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追憶 2 【セザール視点】

「で、セザール、いつまでここに居れるのだ?西の蛮族の動きも気になるのだろう?」


 兄が言いたい事はよくわかる。隣接する西国でイナゴが大発生した。このぶんでは作物への被害も深大だろう。西国には国藩族と言う盗賊がいる。彼らは西国はもとより、近隣の国から略奪を行い生計を立てているのだ。彼らが、実入りの少ない西国より、他の国からの略奪に力を入れることは目に見えていた。長く城を空けるわけには行かない。


「出来れば蜻蛉帰りしたい気持ちでいっぱいだ」

 

 王は天井を仰ぎ見ると、はあ、と溜息を吐いた。


「だろうな。では、聞き方を変えよう。いつまでならお前が不在で持ち堪えれる?」


「三ヶ月ってところだろう」


 蛮族とて無闇矢鱈に攻めてくるわけではない。その上、距離もある。今は季節風が吹いて砂埃が舞う時期だ。それが収まってからと考えるのが妥当だろうな。


「では、それまでに簡単な式を取り行おう。まあ、城で披露目の舞踏会でも開けば良かろう。正式な式は向こうの教会で挙げるのだから。大祭司もそちらの教会へ出向いて貰えばよい。王妃、ドレスを仕立てるには最短でどれくらい時間を要する」


「一月程度あれば…ただ、ディーン令嬢には母親が居ませんわ。彼女の準備を手伝う者が必要です。セザール、ディーン令嬢に付ける侍女の候補は居ますの?」


 王妃の頭の中は既に、ディーン令嬢の嫁入り支度の計画が着々と進んでいる。


「いないな。だが、従者にはカロを付ける予定だ」


 カロほど適任者はいない。彼は機転が効くし、俺の考えを良く熟知している。女の扱いにも長けているから、ツェツェリアの機嫌を損ねることもないだろう。


「困りましわね。わかりましたわ、侍女を二人とメイドを二人こちらで用意致しましょう。一人はセラを。もう一人は、侍女は貴方の国へ連れて帰れる者が良いでしょうから…、ああ、丁度いい子が居ますわ。その子に聞いてみましょう」


 セラは50代の恰幅のよい女性だ。豪商の娘で、メイドから侍女に成り上がった経歴の持ち主。昔、俺に仕えてくれた者の一人だ。


「セラか、懐かしいな。彼女なら信頼できる」


「王妃、其方がディーン令嬢の準備をしてやってくれ、余にはそのへんの細かいことはわからん。セザール、それで良いか?」


 目をキラキラ輝かせる王妃と、その様子にお手上げだと言わんばかりの王にセザールは苦笑をする。


 昔からこの関係は変わらないな。


 夫婦二人で力を合わせて、この王座を勝ち取ったのだ。その分絆も深い。


「お願いいたします、義姉上」


 正直、王妃が仕切ってくれるのは正直助かる。兄と同じでオレもお手上げだ。


 冗談めかして頼むセザールに、王妃は機嫌良さそうに返事をする。


「ふふふ、楽しみですわ」


 セザールは異常に張り切る王妃に若干、背筋に寒いものを感じた。


「明日、ゼロニアスに婚約を正式に締結する書類を持って、ディーン子爵家へ行かせよう。こういうものは、相手に考える時間を与えない方が良い。王妃よ、一緒にライラの使用人を数名ディーン子爵家へ贈ろう思うが、人選はできておるか?」


「勿論ですわ。しかし、彼女の使用人で贈ることができるのは…」


 王妃が口籠る。ライラック姫の侍女は名家の娘達がほとんどだ。そんな令嬢達を格下の子爵家に連れて行くことは出来ない。また、ライラック姫は美しいものが大好きだ。それには人も含まれる。だから、彼女のメイドは若くて美しい娘が多い。だが、若い美しい娘をディーン家に連れて行き、万が一のことがあってはならない。ディーン家に連れて行けるのは、現状、年配のメイドと男の使用人だけだ。


「わかっておる。それで良い。当分、教育係として、ゼロニアスをディーン家に遣わすつもりだから、そう心配するな」


 難しい顔をしている王妃を王は優しく宥めた。


 現在、ディーン家の使用人はメイドが二人と、通いの下男、そして、乳母と年老いた執事が一人。そんな中、沢山の使用人を連れて行けば、さぞ驚くだろう。


 セザールは驚いた顔をするツェツェリアを思い描き、頬を緩ませた。


「ツェツェリアの社交界デビューだが、ちょうど良い夜会は無いのか?」


 セザールの言葉に王妃が嬉々として即答する。


「私の生家、ブルボーン家ので開かれるものはいかが、そこだと招待状はすぐに手に入りますわ。その時に着るドレスは私の物をディーン令嬢に差し上げます。それを手直しすれば良いわ。それより、セザール、こんなところでのんびりしてても良いのかしら?ディーン令嬢の服はどこで仕立てる予定なの?もう、予約はしたのかしら?靴は?装備具は?宝石は加工するのに時間がかかるのよ!砂漠を旅するのだから、日除けに、大きめの日傘、これらの品はどこの店で注文するの?」


 王妃の目の笑っていない笑顔に、セザールの顔が青くなった。


「はは、では、兄さん、王妃、私はこれで失礼致します」


 セザールはすくっと立ち上がるり王の執務室を出ると、部屋の外に待機していた。カロに声を掛ける。


「王都で今、人気の店のブティックの明日の予約を取れ!3件ほどで良いだろ。あと、宝石店、女性用の靴屋も押さえとけ!」


 セザールの言葉にカロの顔色が悪くなる。


「はは、こりゃ、権力を傘に着るしかないな…」

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