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謁見 1

 王との謁見はすんなりと進んだ。王の顔はかなり疲れが見えていたがツェツェリアの話しを聞き、険しい表情が少し緩んだようだった。


「あれだけ騒ぎたてたのだから、其方助けた者も、其方を送るのを躊躇うのも仕方ない。その場から君を攫ったのは者は、本当に赤毛で自分のことを一級侍女のマリッサ・モンクレールと名乗ったのかい?」


「左様にございます」


「で、マリッサ・モンクレールが其方に似た令嬢を殺したと」


「はい」


 ツェツェリアの返事を聞いた王は横に控えていた宰相を呼んだ。宰相は部屋の隅に控えていた従者に目配をすると、従者は足早に部屋から出て行った。


「フッ、宰相、其方も聞いたであろう。マリアンヌ穣は無実じゃな。まあ、しっかりと裏付けは取る必要があるが」


 王は意地の悪い笑みを浮かべて、宰相に目をやる。


「だそうだ、マリアンヌは無実ということだ」


「そうでございますか、ですが、これ以上、あの者のことで我妻に負担をしいらないで頂きたいのですが」


 宰相は冷たい声でばっさりと切り捨てる。


「ふむ、そうは言えど、マリアンヌは其方の奥方の妹ではないか?」


「その妹という立場を利用して、どれだけ我妻に負担を強いてきたとと思いでしょうか?」


 憤りを隠そうともしない宰相に、悪びれる様子もなく王は油を注ぐ。


「そう言うな、マリアンヌも其方の妻も私の従兄弟だ。不幸になるのを見るのは流石に忍びない」


「自業自得にございます。哀れとお思いなら、なぜお元王妃(おばあさま)の仰った通り、ロービアやランダニアの王室へ嫁がせなかったのですか?出生を咎められる可能性は予測できたでしょうに」


「まあ、そう怒るな、そのうち血管が切れるぞ。さて、それより、ディーン令嬢、其方に聞かねばならなぬことがある。どこまで知った?あゝ、此奴は気にするな、この世で真実を知るのは、世と此奴、そして、其方があの屋敷で会ったあの者だけだ」


 あの者とはグランツを指すのだろうか...それとも、別の誰かを...陛下はグランツがあの屋敷、いえ、塔に住んでいることを知っている?


 ツェツェリアは顔から血の気が引いていくことを感じた。


「そう固くならぬともよい。我が甥と会ったのだろう?私の腹違いの姉の子、美しい男だ。愚直な我が息子や野心や欲のない我が弟達と違い、聡明で狡猾で野心を持ち王位継承の資格を持つ物の中で一番、王としての資質がある者だ」


 陛下は今、弟達と確かに仰った。レイモンドを弟と知ってらっしゃる?それとも、他にも弟と呼べる人か生きている?


 ツェツェリアの心臓がドクドクと激しく打つ。


「あ、あの...」


 何かを言わなければと思うが適切な言葉が思いつかない。


「フッ、そう心配するな、別に弟や従兄弟を咎めるつもりも、ましてや、殺すつもりもない。勿論、其方のこともな。ただ、我が従兄弟殿が其方を差し出せと、そしたら、大人しく全てを水に流して、忠義を誓うと手紙を寄越してきてな。それを、セザールに話したらブチ切れられたという事だ。さて、どうしたらよいと思う?」


 楽しそうにニヤニヤしながら、王はツェツェリアへ問う。


「差し出せとは、どのような意味でございましょうか」


「其方と従兄弟の結婚を認め、セザールとの婚約を解消させろということだな。セザールに手紙を送ったら、何を慌ててるのか、明日中にはここへ帰ってくるそうだ。さて、其方は魅了の魔法でも使えるのか?我が兄弟と甥が全て其方に惚れているではないか」


「そんな、滅相もないことにございます」


 王はまじまじとツェツェリアの顔を眺める。


「ふむ、美しい顔をしてはおるが、あそこまでのめり込むとは...ディーン令嬢、奴は其方と結婚でき、其方との結婚生活を邪魔せぬと保証するなら、軍師だろうと、平民だろうと喜んでなると言っておるし、其方の弟は我が娘との婚姻の条件は、其方と一緒に住む事だそうだ。セザールは其方さえ手にいてたら、この本国には要はないと言っておるぞ」


 カラカラと笑いながら、さも、面白そうにツェツェリアを様子を伺う。


「滅相もないことにございます」


「まあ、良い。で、ディーン令嬢、其方はどうしたい?誰の妻になる?」


「私に選ぶ権利はございますのでしょうか?」


 陛下は宰相の顔を見る。宰相はすました顔でサラッと嫌味を言った。


「誰かと違いますね」


 誰かとはこの話の流れだとマリアンヌ様のことかしら...



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