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夜が明けて

 お母様はなぜ殺されなきゃならなかったの?


 ブロード小侯爵が私達の行く末を哀れに思って、お母様に求婚したから?


 しがない子爵夫人が、前途ある若き貴公子である小侯爵の妻となることが、命を奪わなければならないほど許せなかったの?


 あまりの理不尽さにツェツェリアは沸々と怒りが沸いてくるのを感じた。


 メイドから持って来て貰った新聞の一面には『侯爵夫人はチェリーブロッサム!王女殺害の容疑も』という、センセンショナルな文字がデカデカと踊り、昨日の裁判の詳細が事細かに書かれていた。


 チェリーブロッサム、稀代のストリップダンサー、戦争奴隷としてストリップ劇場の主人に購入される。

その美貌と妖艶なダンスで数々の富豪のパトロンを破産へ追込む。あの有名なブランディーノ商会を破産へ追い込んだ女性でもある。彼女のプロマイドは売れに売れ、当時の平民の成人男性で持っていない者はいないと言われっていた。突如、平民の身分を購入して、劇場から消える。


 相手が寡婦という理由で小侯爵の結婚を反対した父は、売春婦を後妻へ迎えていた!


 などと、好き勝手に書かれている記事に、ツェツェリアは少しげんなりとした。


 よくよく読めば、ブロード侯爵は身分の低い側室の子で王女様と婚約していたのは彼の年子の本妻の息子。侯爵は王女様が結婚してから、つつがなく過ごせるようにと、乳母の娘との結婚が決まっていたらしい。ただ、出兵した本妻の息子が戦死したため、繰り下がって侯爵が王女様と結婚することになったと書かれている。


 侯爵はターシャ穣が乳母の娘の子と思っていた。だから、チェリーブロッサムを後妻へ迎えたんだわ。侯爵が側室を持つことを禁ずる法案に反対したのは、乳母の娘を折を見て側室として迎えたかったから...?


 記事を鵜呑みにすれば、侯爵は年子の兄と非常に仲が良かったらしく、学園時代は仲良く鍛錬や勉強、食事をしている姿が目撃されていたらしい。


 王女様は陛下の初の子だけど、閨の教師である未亡人との間にできた娘で、王位継承権はなく、王族の後目争いとは無縁の生活を送っていたこと、生まれた時に王族に娘を王妃としておくることができない、ブロード公爵家に嫁ぐことが決まっていたことも書かれていた。


 侯爵でなく、公爵?


 よくこんなことを一夜にして調べて、記事にできたわね。


 まるで、昨日の裁判がすでにストーリーが出来上がって、それがわかっていたかのように予め準備されていたような記事に、違和感を覚えた。


 これだけブロード侯爵家の内情を暴露しているにも関わらず、ディーン子爵家に関わることはブロード小侯爵が求婚をしていたこと、周りも認めていたがチェリーブロッサムが侯爵夫人として家に入って覆された。と書かれていただけにとどまっていた。


 小侯爵様はブロード侯爵には愛人や側室がいたと言っていらっしゃった。だが、この記事にはそんなことは触れ慣れていない。


 医師を捜索中...


新聞を広げて思案しているツェツェリアの腰に腕を回し、カウチにだらしなく寝そべりながら、手紙へ目を通していたセザールが起き上がった。


「あの狸ジジィ!」


 眉間に皺を寄せて、悪態をつくセザールにツェツェリアが問いかける。


「どうしたのですか?」


「レイモンドを返せと言って来たぞ!クソ、裁判もまだかたごついてないっていうのに!次から次へと、はっ、あれだ放置しておいて、この騒ぎに乗じて自分の孫だとレイモンドの存在を世に知らしめる気だ。よほどレイモンドが逆らわないと自信があるのだろうよ」


 読むか?と手紙を渡された。


 その傲慢極まりない手紙に沸々と怒りが湧く。


 レイモンドは乳母を通して、お祖父様が亡くなった後に連絡を取ったわ。自分を孫だと認めてくれ、私達兄弟の後見人になって欲しいと、だけど、一蹴したのはそっちでしょう?そればかりか、レイモンドを唆して我が家を困窮に貶めたのに?


 怒りで肩を振るわせるツェツェリアにセザールは眉間に皺を寄せた。


「この手紙がそんなに気に入らないか?」


「当たり前じゃないですか!手を貸さなかったばかりか、追い詰めた挙句、レイモンドを利用して奪おうとしているんですよ!」


 声を荒げるツェツェリアに気をよくしたようで、セザールはつむじにチュッチュッとキスを落とす。


「そうか、なら、徹底的に潰しても問題ないな?ああ、弟君にも確認しとくか、あんなやつても、彼にとって血のつながった祖父なのだから」


 セザールはクックと人の悪い笑みを浮かべると、ジッポで火を付け、灰皿の上で燃やしてしまった。


「あの、従者が返事を貰うまで帰れないと粘っているのですが....」


 カロが遠慮気味に伝える。


「ほぉ、なら、待たせておけばよい。ただし、屋敷へは一歩も入れるなよ!また、そんなに寒くもない。外で夜を明かしても凍え死ぬことは無かろうよ」


 セザールは呆れたようにそう怒鳴ると、ゆっくりと立ち上がり窓辺へと移動した。セザールの眼下には一生懸命に兵士へ返事をせっつく従者の姿でも見えるのか、呆れた様子で口元を歪めた。


「はは、ルーマー伯爵を従者としてよこしたか」


 ルーマー伯爵家といえばレイモンドの乳母の生家だ。


 ツェツェリアの顔色が一気に曇る。


 少なからず、乳母には負い目があるわ。お金を騙し取られたとはいえ、後妻としてどこかの貴族の家へ嫁ぐ機会を奪ってしまったのだから、彼女は良い嫁ぎ先を紹介してもらうために、レイモンドの乳母を引き受けたと言っていた。あんな苦労をするためじゃないわ。


「安心しろ、レイモンドの乳母を老公爵へ売った奴だ。ツェツェリア、君が罪悪感に苛まれる必要はない!乳母の苦労を少しは外で味わうがいいさ。おい、レイモンドを離れに移して、そこに家庭教師を向かわせろ、そろそろどれだけ定着したのか、テストを行うとかなんとかそれらしいことを言って、暫く軟禁しとけ!」


 ああ、レイモンドが罪悪感を抱かなくていいように、ルーマー伯爵とで合わないように気を回してくれているのね。


 ツェツェリアはにっこりと笑い、セザールの腕に抱きついた。


 ふふ、ほんとに私に惚れているんじゃないかって、反応をするのよね。それこそ、新聞で書きたてられているような絶世の美女になって、セザール殿下を誑かしているような気分にすらなる。


 嬉しそうにはにかむセザールにツェツェリアはにっこりと微笑みかける。


 カロはレイモンドが伯爵とバッタリ顔を合わせないようにするため、慌てて部屋から出ていった。

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