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風船タクシー

作者: 岩田凌

終電に乗り遅れた僕は、書類が入ったショルダーバッグを片手にタクシー乗り場に向かった。


しかし、そこには電車を逃したであろう人たちが次々に乗ってしまい、一台もタクシーが止まっていなかった。


明日は初めて会議で発表するため、早くマンションに帰って練習しなければならない。


「どうしたものか……」


僕がその場で立ちずさんでいると、「そこの兄さんや」と誰かが声をかけてきた。


そこにはタクシー乗り場に何個か風船を持ったおじさんが手招きをしていた。


訝しげにおじさんへ近づくと、彼は僕に風船を渡してきた。


「……こんなところで何やってるんですか?」


「見ての通り風船を配っているんだよ」


「警察呼びますよ」


僕がスマホに手をかけると、おじさんは「こらこら、話はまだ終わっとらん!」と慌てた様子で言って風船を見上げる。


「これは風船タクシーと言ってな。三回紐を引っ張ると、頭に思い浮かんだ場所まですぐに運んでくれるんだ」


「聞いたことがありませんね」


「私が昨日完成させたばかりものだからね」


そう言うと、おじさんはもう一度僕に風船を渡してきた。


しばらく考えた結果、僕は仕方なく風船タクシーを使うことになった。


「お金は……」


「タダだよ。君が最初のお客さんだからね」


僕は心の中でだろうなと思いつつ、風船タクシーの紐を三回引っ張る。


僕の足が少しだけ浮いたかと思うと、あっという間に速度を上げて、気付けば空を飛んでいた。


まさかここまで飛ぶとは思いもしなかった僕は、あまりの高さに目をつぶる。


そろそろ到着しただろうか。僕は恐る恐る目を開ける。


「うわぁ……」


目の前には美しい満月が浮かんでいた。月を、夜空を見るなんて何年ぶりだろう。


しばらく見惚れていると、風船タクシーは急に下降し、僕が住むマンションの部屋のベランダに到着した。


自分が生きていることにほっと胸を撫で下ろすと、風船がみるみるとしぼんでいってしまった。どうやら風船タクシーは一個につき一度しか利用できないようだ。


もう使えない風船タクシーを持ち、夜空を見上げる。

僕の心は何故だかすっと軽くなった気がした。


後日、僕は風船タクシーを持っておじさんに声をかけた。


「乗り心地はどうだったかな?」


「いまいちです。まさか空まで行くとは思いもしませんでした」


「……空?」


おじさんはしぼんだ風船タクシーを見ながら、気まずそうに呟いた。


「多分不良品だな、それ……」

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