怒り
人の思い出の品を手放させて、自分は家族と定期的に楽しい時間を過ごしていたのかと思うと、ツェツェリアの怒りは頂点に達した。
「殿下は貴方の費やしたせいで行き遅れた私の人生をすり減らして、一生を過ごすつもりだったのかしら?その上、貧しく窶れた頃に捨てるつもりだった?」
「ち、違うよ!お祖父様を説得して、ブルボーヌ公爵領に邸宅と仕事を用意してもらう計画だったんだ!お祖父様は二人とも平民として暮らすなら、その用意ができると...一生贅沢しても過ごせるだけのお金と土地、何もしなくともお金が上がってくる良い荘園を用意して下さってた。姉さんに、いつも言ってただろ?爵位を売って田舎で一緒に暮らそうって!それなら、姉さんを妻に迎えることも可能だから!」
配慮が足らず自分よがりな計画、言葉足らずの提案。
ツェツェリは眩暈がした。
「私の意思は?ずっと兄弟だと思っていたのよ?それを伴侶に迎える?貴方のことは大好きだったわ。でも、それは弟として、だった一人の血縁者で私の家族であったからで守るべき存在だったからよ」
「だから、いつも説得してたじゃないか!爵位を売って一緒に田舎で暮らそって!!僕がお金は稼ぐって、いつも言ってたよ。姉さんは本気だと気がついてもくれずに、流したけど...。そ、それに、姉さんの意思を尊重してたから、爵位もあの家も売ってないんだよ。さっさと売り払うのが正解だったんだ。売り払って田舎に引っ越したら、姉さんに断れない縁談なんて舞い込んで来なかったのに...」
「着ていた服を出して、流石に部屋着で公爵様にご挨拶をするわけにはいかないから」
汚れて、少し臭いもついているから気持ちの良いものではないけど、部屋着で帰るわけにはいかないし、ここで服を借りるよりよっぽどましよ。お礼を言ったら、とっととお暇しましょう
「挨拶する必要はないよ。公爵夫妻はこの屋敷にいないから、ああ、僕を産んだ方のお母様もね」
「そう、なら、帰るわ。服を出して」
「帰る必要なんてないんだよ?ここは僕の持ち物なんだから!姉さんと一緒に暮らす為に用意して貰ったんだ!だから、ずーっと一緒にいるんだ。誰にも邪魔されず」
レイモンドが別人に見える。
「何を言ってるの?」
「ん?何って?姉さんは1級侍女に殺された。世の中には存在しないのさ!だから、僕とここで末長く暮らすんだよ?大丈夫、姉さんを誘拐した1級侍女はお祖父様が捕まえてくれるから。彼女には姉さんを殺した罪で処刑して貰うね。そしたら、姉さんはこの世から消えたことになるから、大公との結婚なんかしなくてもいいんだよ」
嬉しそうに話すレイモンドをはじめ怖いと感じた。




