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馬車の内で

「お母様は、どうして」


「皮肉なものだよ。母上の命が狙われていると気が付き、私の将来を食い潰そうとしている女がいると知ったら、さっさと手続きをしてくれたよ。自分も命の危険に晒されるかもしれないのにね」


 チェリーブロッサムのことだろう。


「お母様は結婚を承諾したのは...」


「そう、私をあの家から連れ出してくれるため。簡素な式だったよ。街外れの小さな教会で粗末な式を取り急ぎ行なって、書類をどうにかこうにか用意して、城へ出して、はあ、当時の私にもう少し、力と機転の効く頭があれば...愛する人を失うことは無かったのに、君にも申し訳ないことをした」


「あの人はどうしたかったのですか?」


 王女様を殺し、侯爵夫人の座を手にしてもまだ、欲しがったということだろう。彼女の欲望に際限なんてなかったんだわ。

 

「あの女は私と結婚するつもりだったんだ。笑うだろ?薬を盛ったり、夜中部屋に忍び込んだり、学園を卒業して、母上か亡くなってから私の帰る場所がなくなった。侯爵夫人に収まったら、私の行く先を把握できるようになってしまってね」


 お母様は見かねて...


「お祖父様は承諾なさったのですか?」


「ああ、将軍は事情を説明したら、さっさと承諾書を書いて下さった。彼女が殺害されて、婚姻の書類が不備で通っていないことを知らされた私は半狂乱になってね...。そこからは、この前話した通りさ」


 麦を植えた後はよく作物が育つ。冬が来る前にもうひと収穫しようと、農夫達はせっせと畑を耕し、子供達は歌いながら野菜のタネを撒いている。


 カエルや虫を追い回している小さな子達の歌声が、風に乗って微かに聞こえる。


 女神達は強欲だ。

 

 慈愛の女神は赤


 愛すべきモノはどんなことをしてでも手に入れる。


 知の女神は蒼


 欲しいモノのためには家族すら犠牲にする。


 闘いの女神は白銀


 手に入れいモノはじっくりと綿密に追い詰める。


 静寂の女神は翠


 思いの人が来てくれるまでひたすら待ち続ける。


 太陽神は醜悪だ。全ての女神を欺き、全ての女神を手に入れた。誰との約束も守らず、全てを手に入れた。


 郊外にあるディーン家の墓は田園地帯を少し過ぎた小高い丘の上にある。


 墓の前に跪き、涙を流し、一生をかけて私を守ると誓うこの男をツェツェリアはボーっと眺めていた。


 この人の人生は何のだろう?自分の幸せは後回し、血すら繋がらない私をここまで気にかけてくれるこの人のことは、誰が幸せにするの?


 首からネックレスを外す。始めて城へ登上したときに付けていた、数少ないお母様の遺品だ。


「良かったら、これを貰ってくれませんか?」


 これは私ではなく、この人に必要なものだから...


「お母様の遺品です。本当はもっとあったのですが、必要に迫られて手放してしまい。これくらいしか残っていないのです」




 

 

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