マリアンヌ視点 宿舎にて
マリアンヌは城の使用人棟の一室にあるベッドの上で、丸くなっていた。平民である今、貴族の子女が使うこの部屋を与えって貰うのすら、不相応ではあるが、一応、王の従兄弟であるが故の措置だと説明を受けた。
城のメイドは子爵家や男爵家の娘やそれらの家の縁続きの者、騎士爵を持つ者の妻や娘、あとは豪商の娘達。謂わゆる、学園の学費を払えない者達や、学園に入るには身分が足りない者達。彼女達は働きながら、マナーや作法、女主人として必要なことを学ぶらしい。普通の平民はメイドとして、城へ上がることは不可能なのは理解しているけど...。
だからといって、この扱いは、、、
カタカタと心地よい秋風が窓を揺らす。色付きはじめた山の木々たちが目に入る。
何でこうなったの?
私が殺人示唆したわけじゃないし、ターシャに刑が下りたんでしょう?そもそも、嫌疑がかけられての勾留、このせいで学園での生活や私生活の全てを暴かれて、私の名誉は地に落ちたわけで...
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婚外子扱い?
何それ?
私は前王妃を叔母に持つ公女でしょう?
父親の血が少しばかり劣っているからと言っても、尊い血が流れていることには代わりはないじゃない。
王妃となると皆に思われている人物で、若い令嬢の憧れの的
未婚の女性の中で最も高貴な存在と言われた私が何故、こんなとこにいなきゃならないの?
セザール殿下と結婚したいだけなんだけど?
いきなり、ルーズベルトを名乗ることすら禁じられるなんて...
姉様はルーズベルトで高貴な存在で....
あーもう、わからないわ
お母様は伯爵として貴族に戻れそうで、マシューが学園を卒業したと同時に爵位を継承してルーズベルト家の家督を継ぐそのあとを継ぐのが条件らしいく、ルーズベルト領の中で、山脈の麓に位置する場所が領土として与えられるらしい。
で、私はどうなるの?
何故、迎えに来てくれないの?
お姉様は何で私を放置しているの?
ルーズベルトを名乗れるかどうかで、人生が180度変わる。
伯爵家になろうと、ルーズベルト姓は亡き王妃であった叔母様の姓。
あの女が孕っていたから
エミリーが生まれたから
エミリーがルーズベルト家に来たから
どうせ今みたいに消えるんなら、人知れずひっそりと暮らしていれば良かったじゃない!
いきなり現れて
引っ掻き回して
私を貶めて
それより憎らしいのがツェツェリア・デール・ディーン
セザール様の婚約者ですって?何よそれ、ポッと出の貧乏子爵家の娘のくせに全て掻っ攫っていくなんて!ずっと、セザール様の側に居たのは私よ!
ああ、そう言えば叔母様にセザール殿下との結婚を強請ったら、凄い形相で睨まれたっけ...。おば様はツェツェリア・デール・ディーンとセザール様の結婚が決まっていたから、私なんかが割り込む余地はない。私のことをいくら好きになってもらっても、セザール殿下のお命がなきゃどうにもならない。
「はははは、おばさまの言う通りに学園を卒業してすぐに、外国の皇族にでも嫁いでれば良かった」
後から後から涙が溢れる
乳母もドンマンも失わずに済んだ
お父様が寡婦の伯爵夫人と婚約して、それを隠して、お母様と一夜を過ごし、私ができたから、どう頑張ってもエミリーではなく、私が世に出たらいけない人間ですって...
「はははは」
なら、どこぞやの裕福な平民の家に養子として、出してれば良かったじゃない!
ああ、お父様が欲をかいて、お母様が権力使って、エミリーの母親の人生を潰したんでしたっけ
エミリーの母親は美人だったらしい。お父様が学園時代一目惚れして、ずーっとずーっと好きで、寡婦になって弱ってるとこを口説いて、婚約して...
変な自信がついて、お母様と一夜を共にして、私が出来たからエミリー親子捨て、婿入りしたんだった。笑えないわ。
叔母様が病に倒れているうちに、色々不正して婚姻に漕ぎつけたってお義兄様が言ってたっけ...。そうよね、お父様、エミリーの母親と婚約してたんだから、裏で手を回して、それを無効にしなきゃお母様との婚姻は通らないわよね。
私が悪いわけじゃないわ。ぜーんぶ全部、お父様とお母様が悪いんじゃない!まあ、お父様は死刑になったから、仕方ないけど、お母様は責任をとって、私に尽くさなきゃならないんじゃない?
お姉様もお姉様よ、妊娠ですって?家族がこんなに大変な立場に立つているっていうのに?一人だけ、幸せに暮らそうって?
え?なに?人の心はないの?
家族なら助け合うのが当然でしょう?
軟禁されているわけではない。ただ、今の身分だと、王宮内で馬車が使えない。立ち入れる場所も限られている。だから、ここを出て、ルーズベルト家に行くのは正直なところしんどい。
回り道しながら歩いて城から出て、辻馬車見つけて、小汚い平民達と相乗りして、ルーズベルト公爵家の側まで行って、そこから、ルーズベルト公爵家の使用人達が乗る辻馬車に乗り換えなきゃならない。
はあ、お姉様が迎えを寄越してくれたら、この不便な生活からは抜け出せるのに...
その前に陛下とちゃんと話しをしなきゃ
前回は興奮してしまい、最悪の結果になってしまったから、次はちゃんと品位を保って、貴族籍を得なきゃならない。大丈夫、陛下はお優しいから。
その前に、私、王太子の婚約者よね?破談書へのサインはしていないわ。
なら、ルーディンハルト殿下に貴賓室で生活できるようにお願いすればいいじゃない!
ふふふふぅ、もう、いろいろとショックなことがありすぎて、存在事態忘れてたわ。
はあ、これがルーディンハルト殿下でなくて、セザール殿下なら...
うっとりと隠し持ってきた肖像画を眺めた。
まあ、平民とはいえ、殿下の婚約者なんだから、こんな扱いは不当よね?食事だってあの食堂で自分でプレートに皿を乗せて、パンを貰い、それをあの粗末なテーブルに運んで食べなきゃならないなんて...。
食事もごろっと煮た野菜とお肉やソーセージのシチューとパン、粗末なものね。侍女であればメイドにしっかりと給仕をしてもらい、サラダ、スープ、メイン料理とコースで提供されるのに...。
お仕着せだってこの粗末な綿の服、華やかなドレスすら着ることが許されない。
服を着せてくれる者は居らず、初めはこのお仕着せすら着るのに苦労した。(学園の制服のように着ればよいですよ。と言われたが、学園の制服は乳母が着せてくれていたから)自分の服は自分で洗濯しなければならず、水と石鹸で手が荒れた。
誰も世話を焼いてくれる者すら居らず、メイド長を名乗る者が洗濯のしかた、食事の作法、風呂の使い方を教えてくれた(湯や水は使えるが、水は自分で汲まなければならないし、湯は自分で沸かさなければならない)が、それっきり。一緒にこの場を使う他のメイド達からは距離を取られ、コソコソと陰口をたたかれる始末。
王都の冬は凍てつくように寒い。井戸や池は凍り、雪が積もる。水瓶の水も凍りの膜が張り、それを割って鍋に入れ窯で湯を沸かす。その作業はかなり辛いと、容易に想像できた。そもそも、薪も炭も、冬には貴重なもの。ここでの暮らしで、薪や炭が潤沢に支給されるとは考えづらい。それに、自分で火を起こし、暖炉の管理すらしなきゃならない。
冬が来る前にはお姉様の処に置いて貰えるようにしなきゃ。
問題は誰に伝えれば、ルーディンハルト殿下や陛下への目通りが叶うのかわからない。ここに居る人達は誰も直接、陛下や殿下に声を掛けれる身分ではない。唯一、殿下や陛下へ声を掛けれそうなメイド長は初日以来、顔すら見せに来ない。
はあ、どうしたらいいのよ。一緒に食事をするメイド達には避けられていて、話しかけすらできないのに...。庭園の側まで足をのばしてみようかしら、もしかしたら、見知った者に会えるかもしれないし...




