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深夜2時、

 

〝恋愛とは作家が夜明け前、勢い任せで作る戯曲のようなものである〟


 うっかりしていた。まさかこの私が、今まで打算的な恋愛しかしてこなかった私が、小学生の時からの付き合いである、唯一無二の親友から「恋バナ」みたいなものを持ちかけられるとは。


 深夜のファーストフード店。注文したハンバーガー。そしてコーラが何となくだけれどいつにも増して存在感を増して私の目の前にある。


 「好きな人が出来た」と親友は私にそう告げると、注文された商品を取りにカウンターへ向かった。落ち着く為にコーラを一口飲んで少し考えてみてもいいのかもしれない。


「・・・氷の味がする」


 まあとりあえず考えようか。私たちは今年、大学生になったばかり。私の名前は美香みかそして親友の名前は里穂りほである。


 さっきも言った通り里穂とは生まれも育ちも同じで、何よりも家族ぐるみで付き合うような中で、本当の家族よりも家族のような関係である。だからこそというのもあるが。


でも、まあそうだよね、そういう時期でもある。好きな人が出来てそれで恋に落ちて付き合って、最終的に上手く行けば結婚・・・っていうのは別になんもおかしい話はない。


 事実、地元の友人なんかは既に結婚を予定している人もいるし、2個上の高校の先輩もつい最近結婚して子供も生まれた。


「これか!」


 よく恋愛系のゲームとか小説とかを読んだときに感じる「なんかおいてかれてるぞ、私」みたいな描写があるのを理解できなかったのだけれど、今理解できた。


 とはいうものの、実は私も高校時代に1年間だけ彼氏がいて、お付き合いをしたことが有る。相手は1年年下、そして部活の後輩。


私は中学の時、美術の授業で出会った「スクラッチアート」というものに感動した。このアートは、黒いスクラッチボードをニードルと言われるペンの形状をした針でガリガリとひっかいて絵を描いていくもの。


その「何かを描く」という感覚。普通なら白い紙に黒いペンで絵を描いたり、文字を描いたりするわけだが、このアートの場合、それよりも確かな音の高低差、手に伝わってくる振動なんかがある。それが私の心に心地よかったのかもしれない。


紙に何かを描くとは逆になる。黒が白へ、そしてその白が色んな絵になる。


 そして高校生になったとき、それまでやっていたバレーではなく、美術部に入った。


 目的はただ1つ。スクラッチアートをやることだった。


けれどこれは多分そんなに普遍的なことではない。美術部っていうのは多分きっとデッサンをしたり、彫刻をしたり。それを例えば絵のコンクールに出したり。そういうことをやるものだと思うのだけれど、出会った顧問の水沢先生は私にこう言った。


「スクラッチアートがやりたいです。ここでできますか?」


 先生はキョトンとした目をして私の方を見つめた。


「スクラッチアート・・・珍しいね。いいよ、好きなだけやりな」


 そういうとどこにあったのかスクラッチボードを段ボール一杯、私の目の間に置いてくれた。それから私はたった1人、放課後になると決まって黙々と削り続けることになる・・・ということもなく、同期や先輩の居る中でやり続けることになった。


 今思えば割と不思議な光景で、あの時の美術部員は自分の好きなことを好きなだけしていた気がする。おまけに特に指導も無く「自由にやれ」とだけ先生は言ってただ眺めているだけだった。


 そしてその彼氏になる後輩はそんな私が所属する美術部に入ってきた。


「・・・ねえ、話聞いてる?」


 やる気のなさそうなポテトをケチャップに付けながら里穂が話しかけてきた。


「ええ、ああ、うん」


 返したのは空返事。そうだった、私の初恋を振り返っている場合ではない。覚悟を決めて目の前に置いてあったハンバーガーの包み紙を開けて中身を取り出した。


「それで?誰なの、好きな人って言うのは」


「この間入ったサークルで出会った先輩」


「ふぅん」


 割とありがちな話である。上京した新生活。浮かれた気持ちであんまり興味がないサークルに顔を出して「さも興味があります、私、ここに入りたいです」っていう気分になってしまったのだろうか。


 早い話、里穂が入ったサークルは、軽音楽か何かをやったり、皆でキャンプをしたりするというあんまり目的の無い集まりで、どちらかというと遊ぶ人たちが集まるようなそんなとこ。


 小さい時から知っているのだけれど里穂はそういうタイプの人間じゃない。どちらかというと大人しく、ひっそりとしているそんな人。


「これが大学デビューというやつか?」


 独り言をつぶやいてハンバーガーを食べ始めた。


「でもね、その先輩実は彼女さんが居て・・・」


 という話をし始めた途端に私の興味が薄れてしまって、ここから先、里穂は多分1時間くらいしゃべっていたのかもしれないけれど、内容を全く覚えていない。



 里穂が恋をするというのは今までにもあった。けれどそういう時の相談相手は私ではなく、高校のクラスメイトに居た自称「恋愛の達人」である志保理しほりにしていたのである。


 というのもこれも考えれば至極真っ当なもので、そもそも私が恋愛に疎いなんて言うことは里穂が一番よく知っているわけで。数学が苦手な人に数学を教えて貰わないように恋愛をしたことが無い私に相談をしても意味がないことは分かり切っているから。


 それでも今こうして私に相談してきたのは上京して間もないから、仲の良い友人が私しかいないということと、実は1年間彼氏が居たという実績がそうさせたのだろう。


「いやね、里穂、全く分かんないよそんなこと。だって私そういう経験無いし」


 と会話をぶった切るわけにもいかず、私は「うん、そうだね」という相槌を100回以上繰り返すような会話を取り合えずキリ抜けようと頑張っていた。


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