セザール視点 1
ツェツェリアと侍女達が部屋へ向かうのを確認して、セザールとカロ、公子は執務室のある方へ足を進める。
「で、何があった」
唸るような声が出て、我ながらかなり切迫詰まっていることに驚く。
「はい、昔、主とお付き合いがあった令嬢や夫人達から、奥様への茶会の招待状が届いております。多分、良い雰囲気のものではないかと...。あと、公子様いえ、王太子殿下と婚姻を望んでいるであろう、ご令嬢のお母様方からも茶会の招待状が...」
吊し上げや強引に自分の娘を押し込む気のある茶会の招待状か。クソ、貴婦人の茶会となれば、私やコイツが参加できないことをいいことに、そこで恥をかかせたり、無理に約束させるつもりか!
全てを断ればそれはそれで面倒なことになるだろうし、本当に厄介だ。
「ふっ、私と親族になりたい貴族の茶会へ、参加させたらいい。既に手は打ってあるからね」
小馬鹿にするようにそう言う公子、いや、王太子にイラとした。
ツェツェリアは社交界に慣れてない。素直で、無欲で、無害な人間だ。ふわっとしていて、貴族らからぬ人を疑うことと、腹芸が苦手なタイプだ。かと言って、深窓の令嬢とは違い快活で向こう見ずなことも平気でしでかす。市井の者達のように気安いが、名門剣家の令嬢らしく真っ直ぐで気品に満ち溢れている。
堅っ苦しく、束縛されることが苦手な俺には持ってこいの相手なのだろうが...
結婚までしたのに、ここまで感情を向けられないことに驚いた。女とは人の行動を逐一把握していなければ、気が済まず、愛してるという言葉を強請る生き物かと思っていたが、出かけるにしても行き先すら聞かれず、特に興味すら示されない態度を取られる。
王命だから、仕方なく結婚したと言わんばかりのつれなさなのにも関わらず、甘えればとことん甘やかしてくれるが、それはこちらから求めた時だけという残忍さだ。
なんの了承も得ずに同室にしたが、特に反発されることもなくすんなりと受け入れてくれたかと思えば、懐かぬ猫のように擦り寄ってくる様子すら見せない冷たい女。
気を引こうにも、女なら愛してやまないはずの値のはる宝石を贈ったが、品位を保たなければならないとき以外は、つけていることすらないと報告を受けた。仕方なく、小さな雫型にカットされたサファイアのネックレスを贈ったが、これは使ってくれているようだ。
金を渡し、デザイナーや商会をここへ呼んでも、特に自分の物を買うでもなく、茶会へ持って行く贈り物や刺繍糸を買うくらいだ。
質素すぎるのも、問題だな。
横にいるツェツェリアの親となった王太子に気付かれないよう、小さく息を吐いた。
この男、人当たりも良くて、一見花も恥じらう優男にら見えるが、中々腹の底は真っ黒で、性格もかなり捻くれている。まあ、知っている者は殆どいないが...。
騎士団に所属していた時代、同じディーン将校の部隊に所属していたから、腐れ縁といえばそうだ。
彼はディーン将校の直属の部下で、俺の師がディーン将軍だった為、婿養子であるディーン将校の部隊に実践の度に入れて貰っていたから、訓練の全てを一緒に行ったわけではないし、親しい間柄でもない。
非常に気持ち悪い奴だった。まあ、今もか...。
ディーン将校の執務室には、夫人の肖像画がデカデカと飾られていた。愛妻家で有名な彼のおかげで、結婚に夢を持つ騎士団員が沢山いたのも事実だ。
ある日、執務室のドアが開いていたので、何気なく覗くと肖像画を高揚した様子でうっとりと眺める公子の姿があった。
見てはいけないモノを見てしまった気がして、そっとその場から離れた。その時の公子の表情はいまだに鮮明に記憶に残っている。
学園を飛び級で卒業した頭脳と、美しい顔、類稀なる運動神経があるのだから、ディーン将校の隊からさっさと昇格して近衛騎士団の小隊長にでもなるとばかり思っていたが、ずっと居座る理由が将校の奥様だったこと、それを単なる憧れとして見えるように振る舞っていた。
今思えば、侯爵家の嫡男が最前線へ赴くディーン将校の部隊に入らずとも良かったのでは?
なにせ、子爵が長の部隊だ。貴族中心の部隊とはいえ。男爵家や子爵家の次男三男が大半を占め、後は騎士家の面々で構成される精鋭部隊だ。たまに、伯爵家や侯爵家の子息もいるが、爵位を譲って貰えない面々で、腕っぷしに自信があり、自力でのし上がろうと虎視眈々と機会を狙っている奴らだ。
そんな連中に囲まれても、妬まれるどころか可愛いがられる存在で、自身の妻に恋慕しているにも関わらず、ディーン将校からの厚い信頼をも得ていたのらだから...
中々食えないやつだ。それが、今や俺のライバルとは...今回のことで下手を打てばツェツェリアを公式に掠め取っていきそうで安心できない。
クソ、ツェツェリアの気持ちもまだ、こちらへ向けさせたとは言えないていうのに!
「お前のは、身から出たサビだな...。私の方は上手くやっておくよ。だから、こちらのご婦人の茶会への参加を勧めるとしよう」
カロから手紙を受け取り、その中の1通をカロへ戻しなから、優雅にそう言い切る公子に苛立ちが増す。
「それより、よく見抜いたな。王女可愛さにどうせ死にゆく2人ならと、婚約をさせたことを」
苛立ち紛れに議会の内容を蒸し返す。
「あゝ、あの子は産まれて間も無く亡くなると思っていたんだ。先天性の王家によくある病気だからね。お義祖父様がさ、王妃なら助けて下さるやもと言ってね。まあ、姫を亡くした寂しさにつけ込んだわけさ、で、王妃様は自分が産んだ息子より、あの子を溺愛した。人並みの幸せの真似事ぐらいと、陛下へ頼み込んでも不思議じゃないさ。まあ、手放す気はないから、自分の娘より先にいく存在がベストで、尚且つ、病弱で会いに来ることもままない人物、そして、同世代」
「思惑通り手厚い環境で育てられたわけだ」
皮肉混じりにそう断言してやると、公子はニンマリと笑う。
「レイモンド殿下の病気が偽りで、そう導いたのがローランド老公からレイモンド殿下の世話を任されていたルーマー伯兄妹が首謀者で、お金まで騙し取っていたんだからそりゃぁキレるさ。まあ、あの頭のキレる老公が放置していたことも拍車をかけたんだろが、中々のブチギレぷりでかなり傑作だったよ」
ツェツェの前でのあの紳士的な姿とはかけ離れた、ギャハハと下品に笑うこの姿こそが、こいつの本性だ。




