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決意 【セザール視点】

「主、どうしました?今日は一段と機嫌が悪いですね?」


 従者であるカロは本殿から帰ってから苛立ちを隠そうともせず、先程から、眉間に皺を刻んでガタガタと椅子を揺らしている主人に向かってヘラっと笑いかけ、グラスに赤ワインを注ぐ。


「婚姻が決まりそうだ」


 忌々しげにそう吐き捨てワインを煽る主人を気にもせず、飄々と言葉を紡ぐ。


「なら、夫人をお迎えする準備をしなきゃなりませんね。で、どなたです?その哀れな生贄は?真逆、蝋人形や馬ではないでしょうね?」


 カロはセザールの幼き頃よりの従者だ。セザールの母親が母国から連れてきた侍女と、護衛騎士の間に出来た子供だ。26歳ではあるが、童顔で柔らかな雰囲気を醸し出し、ツバメとして、売れっ子のオペラ歌手や大富豪の未亡人の間を飛び回っている。


「ディーン子爵令嬢だ」


「ディーン子爵…、ディーン…ディーン子爵と言えば、主の師匠じゃないですか?また、なぜよりによって、その将軍の大事なお嬢様と我が主が婚姻なさるのです?確か、将軍には、大事な孫娘は絶対に貴様にはやらん!と言われていらっしゃったじゃないですか?」


 カロは空になったグラスにワインを注ぎつつ、明るい口調のまま主人に尋ねた。


「兄さんの思いやりだ」


 忌々しげに、そう吐き捨てると、セザールは注がれたばかりのワインを飲み干した。


「ああ、このワイン高いんですよ?もう、空になっちゃうじゃないですか!で、ディーン子爵令嬢はお幾つなんですか?どんな見た目で?主は、メンクイでしょう?まさか、将軍そっくりってことはありませんよね?」


 小言を言いながらも、カロはセザールの手にある空のグラスに赤い液体を注ぎ、将軍そっくりの令嬢を思い浮かべて肩を震わせている。


 無礼な奴だ。


 そうセザールは思ってはいるが、カロを叱ったことは無い。カロはしっかりと弁えていて、セザール以外の誰かが居れば、気品正しい従者に徹するからだ。こうかる口を叩かれるのは、セザールにとって心地よかった。


「知らん。まあ、一回り以上下だろう」


「知らんて!ご自分の夫人となられる方ですよ?もう少し興味を持ちましょうよ〜。醜女だったらどうなさるんですか?私は、これから毎日顔を合わせるので、勿論、美人希望です!グラマラスで妖艶な方であれば主に代わって、私が夫人をお慰め致しますよ」


 さも楽しそうにそう嘯く従者をひと睨みするが、カロは全く気にする風でも無く、セザールが飲み干したワインボトルとグラス、そして、ドライフルーツとチーズの乗った皿を片付けだした。


 はあ、こいつが言う通り、娶るべき人間の情報くらい目を通しておくか…。結果は変わらぬが、準備と心積りは必要だな。


 兄からの手紙に添えられていた、釣り書に目を通してゆく。


 ツェツェリア・デール・ディーン、ディーン子爵の長子で、ディーン将軍の孫娘。現在、19歳だが、社交界デビューはしていない。家族は病気の弟がひとり。両親は崖から馬車で転落して死亡。母方の辺境伯からの微々たる資金援助はあるものの、薬代が嵩みその暮らしぶりは決して良くない。

 風貌は、亡きディーン将軍夫人によく似ており、優しげな白金の髪の持ち主。普段は弟を補佐し、領地の管理から、屋敷の管理、そして、弟の看病まで行っている。ここ数年のドレスや宝飾品の購入履歴は無し。


 さて、陛下へ彼女はなんと返事をするのだろう。これだけ困窮しているのだ、またとない機会に喜び勇むだろうか?裏があるのではと警戒するか?それとも、身の丈に合わぬと辞退するか…。まあ、彼女がどう返事をしようと、兄さんが決めたことだ、覆ることはあるまい。身の回りの整理をしておくか。


「まだ、送っていないレディ達に白いチューリップとメッセージカードを」


 セザールが女性との関係を終わらせる度に、ロイは白いチューブを一輪と、別れやその関係に対する礼を書いたメッセージカードを用意していた。それは、ロイが主人の体面と悪しき噂が立たないようと配慮して始めたことだったが、セザールもそれにより、鬱陶しい手前が省けると便利だと思ったいた。


「承知致しました」


 恭しく礼をとると、ロイは完璧な従者の顔に戻ると、ワゴンを押して部屋から出て行った。


 飲み過ぎたか…。


 セザールは窓の外に目を向けた。暖かな日差しと少し肌寒い風がアルコールを帯びた身体に気持ち良い。


 沢山の子のいた先王である父親は、父と呼ぶには遠い存在だった。外国人の母にはこの国での後ろ盾など無く、満足な支援は受けられなかった。ただ、先王妃が素晴らしい方で、俺達親子を気にかけて下さり、兄であるサガードの師であったディーン将軍を俺の教育係としてつけて下さった。今思えば敵に塩を贈る行為なのに…。


 ディーン将軍は優しく、時には厳しく俺を導いて下さった。御高齢だというに、俺が出陣する戦には必ず付き添って下さった。今、軍を率いて大公として小国を纏めることが出来るのも、ディーン将軍あってのことだ。何の恩返しもせずにあの世へ送ってしまったな。


 今回の縁談は将軍への恩返しの機会だと考えると、そう悪い話ではあるまい。令嬢がどんな人物であれ…。


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