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セザール視点 2

 公子と別れ、カロを引き連れて執務へ入る。手を出すと、サッとカロが手紙の束が乗ったトレーを差し出した。


 どの差出人も、自分と関係があった夫人や令嬢とは笑える。


「オイ、徹底的に調べ上げて警告しておけ」


 カロは足早に執務室から出ていった。


 ケースからシガーを一つ取り出して、先を切りマッチで火をつける。被人道的と言われるユードンマン・ローヘン工場で作られている、白リンが主原料のマッチだ。このマッチを製造する過程で大きな人的被害が出てはいるが、火打石の生活に戻るなど到底無理であろう。ジッポはその本体もさることながらのオイルもそうそう購入できる金額でない為、裕福な平民はおろか並の貴族ですら手に入らない。


 必要悪という言葉が脳裏をよぎる。


 まあ、だから、暴動が起きないのだろうがな...


 そのユードンマン・ローヘン工場を管理しているのが、ベロード伯。王国の財源の源を管理しているのだから、伯爵とはいえ、軽視できない。その娘も手紙を送って来たのか。


 手紙の宛名を確認する。ふーん、アルベル伯夫人、カルエール男爵令嬢がアルベル伯と結婚したと知らせがあったな。


 アルベル伯は少し厄介だな、彼と敵対すると面倒なことになる。彼の商団は砂漠の往路を生業としている。我が公国と王国を繋ぐ役割を担っているから。 


 この手紙はマリアンヌか、これは茶会への誘いではないな。


 仕方なく手紙を開封し、内容を確認した。


 自分を公国へ侍女として連れて行きたいと、私へ頼め.そしたら、社交界で孤立しないようにしてやる。とは、物騒な内容だな。

 

 ほー、マリアンヌはツェツェが困っていると理解している訳か...興味深いな。


 さて、ベロード伯とアルベル伯はこの手紙を自分の妻や娘が送ってきたことを知っているのか。


 そして、決して身分は高くないが歩く宝石と言われているペロリニア穣。


 どの女達にもカロが白いチューリップを贈ったと言っていた。きっちりと終わったと思っていたのだが...。いや、今、ツェツェからこのように一方的に別れを告げられて、納得などできない。問い詰めて、閉じ込めしまうだろう。俺が自ら世話をし、他の誰とも顔を合わせることすらさせない生活をさせるだろう。


「クク!フ、はははは」


 我ながら狂っている。これが王家の血か。


 無意識に人差し指でコンコンと机を叩く。


 先日、渡り廊下ですれ違ったアルベル伯夫人は足を止め、まるで、運命に引き裂かれた恋人に縋るように泣き崩れた。彼女に手も貸さずに、「ご結婚おめでとう、お幸せに」と言い捨てて来たがその返しがこの招待状とは、だいぶ甘く見られたものだ。


 茶会など、1〜2つ参加すれば問題などない。どうせ、もう直ぐに公国へ帰るのだ。外国へ嫁ぐローランド公女に配慮して、時期を少しばかり遅らせたに過ぎない。


 はあ、これらの招待状はツェツェ宛だ。流石に握り潰すわけにはいかないな...。


 ということは、過去の女関係を伝えなければならないのか...


『気が重いな』なんて言葉が脳裏に過ぎり、苦笑いが漏れた。


 この俺が、何も持っていない、非力で草食動物みたいに臆病な相手の機嫌をまるで奴隷のように伺う日がくるとは...。


 外から笑いる声が聞こえてきた。


 中庭を見れば、楽しそうに笑いながらレイモンドと花を摘むツェツェの姿がある。


 アレはアレで厄介だな。可愛いふりをしているが、強かで抜け目のないやつだ。ローランド老公が背後にいなきゃ、王座にでも据えてこの国にでも縛ってしまいたい相手ではあるが...


 ツェツェの様子から連れて公国へ行かざるをえないだろ。弟であることをアピールしているが、何せ、同じ父親の血を引いているから油断ならない。


 だが、レイモンドを舞台へ乗せた。我が弟として貴族達に認めさせた。


 今、思い出しても滑稽で笑える。議会で陛下がレイモンドを王弟として貴族達へ紹介したとき、ローランド老公の表情が喜色に染まった。待ってましたとばかりに発言のタイミングを伺っている老公が哀れにすら思えた。


 レイモンドが今までの境遇を語り出すと、どんどんとその顔色が曇っていく、もう、笑いを堪えるのが必死だった。


 「何度も何度も、ローランド老公爵に孫と認めて後見人になって欲しいと乳母を通じて頼み込んだのに、お金を要求されました。私は生きていてはいけない存在らしく、もう長くは生きられない不治の病だという偽れと言われ、その治療費と偽って、お金を持って来いと...姉様は私の為にとお祖父様である将軍の遺品すら売り払ってお金を用意してくれて、自分の社交界デビューまで諦めて。ですが、私がローランド公爵家と完全に縁を切り、完全に王位継承権を放棄すれば、姉様にこんな苦労を強いることなく、王弟として生きることは可能だと知ったときは頭を鈍器で殴られたような気持ちになりました」


 美しい顔を悲痛に歪ませるレイモンドに貴族達の同情心が集まる瞬間は、もう、筋書きどうりで、ローランド老公を疎ましく思っている貴族達は


「まさか、あんなに慈悲深い老公が自分の孫にこんな苦行を強いていたとは」

 

「側室様は、避暑地の別荘で優雅に贅沢させ、孫である殿下はこの扱いとは」


「将軍に恩を仇で返すような行為をなさるとは」


 などと、がやがやこれみよがしに囁く様子が愉快だったが、あの、執念深い老公が口を滑らせた奴を放置してくれるとは思わんが。


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