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中庭

 遅れに遅れたツェツェリアとセザールの結婚式が執り行われると、国中お祭りムードに包まれた。


 何かと事件の渦中にいたツェツェリアの婚姻とあって、よくない噂も出るやもと危ぶまれていたが、ツェツェリアの父として、あの行方不明になっていたブロード侯子が現れ、貴族達が驚いていたのが印象的だった。全ての視線を彼が掻っ攫ったおかげでツェツェリアの緊張が解れた。


 目眩しになってくれるとは、やはり、優しい方。


 一連の裁判流れや結果が事細かに新聞に掲載されていたため、殆どの者がツェツェリアへ同情的で、祝福のムードの中、結婚式は執り行われた。正式な式は公国で行う為、王族の式ながら簡素なものであったが、ツェツェリアにとっては豪華絢爛でクラクラするほど眩いものだった。


 議会で王が新たな王太子を立てることを発表したら、案の定ローランド老公爵が反発したらしい。その新たな王が、 レイモンドではないことは明白だからだとセザール殿下はニヤニヤしながら言っていた。


「次の議会は荒れるぞ」


「荒れると言いながら、たのしそうですねぇ」


 透き通るようなバリトーンが聞こえてきた。


「チッ、王太子になるんだろ?なんでそんなに暇なんだ?仕事をしろよ、仕事を!」


 悪態を吐くセザールに、ブロード侯子は美しい笑みを浮かべると、中庭に設えられた東屋で、必死に公用語を学んでいるツェツェリアの横に、さも当たり前のように腰を下ろした。


「可愛い娘に会いに来たに決まっているでしょう?それに、まだ、王太子じゃありませんし。議会で認められ、任命されて初めて賜る地位なんですから、で、レイモンドはどこに?」


「必死で剣術の訓練をしてるよ」


 ブロード公子はカロに自分の分のお茶も頼むと、当たり前のように葡萄に手を伸ばす。


「次の議会には彼も連れていきますよ。ローランド老侯爵に一泡吹かせてやらなきゃならないからね」


 ブロード公子はツェツェリアの口に葡萄を運びながら、片目を瞑ってみせた。


 揃いも揃ってなぜ、この人達は私に何が食べさせたいのだろう?


 ギロリと睨むゼール殿下を横目にブロード侯子は涼しい顔だ。


「アレはまだ未熟だ」


「フッ、そう言わないで。未熟であれ自分で戦って勝ち取らなきゃ、その立場を大事にはできないんですから、ね」


 お膳立てはしてやるから、後は自分で頑張れと言うことなのだろう。


「本当に、レイは王弟として認められるんですか?」


 二人の会話が気になってしまい、勉強に身が入らない。ついつい、ツェツェリアは質問してしまう。


「ああ、そうなるように約束しましょう。あの裁判でクロエが殺害されたことが明らかになったのですから、そて、私とクロエの子が世間的にはレイモンドとなっているのでしょう?まあ、これだけでもレイモンドには王位継承権が与えられるようになるわけですが...、それはそれで面白くない上、老侯爵に弱みを握られる材料になりますからねぇ」


「さっさと棺桶に入ってくれればよいのに、しぶとい野郎だ」

 

 セザールの言葉に目を白黒させて、狼狽えるカロが少しばかり可愛そうに思えた。


「まあ、そう言わないであげて下さい。あの方の功績は計り知れないのですから、それに、借りを返して貰う前にも退かれたら、どこに請求すればよいのですか?」


 セザール殿下は、顔色一つ変えず笑みを浮かべてそう言うブロード侯子に、面白くなさげな視線を向ける。


「チッ、もう一人の娘に会いに行かなくていいのか?」


 楽しそうに、ツェツェリアの口にもう一粒、葡萄をはこぶ小侯爵に対して不機嫌極まりない様子で、悪態を吐く。


「あまりにも王妃殿下が私が奪うと警戒なさっているので、遠慮しているのだよ。あの子が今生きていることが既に奇跡のようなものだから」


「それはどう言うことなのですか?」


 飛び付かんばかりにツェツェリアは公子へ顔を近づける。


「あの子は先天性のもので、全ての機能が未熟なのだよ。聡明で明朗だから気が付かないだろうが....早産であったし、母体の状態は良くなかったから、お祖父様が王妃へあの子を託されたのもそれが故だろ。ディーン家ではとてもでなはないが命をここまで繋ぐことは難しいかっただろうから」


「それは、いつ亡くなっても...」


 お母様に盛られた薬と関係があるのかしら?


「ああ。風邪一つで命取りになるくらいはな」


 公子はクシャリと髪を潰して、やりきれない表情を浮かべた。


「だからか、陛下がレイモンドと彼女の結婚を推し進めたのは」


 セザール殿下の表情は暗い。


 命が短い者同士なら....、ライラックにも人並みの人生をという親心だったのね...。


「親としての優しさだろう。王妃には本当に感謝している。あの子に今、命があるのは王妃の献身の賜物だから、あの子の生がある限りは王妃に託すさ」


「陛下はさぞお怒りだろうな」


 セザール殿下はぼそりと呟いた。


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