平和なひととき2
セザールはカロが処理した羊皮紙にさっさと目を通し、さらさらとサインしていく。
「君にとって、レイモンドは何だい?」
「弟よ」
彼が執務中は部屋から出ることもできず、ツェツェリアはほうと息を一つ吐き、窓から外を眺める。
「血が繋がってないと知った今でもなのか?」
外ではまだ、レイモンドが木製の剣を振っていた。
「ええ、今更、他人として接する事はできないわ。血が繋がっていようが、繋がっていまいが、レイモンドはたった一人の大事な弟よ」
ツェツェリアに気付いたレイモンドが、これでもかというくらい満面の笑顔で手を振る。ツェツェリアも笑顔で手を振りかえした。
「そうか」
レイモンドはローランド別邸から出ると決めてから、吹っ切れたように明るくなった。前向きに今まで諦めていたこと、見向きもしなかった分野にも興味を示し、積極的に学習するようになった。
剣術、槍、弓矢やボーガン、乗馬にもチャレンジしているらしく、青白かった肌が日焼けして健康的に見える。食べる量も増え、逞しくなった。姉としては嬉しい限りだ。
ただ、レイモンドも宙ぶらりんの状態だ。ローランド公爵やレイモンドの産みの親である側室殿下との関係も、血縁関係があると世の中に宣言できない微妙な状態....。
王弟でありながらその身分を明かせずに、血の繋がりのない家門の子爵という身分。血縁でいえば次期王の資格もあるがその身分は隠されたまま。
「レイモンドはどうなるのですか?」
「裁判が終わればわかる。君の義父のシナリオ通りに進めば、何もかもあるべき姿になる。失敗しても、我々と公国へ行けば良いだけだ。何の心配もいらない」
セザールはそういうと、立ち上がりツェツェリアを背中から抱きしめて、その背中に顔を埋めた。




