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裁判 1

 美しい男だと思う。この国ではまず見ないほどの長身と真っ黒な髪に黒曜石の瞳。戦場を駆け回っているせいか、よく焼け引き締まった小麦色の肌。エキゾチックな異国の香りを纏っている。


 レイモンドやブロード小侯爵が纏う可憐な令嬢が恥じらう美しさではなく、男性的な色気を纏っている。


 素肌にガウンとラフな格好でダラダラとツェツェリアの膝を枕にソファーに寝そべりながら、執務にあたっているその姿は怠惰で官能的だ。


 横に控えているカロが時たま盛大なため息をこれみよがしに漏らすが、その原因となっている当の本人には全くダメージが無いようだった。


「兄さんがブロード小侯爵と会った。はあ、君は彼の義娘となる。王女が彼と君の母君の子と証明された」


 明日の天気は晴れだね。なんて話すかのように、サラリと言われ、ツェツェリアは全く状況についていけない。


 そもそも、情報量が多すぎて、頭の中の整理ができない。


 確かに、未婚の男女の間に子ができたら、結婚をするのがこの国の法律ですけれども、まず、王女が私の妹?


 自分に甘えるこの美しい男との結婚だけでも、衝撃的なことなのに、レイモンドが実の弟ではない事実に、母が殺されたかもしれないという疑惑、そして、王女が自分の父違いの妹だと告げられたツェツェリアは、もう、思考回路が爆発寸前だ。


「い、妹ですか...」


「君は何も考えなくていい、ただ、全てがあるべきだった通りに戻るだけさ」


 あるべき通りとは?


「母を殺した犯人は?」


「捌かれる。だから、安心していい。な、カロ?」


 セザールから視線を向けられたカロは苦笑いを浮かべて、頷いた。


 しとしとと降る雨が窓ガラスを濡らし、遠くから、裁判がを始める鐘の音が聞こえて来る。この雨の中でも、裁判所には沢山の傍聴人達が押し寄せているのだろう。


「そろそろ始まりますね。枯葉色の髪の連続令嬢殺人事件の裁判が」


 カロが振り子時計に視線を向けた時、ボーンボーンと14時を知らせる音が鳴る。被告人はマリッサ・モンクレールとターシャ・ブロード、ブロード侯爵夫妻。


 マリッサの身元保証人がブロード侯爵家だからだ。マリッサは伯爵令嬢であり、モンクレール伯爵家の後継者なれど、ブロード侯爵家で後援するとの盟約がある。


 彼女はブロード小侯爵によって、命を助けられ過去があるらしく。ブロード小侯爵がブロード侯爵家のがモンクレール穣が成人し、彼女が家督を譲られる時期までその身柄を預かるとしている。


 今、モンクレール伯爵家は彼女の実父が実権を握ってはいるが、後妻は実子に家督を継がせたいらしく、彼女を虐待していた過去があり、彼女には後見としてブロード侯爵家がついたらしい。その、マリッサが事件を起こしたのだ。学園を卒業後すぐに王宮侍女になり、外との関わりのない彼女が事件を起こす動機がない。


 聞き込みをした結果、マリアンヌ穣と同様、ターシャ穣もセザール殿下と結婚をしたいとかなりの強行手段に出ていた。殺された令嬢達は皆、この白亜の館のメイドやセザール殿下さが率いる軍の事務官等、セザール殿下に関わる所で働く予定だった者達であり、セザール殿下に恋する乙女達だった。身分は高くないが才女で見目もよい。その上、マリアンヌやターシャといった高位令嬢達に媚び諂うタイプでもなく、学園、彼女達を面白く思っていなかったらしいことがよく分かる。


 特にターシャ穣は彼女達に仕事を辞退するように迫ったり、わざと、成績を下げるようにしろと脅した過去があることが、取り調べでわかった。


 マリアンヌ穣が容疑者だったときは、王太子への配慮もあり、セザール殿下に好意を抱いていた令嬢ということは伏せられていたらしい。


 ターシャ穣にかかった容疑は殺人示唆。示唆という生優しいものではなく、威迫と言った方がよいかもしれない。マリッサ穣にとって、ブロード侯爵家の後援を失うことは、あの地獄のような生家へ帰郷を意味するからだ。王宮侍女として決まっていた職も無くすことになりかねない状態なのだ。


 学園ではターシャの言いなりだったという証言も多々あるが、マリッサは年齢が離れていたうえ、博学で成績も良く早期卒業をした為、一緒に学園で生活した期間は短い。

ひ、

 セザールが渡してくれた報告書を読みながら、ツェツェリアはなんとも言えない気持ちになった。マリッサ穣は主が私に執着したから、あの令嬢達を殺したと言っていた。しかし、この報告書にはそのことは一切書かれていない。


「も、モンクレール穣は...」


「知っているさ、主人に君を連れてきてほしいと言われ、嫉妬に狂った彼女は、敢えて、背格好に瞳、髪の色の似た彼女達を攫い口封じと称して殺害したと言ったのだろう?」


「ええ」


 神妙な顔をして、返事をしたツェツェリアに愛おしそうな眼差しを送る。


「下位貴族の令嬢は全て、枯れ草色の髪に焦茶色の瞳だ。伯爵令嬢でも女神の血を濃く受け継いだ者以外、枯れ草色の髪に焦茶色の瞳だろ?背格好なんて、外国人の血や平民の血でも入ってない限り、似たり寄ったりじゃないか」


 確かに、この国の国民の大半は茶系の髪と茶系の瞳...、男性であれば貴族であろうと、剣を持つかどうかでだいぶ身体つきが違う。平民であれば家業によって、女性でも身体つきは違うが、貴族の婦女子の体型など似たり寄ったりだわ。


「銀や金色の髪は王族。その中で戦いの女神の血が濃い者は銀色。女神の血が濃い大貴族はその特徴がでるが」


 ブロード侯爵令嬢の髪の色は濃い茶色...どちらかと言うと平民よりの色だ。対照的にモンクレール穣の髪の色は燃えるような赤。


 ブロード侯爵家直系の血筋なら白銀...。しかし、後妻の侯爵婦人は元売春宿の人気踊子、無理やり、男爵家の養子にして娶った過去があるらしい。ターシャが侯爵の子でない可能性も無きにしも非ず。だが、侯爵はターシャを可愛がっているみたいだった。娘が望むならばとセザール様との結婚を後押ししていましたし.....


「ブロード侯爵令嬢とモンクレール穣」


「ああ、脚本は君の義父、演出は我が兄である陛下、そして、主演は....、さあ、幕開けだ」



 

 

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