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52.南部へ


 ワープゲートでジルべに着くと、そこにはすでに皇室騎士団が待機していた。

 しかも第二騎士団のようだ。整列した騎士のなかから、いちばん身長の高い褐色の肌の男が出てくる。皇室第二騎士団団長のピーター・ロータスだ。


 ロータス家は南部の公爵家であり、四大公爵家のひとつとして数えられている。褐色の肌が特徴的な家系で、その昔に海の向こうからやってきた一族の末裔だとも云われている。純粋な帝国人ではないのを揶揄する人もいるが、ロータス家の男児は代々恵まれた体格と類まれなる剣術の才を持ち合わせていて、代々皇室騎士団で活躍している。現在の第二騎士団長のピーターは、ロータス家の長男で次期公爵だ。


 過ぎ去りし未来でも聖女になったばかりの頃はよくお世話になっていたけれど、いまは初対面。私はスカートの裾を掴もうとして、パンツスタイルだということに気づいた。聖女としての仕事をするのにドレスは動きにくいのよね。


「初めまして、聖女様。第二騎士団団長のピーター・ロータスと申します」


 私が挨拶をするよりも早く、ロータス卿がお辞儀をした。


「ラウラ・ボタニーアです。よろしくお願いしますね、ロータス卿」

「聖女様、僕に敬称は不要ですよ。どうぞ、ピーターとお呼びください。口調ももっと砕けたようにしていただけると助かります」

「わかったわ。よろしくね、ピーター」


 ピーターが顔を綻ばせると、無邪気な笑みとともに白い歯が垣間見える。過ぎ去りし未来と変わらない笑顔と挨拶に、私は懐かしい気持ちになっていた。

 現在皇室騎士団第二騎士団を率いるピーターは、これから一年後に騎士を引退することになる。腕に傷を負ったのと、父親の病死が原因だ。それからはロータス公爵としてほとんど南部で暮らしていたらしい。ピーターが騎士を引退してから一度も会ったことないから、詳しいことは知らないのだけれど。


「久しいな、ラウラ嬢。いや、聖女様」


 ピーターの後ろから現れた人物を見て顔が強張りそうになった。太陽のように明るい橙色を光に溶かしたような淡い金髪を女性のように伸ばした人物に、知り合いはひとりしかいない。アルベルト様だ。


「お久しぶりです、皇子殿下」

「聖女としての初の任務が疫病の対処とは大変だろうが、俺もできる限りサポートするから安心してくれ」

「ありがとうございます」


 アルベルト様がここにいるということは、カルロスお兄様もいるのかしら。

 首を巡らせてみると、並んで立っている騎士のなかにカルロスお兄様の姿を見つけた。そもそも第二騎士団の副団長と団員なのだからいて当たり前なのだけれど。


「このまま帝都に寄らず、南部に向かうのよね?」

「はい。聖女様の負担にならないように務めさせていただきます」

「そこまで気を遣わなくてもいいわ。それよりも早く南部に向かいましょう」


 私の言葉にピーターは驚いた顔をしたが、すぐに騎士たちに命令を下す。 


 第二騎士団に合流した私たちは、これから南部に赴くことになる。

 南部にもワープゲートのある街があるのでまずはそこに向かうことになる。その街も疫病が蔓延しているらしい。すでに規制がかかっていて、よっぽどの事情でもない限り使えないのだけれど、今回は聖女が訪問するということもあり特別に許可が出た。


「ゲートの向こうには先遣隊が待機しているはずです。まずは合流をして状況の報告を聞くことになるでしょう」

「わかったわ」

「連続のゲートの移動はつらいでしょうが、本当に大丈夫ですか?」


 心配そうなピーターの言葉に、私は頷く。


「私は平気よ。酔ったら回復魔法で治すわ」

「それは心強い」

「私も平気です」

「俺もあまり酔わないっすから」


 アリシアとエリックの返事に、ピーターが頷く。

 私たちは再びワープゲートのある建物に入ることになった。

 ジルべから南部までは、馬車で十日ほどの距離だ。北部ほど遠くはないけれど、私たちと皇室騎士団の人数は会わせると二十人ほどになる。今日は魔法士たちにとって、大変な一日になるかもしれない。



    ◇◆◇



 南部のワープゲートがある町キバナは貿易が盛んな港町だ。ロータス家の領地のひとつでもある。港町は多くの船が行き交ったり、多くの商人たちが暮らしている。

 普段は活気のある港町はどんよりとした空気で満ちていた。いつもの活気がなく、行き交う人々の顔色も悪い。港に泊まっている船も普段より少ないみたい。疫病が始まった地域とされているから当然かもしれない。


 キバナから始まったとされているだけあって、病人や死者の数も多いのだろう。早く治療に向かいたいけれど、まずは先遣隊の報告を聞くのが先だ。


「キバナの領主邸まで少し歩きますが、よろしいですか?」


 ピーターの言葉に返事をすると、私たちは歩き始めた。

 先遣隊は領主邸に滞在しているようだ。


「それと、すこし確認したいことがあるのですが……」

「なにかしら?」

「……先遣隊からの一報に気にかかっていることがありまして……。先にカルロスにも確認したのですが、念のために」


 少し困ったような顔で、ピーターは話を続ける。


「疫病が始まった時期の貿易船を調べていたところ、不審な人物が搭乗した記録が見つかったです。その不審な人物は一週間ほどキバナに滞在した後、帝都に向かったそうですが、病気の話を聞いてまたキバナに戻ってきたらしいのです」


 そこまで聞いて私は思い出していた。

 そういえば、過ぎ去りし未来でも同じような出来事があって、そこで久しぶりに再会(・・)したのよね。


「その不審人物は回復魔法が使えるみたいで、無償で平民たちの病を治療していたところを確保したのですが、その人物が名乗った名前が妙でして」

「……続けて」

「ユリウス・ボタニーアと名乗ったらしいんです」


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