表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生女騎士は、元殺し屋だけど殺さない!  作者: 卯崎瑛珠


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/18

11 ヒロインの真実



 王家所有の馬車はふかふかクッションで、腰が痛くならない。

 内装も豪華で、高そうな生地のカーテン。窓枠もおしゃれ。

 夢心地で、エミリアナは第一王子クロードの向かい側に座っている。

 隣に座れるのは、婚約者だけ――そう言われて頬を膨ませると、困った顔をして笑うクロード。そんな顔も綺麗だな、と見惚れている。


 もちろん、途中の宿での部屋も別々。

 お忍びとはいえ、王子であるクロードの所作は大変目立ったため、それぞれ部屋で適当なものを食べることにした。

 小さな頃から従ってくれているんだ、とにこにこと紹介された従者の青年が、全て手配してくれる。

 エミリアナは、きっとこれはゲームに出てこないけど、裏側で起こっていた出来事なのね! と自分を納得させ、小旅行を楽しんでいた。


「さあ、もうすぐジリー男爵領だね」

「はい。小さな村で、お恥ずかしいです」

「何を言う。君の育った場所だろう?」

「は……い」


 育った場所。


「どんな思い出があるんだい? 教えてくれないか」


 馬車の向かいの席で、にこにこと微笑むクロード。


「え」

「小さい頃、どこで遊んだとか、好きな食べ物はなんだったか、とか」


 にこにこ。にこにこ。


「教えて欲しいのだ」


 人形みたいに綺麗に上がった口角だなあ、とエミリアナはぼーっとクロードの整った顔を眺める。


「それとも、覚えていないのかい? いや、()()()()のかな」

「っ」


 ――知らない? ここの娘なのに? そんなわけ……


「かわいそうに」

「かわいそう?」

 

 眉尻を下げる第一王子は、そんな表情も麗しい。

 ヒイィィィン。


「着きました!」

 

 馬の(いなな)きと従者の声で、エミリアナの思考は止められ、


「さあ、行こうか」


 クロードのエスコートに、素直に従うしか、できなかった。

 



 ◇ ◇ ◇



 

「ま、まさか殿下自らお出でになるとは!」

 

 黒ひげをたくわえたジリー男爵が、ひたすら落ちてくる汗を白いハンカチで拭く、応接室。

 

 壁際には狩猟が趣味という男爵が捕らえたであろう獣の剥製(はくせい)が並び、だいぶ脚色された家族の肖像画がある。

 調度品には素材として金が多用されているため、窓から差す日の光を反射し――少し眩しいな、とクロードは眉をひそめた。

 窓を背に座る男爵の向かいにクロード、その隣の小さな椅子にエミリアナが座らされている。テーブルのお茶に、口をつける気にはならなかった――クロードの知らない茶葉の匂いがするからだ。

 

「国宝を手渡すなんてこと、人に依頼できないからね」


 クロードは手にある布袋を振って見せる。

 中でかちゃかちゃ、と石同士のぶつかる音がしている。

 

「っっ」

「家業、とはなにか説明してもらえるかな?」

「は?」

「援助するからには、詳細を知りたいのは当然だろう?」


 ジリー男爵は、ひたすら汗を拭っている。

 それを、ぼう、と眺めるエミリアナに、いつもの()()()()()は無い。


「それとも、強引にでもエミリアナに持って来させる気だったのかな」

「そ、んなことは……!」

 

 クロードは、ソファの背もたれに背を預けて、足を組み直した。これ以上ない尊大な態度に、ジリー男爵は丸々と太った体を縮める。汗が止まらない。

 ゆるやかな笑みを浮かべる第一王子から放たれる覇気が、これほどまでに恐ろしいものとは! と内心戦慄している。

 穏やかで明るく、王妃にそっくりな優しい気質と聞いていたからだ。


 ――虎の子は、虎だった……


 ジリー男爵は、歯ぎしりをする。

 使い込んだ税金を補填するために良くない金を借り、その利子が膨らみ、首が回らなくなったところで持ち掛けられた話に乗っただけだ。


 そう、言ってしまおうかという、その時。


「誤解ですわ、クロード様!」


 急に、エミリアナが立ち上がった。


「誤解?」

「はい! 最近我が領では不作が続いておりましたの。ですから、豊穣をもたらすとされる国宝をお借りしたかった。それだけですわ!」

「なるほどね。馬車から見たところ畑は青々としていたけど、何が不作なのかな?」

「……」


 エミリアナは押し黙り、ストンと落ちるように椅子に座る。まるで操り人形の糸が切れたかのように、表情すらも、失って。


「どうしたのかな? さすがに魔力切れかな?」


 ジリー男爵が、ワナワナと唇を震わせている。


「な、なんのことやら……」

「枢機卿から、相談を受けていたんだよ」

「!」

「ショルスの様子がおかしいと」

「それが一体、なんなのです!」

「エミリアナが本当に好きなのは、私ではない。ショルスだ――なのに、こんな(むご)いことをするなんてね」

「なんのお話ですかな!」


 ガタガタと、エミリアナが震え出した。


「もう、諦めなよ」

「っ!」


 ガシャン!


 動揺して思わず立ち上がった男爵の膝がテーブルに当たり、ティーカップが派手な音を立てた。

 

 その音を合図に――


「え? あ、私……」

 パチパチと目を何度か瞬きして、エミリアナは再び動き出した。

「あ! クロード様? あれ? こんなのシナリオにあったかな?」

「エミリアナ。出ておいで」

「え?」

「もう、良いよ」


 薄桃色のふわふわとした髪の毛、翠色の潤んだ瞳のヒロイン、エミリアナ・ジリー。


 彼女は。


「私が、誰にも貴女を傷つけさせないよ」



 ドタドタ、ドタドタ……



 にわかに、騒がしい音が近づいてきた。

「殿下! 危険です、お下がりください!」

「殿下っ」


 文字通り部屋に飛び込んできた、アレクサンドラとラウリ。ラウリが咄嗟にクロードの二の腕を引き、ソファから起こして背後に庇う。

 アレクサンドラが抜剣して眼前に大きく構えるや


「いやぁぁぁぁああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」


 エミリアナが、虚空を見上げて叫び出した。アレキサンドライトが、明滅している。

 

「魔力暴走だ――ラウリ、殿下を頼む」

「分かった」


 わたわたと出て行こうとするジリー男爵の、頬スレスレにナイフを放ち、その動きを止めた――男爵は、自身の前髪が何本か宙に舞ったその鋭さに、腰を抜かして床にへたり込む。


 やがて、()()()()が発動されたのが、ラウリにも分かった。

 部屋中を満たす魔力。何色ともいいがたい光の奔流。眼前で『奇跡』が起こっている――アレクサンドラは、初めてアレキサンドライトを使ったにもかかわらず――全てを見通し、知り、行使している。


「転生者の特殊スキル、ドッペルゲンガー。本物のエミリアナは、ストーカーの方だ。そうだろう?」


 アレクサンドラの冷たい声に応えるかのように、ゆうらり、とその存在が徐々に現われる。

 頬も、首も――肌という肌が傷だらけの、黒髪で骨ぎすの少女が、幽霊のようにエミリアナの背後に立っている。


「家畜のような扱いをして追い込んで、覚醒させたのか。悪魔の所業だな」

 

 ショルスに()()()を飛ばしてしまったのは、()()()()()の存在の、悲鳴のようなもの。


「ジリー男爵。私も転生者だ」

「な!」

「国宝は、私と(つい)でないと、無意味だよ」


 剣の柄頭で、黄色く明滅するアレキサンドライト。きっと自分の目も同じように瞬いているに違いない――だがアレクサンドラは、止まらない。


「さあ、全てを明かせ」


 剣を構えたまま、静かに、告げた。

 お読み頂き、ありがとうございました!

 本日の一殺:ジリー男爵の前髪

 理由:動くな!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ