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覚醒。かく、せい。目を覚ますこと。目が覚めること。
ええ、気がつかれたようですね。
何も見えませんか。身体も動かない。
でも、聞こえるでしょう?
私の声は聞こえているでしょう?
よかった。意識はあるのですね。
こうしましょう。
私の言葉に肯定するなら瞬き一つ、否定するなら瞬き二つ。
はい。よろしくお願いします。
どうして、と思われていますね?
あなたは半年の間、ずっと昏睡状態だったのです。
障碍が残るのも無理はないでしょう。
他の人達は皆、死んでしまいましたよ。
あの場で乾杯した人達は皆、死んでしまいました。
砒素の入った酒を呷って。
あなただけが、奇跡的に助かったのです。
覚えていませんか?
そうですか。無理もありません。
犯人は織笠湊という、嵯峨崎家でかつて働いていた家政婦だそうです。
この女は以前も、嵯峨崎更紗を誘拐しようとしたことがあるとかで。
前日に忍び込んで乾杯用の酒に毒を混ぜたのだと。
今は警察によって、全国に指名手配されています。
織笠湊、覚えていますか?
そう、ですか。
もしかして、嵯峨崎更紗のことも?
なるほど。
あなた、自分のことが分からないのですね?
自分自身のことが、誰なのか。
分かりました。
では、語りましょう。
そっと目を閉じて、ゆっくりと、私の一語一語から景色を想像しながら聞いてみて下さい。
語って語って語り尽くした頃には、きっと思い出すはずです。
あなたが何者なのか。あの日、何があったのか。
私はそう、信じます。