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作戦 【マリッサ視点】

「我が主、次の機会は結婚式当日までございません。かのかたはそれまで、外出の予定もないようでございます」


 お仕着せを纏った私の言葉に、屋敷の主人はビクッと身体を震わせる。我が主人は、シガーを切り口に咥えた。私がさっと火をつけると、主はそれを加えてゆっくりと煙を吐き出し、この屋敷の主人である初老の男性に視線を向けた。


「どーしょっか?悩ましいねぇ。当日襲うか、旅の途中に拐かすか。それとも、その前に誘い出すか...。その後、王も殺さなきゃだから、正直なところ、大公殿下にら争わずに砂漠の向こう側へ早く帰って貰いたいなぁ」


 主は、指先でルークをつついた。


「彼女を使われるのですか?」


「うーん。彼女は終盤での使い道があるからねぇ、まだ、処分したくは無いんだよ。でも、こっちは、持ち駒が少ない上にナイトが無能ときた。クイーンを掌中に収めれば必ず一人の男は必ず狂うんだけどなぁ、嘗ての私ねように...」


 主は魅惑的に笑うと、赤ワインをグラスの中で回し、口を付ける。


「時間が無いとはいえ、今は待つべきかと...彼女が有罪と認められれば、だいぶ落ちぶれたとはいえ、かの門家の力を削ぐことができます」


「マリッサ、お前はもう動いたら駄目だよ」 


 そう言うと、主は私が街へ行くときに羽織っていたマントを、躊躇なく暖炉に放り込んだ。


「はい、私の主様」


 私は美しいその顔をうっとりと見つめる。


「で、ドンマンは見つかったのかな?」


 初老の男はニンマリと笑う。


「軟禁しております。いかが致しましょうか?」


「丁度いい状態(ガリガリに痩せ細り薄汚れたら)になったら、浮浪者が餓死でもしたように見せかけて、貧民街にでも捨てて置いたらいいよ。彼は罪が見つかるのを恐れてにげだしたんだから」


「承知致しました」


 そういう筋書きなのですね。ドンマンは犯罪がバレることを恐れ、逃亡して行方知れず。マリアンヌ様が追い出した御者とメイドの兄妹は、もう王都からだいぶ離れた村まで来ているだろう。エミリーが、お金と馬車を用意してやっただろうから。


 両親が死に、冷遇されていた伯爵家から救って下さったのが主だ。あの家にいたら、私の命はもう無かっただろう。伯父夫妻にとって、私は邪魔者でしか無かった。それに気が付いた時には、もう手遅れだった。全ての物を奪われ、伯爵家を伯父夫妻は我が物のように扱う。従姉妹はまるで伯爵令嬢気取りだ。


 そんな中、主が私を夫人の従者として、所望して下さったのだ。そのまま侍女として働くには幼かった私に、城での側室様の話し相手、という待遇を用意して下さり、今こうして命がある。


「姫様との婚約は無事にできたかな?」


「それが、姫様から断られまして...。息子も頑張って口説いているようですが...」


 初老の男の額から、暑くもないのに汗がでている。 


「簡単じゃなったのかな?最初に依頼したら、もう、すぐに落としてみせるって息巻いていたじゃない?あれは、嘘?姫様を娶らないと、君の息子を王太子の座につけることを、他の貴族が認めないよ?」


 困ったねぇと、笑っているが、その目は一切笑っていない。


「息子にはしっかりと言い聞かせます。で、貴方様が王座に付かれましたら、本当にかの方を娶られるのですか?」


 下心たっぷりの初老の男に反吐が出る。自分の娘をあてがいたいのだろう。

 

「ふふふ、私の運命だよ」


「かの方はいつ拉致をしたら良いでしょうか?」


 主はクイーンの駒を版の上で弄ぶ。この国の盾であり、剣であるセザール大公殿下を操る為の鍵。主は彼女の存在を手元に置くことこそが、この計画の成功の鍵だと言っていらっしゃった。だから、妃として手元に置き監視するおつもりなのだろう。


「式までに時間が無いよね。まあ、仮だから、無意味ではあるけど...。誘拐できたら、まだ、我れが犯人だとバレてはいけないんだよねぇ。大公殿下は彼女を向こうに戻るタイムアップギリギリまで探すだろうからぁ」


 かの国へ蛮族が攻め込んでくるという情報があるらしい。それを食い止める為に、大公殿下は人探しを諦めて帰らざるを得ない。クーデターを起こす日まで、彼女が私達の掌中にあることを悟られる訳にはいかない。


「いつ、王座を奪還するのですか?」


「ローランド公女の輿入れの日だよぉ。絶好の機会じゃないか!ローランド公爵がこの国へ帰ってくるのに1月以上かかるし、兵も公女とうちの貴族の護衛として、だいぶ出払うからね。王都は手薄さ。後は、大公殿下がこちらと対峙しなきゃ、勝ったも同然だからねー。その時がクィーンの出番さ!」


 初老の男は、ステッキを持つ手に力を入れると、喜色の笑みを浮かべる。


「城を守っているのは、禁軍のみになりますな!それだけであれば、我が私兵と我れらの味方で楽に片付くでしょう。お父様に軍の要請はなさらないのですか?」


 ガシャンとワイングラスの割れる音がする。皆がビクッと身体を震わせた。主は不機嫌そうに黙って部屋から出て行った。


 ああ、もう、『お父様』は禁句なのに!何でそんな簡単なこともわからないのかしら?本当に無能なんだから!はあ、矢張り主の側に私が居ないとね。言っても、私は伯爵家のそれも正妻の子、子爵家のディーン令嬢より身分は上よ。社交界の統制のため、右腕の私を王妃に迎えて下さるに違いないわ。まあ、ディーン令嬢は側室の名のもと、監禁されて利用されるんしょうけど。


 侯爵様、貴方の無能なお嬢様は、主の妃としての役割は無理ですよ?

 

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