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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

転生聖女 ー悪役令嬢でしたが、転生して聖女見習いになりましたー

作者: 茜カナコ

『後悔先に立たず』とはよく言ったものだわ、と私は思った。


「それでは、悪事を尽くした令嬢ルネの処刑を行う!」

 処刑場に集まった人々が歓声を上げた。

「お待ちください! 王様、どうか御慈悲を!」

 聞いたことのある声だ。この声はきっと、私が陥れようとした令嬢マリスの声だ。

 もう少しで自分が殺されるところだったというのに、マリスはどこまでお人好しなのかしら。


「ならぬ! マリス様、貴方はルネ嬢のたくらみによって殺されるところだったのだぞ!?」

「でも、私は生きております」

 マリスは一生懸命、王に許しを求めている。私は惨めな気持ちでそれを眺めていた。

「マリスさん、私はもう覚悟ができております。余計な時間を使わないで頂きたいです」

「ルネ様……何か事情がお有りだったんでしょう? 今ならまだ間に合いますわ……」


「さあ! 首をはねよ!!」

 王の命令で死刑執行者の剣が振り上げられた。

 衝撃が走った。熱い痛みの中、意識が遠のく。

(ああ、私が愚かだった。何て空しい生涯だったのかしら……本当は私も、マリスさんのように清らかで優しい人間になりたかったのだわ……今更気付くなんて……。もし生まれ変われるのならば、次こそは……)


 そこで、私の意識は途切れた。


 ***


「貴方、大丈夫ですか? しっかりしてください!」

 誰かが、私を抱き起こし、頬を軽く叩いている。

 私が目を開けると、優しく抱きしめられた。

「よかった、目を開けてくださって」

 私は柔らかな声を聞きながら、ボンヤリとした意識の中で思った。

(あら? 死んだら地獄にいくとばかりおもっていたのに……。天使に抱きしめられているのかしら?)


 強い柑橘類の匂いで、私は正気を取り戻した。

「気付け薬です。目を覚ましてくださって良かったわ」

「貴方は……?」

 私は目の前で微笑んでいる年上の女性をじっと見つめた。

 その綺麗な女性は、綺麗で高価そうな衣を身にまとっている。

「聖女様、捨て子に触れてはいけません! どんな病を持っているか分かりませんよ!?」


 聖女、と呼ばれた女性はゆっくりと振り返ると、悲しそうな表情で言った。

「命に上下はありません。ジョイスさん、この子を綺麗にしてあげてください」

 ジョイスと呼ばれた若い男性は顔をしかめた。

「え!? いちいち気にしていたら、きりがありませんよ!?」

 ジョイスはウンザリした様子で言った。

「まったく……。ソーラ様は聖女とはいえ、慈悲深いにもほどがある。感謝しろ、お嬢ちゃん」


 私はその時、自分の手が小さくなっていることに気付いた。

「まだ、子どもですよ。一人でここで生きていたのですね……可哀想に」

「私、子どもではありません!」

 私は自分の声に驚いた。甲高い子どもの声だったからだ。

「あらあら、しっかりしたお嬢さんでしたね。失礼いたしました。」

 聖女ソーラは私に優しく話しかけてくれた。

「お名前を教えて頂けますか?」


「私の名前は……ネルです」

 昔の名前は名乗りたくなかったので、私はとっさに嘘をついてしまった。

「ネルさん、貴方これからもここで暮らすつもりですか?」

 聖女ソーラは心配そうに私の目を見つめている。

「あの……もしよろしければ、私を弟子にして下さい!!」

「図々しい子だな!」

 ジョイスが声を荒げた。


「ジョイス、やめなさい。……聖女見習いは大変なことも多いですが、その覚悟はありますか?」

「……はい」

 私をまっすぐに見つめた聖女ソーラは、静かに頷いた。

「分かりました。ジョイス、ネルさんを聖女見習いとして引き取りましょう」

「え!? こんな、みすぼらしい子を!?」 

 ソーラは微笑んでいった。

「この子の目の奥には、揺るぎない光が見えました」


「……聖女様がそういうのなら……分かりました」

「あ、ありがとうございます。聖女様」

 私の言葉を聞いて、ソーラは首を横に振って微笑んだ。

「聖女ではなく、ソーラで構いません」

「では、ソーラ様。これからよろしくお願い致します」

「こちらこそよろしくおねがいします。ネルさん」


 ジョイスは頭をかきながら、ため息をついた。

「まったく。運が良いよ、ネルちゃん。……聖女様に迷惑かけないようにね」

「はい!」

 

 こうして私は、新しい人生をやり直すことになった。

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