに残す人もいる。
けれど、彼の人生は、あまりにも早すぎた。
十五年しかなかった。
十五年しか、彼には許されなかった。
それでも、彼は確かに「生きた」。
誰よりも強く、静かに、まっすぐに。
この物語は、ひとりの少年が、人生の終わりを知ったとき、何を思い、何を残したのか。
その、たった十五年の軌跡を、静かに辿るものである。
俺の人生は、たった15年で幕を閉じるらしい。
医者が言った。「もう手遅れです。あと数週間、長くて一ヶ月でしょう」と。
母さんは泣いた。父さんは、黙ってどこかへ行った。それ以来、帰ってきていない。
俺は、ベッドの上から天井を見つめた。
クラスメイトからのメッセージは鳴り止まないけど、開く気になれない。
「奇跡を信じてるよ!」
「またサッカーやろうな!」
うるさい。そんなこと、全部ウソだって分かってる。
病室の窓から、空が見える。青い。雲が流れてる。
俺の時間も、たぶんこんな風に流れて、すぐ消えていく。
思い返せば、たいした人生じゃなかった。
勉強は並。運動も並。好きな子に告白できたこともなければ、家族でどこか遠くへ旅行した記憶もない。
ただ、静かに生きて、静かに終わる。それだけ。
でも、ひとつだけ、ちゃんとあった。
俺の「夢」。プロサッカー選手になって、でっかいスタジアムでゴールを決めること。
「来世に期待しなさい」
医者は冗談めかして言ったけど、俺は笑えなかった。
来世なんていらない。俺は、今、生きたかった。
最後の夜、母さんが寝てる間に、病室を抜け出した。
酸素マスクを着けたまま、点滴スタンドを引きずりながら、夜のグラウンドに立った。
星の下で、ボールを蹴る。ひとりで、ただ蹴る。
息が切れて、視界が滲んで、倒れた芝生は冷たかった。
「俺の人生、どうだった?」
誰も答えない。
でも、風が静かに頬を撫でた。
まるで、「よくやった」って言ってるみたいだった。
そのまま、俺の心臓は、止まった。
―15年の人生。短いけれど、たしかに、ここにあった。
この物語に目を通してくれたあなたへ、心からの感謝を。
「15年の人生」は、ふとした瞬間に心に浮かんだ、“もし自分があとわずかしか生きられなかったら”という想像から生まれた物語です。
そしてその問いに、まっすぐに向き合ってくれたのが、この物語の少年でした。
彼は、ごく普通の子です。
特別優れていたわけでもなく、誰かに注目される存在でもなかった。
けれど、彼には夢があって、望みがあって、誰よりも“生きたかった”。
その想いが、読んでくれたあなたの胸に、ほんの少しでも残ってくれていたら、
それだけで、この物語を書いた意味はあったのだと思います。
「生きる」というのは、苦しいことも、報われないことも、思うようにいかないことも多い。
でも、それでも一瞬だけでも「幸せだった」と言えたなら、
その人生は、たしかに意味があるんだと、私は信じています。
彼の15年が、空に散っていったとしても、
誰かの心の中で灯り続けるのなら、
彼の人生は、終わってなどいないのかもしれません。
ここまで読んでくれて、本当にありがとうございました。
また、どこかで。
──刹