表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/89

孤児院 【エミリー視点】

 エミリーが孤児院に行けたのは、ツェツェリアの結婚式2週間前だった。久々の市井で聞いた噂は、耳を疑うものだ。妹であるマリアンヌが、今回の事件の主犯ではないかというもの。


 赤髪は西の地方に多く見られる髪の色で、マリアンヌの父親であるクライネット男爵家の血筋のものだ。王都民や南北の方ではほとんど見ない。


 赤毛の令嬢がマリアンヌを連想させたのだろう。今王都にいる伯爵家以上の令嬢は、城で侍女を勤めている者が2数名だけで、彼女達は自由に市井へは来れない。後、赤毛といえば、西の公女とその血筋の者達。西の公爵令嬢である西の姫は学園の寮住まいで、学園から出られるのは長期の休みのみ、彼女の取り巻き達もしかりだ。


 箝口令が敷かれいたが人の口に戸は立てられず、王都民の大半が赤毛の令嬢の事を知っていた。


「エミリーお嬢様、弟様大丈夫かな?虐めにあってないといいんだけど、ほら、貴族の虐め、陰湿ってよく聞くしさ」


 貴族嫌いのデッドでさえ、心配するくらいなのだから、その噂は相当なものなのだろう。


「ねえ、不買運動とかは起こってない?」


「うん、それは大丈夫。一応、ジャネット様がほら、代表?だから...皆、ジャネット様好きだし...」


 デッドの言葉は歯切れが悪い。エミリーの鼓動が激しくなった。


「何か他に問題でもあるの?」


「うん、ほら、マリアンヌお嬢様の乳母様だった方の家に石が投げ込まれてる。その人の親戚の家にも。後、マリアンヌお嬢様ご贔屓の店は閑古鳥」


 貴族の不祥事は、普段のストレスの吐口になりやすい。特にそれを傘にきていた者達は一揆に叩かれる。デッドはそれが原因で孤児になったのだ。


 エミリーはそっとデッドを抱きしめた。


 デッドから貰った蠍への依頼者の似顔絵は、肝心な部分は描かれていなかった。フード被っていて、皆んなが見て居ないのだ。ただ、そのフードか特徴的で、エミリーは幾度となく目にしたものだ。


 マリアンヌがよく市井へ行く時に使っているモノと同じデザインなのだ。たかがフード付きマントなのに、限定品でドレスより価値があると、マリアンヌが自慢していた逸品だ。


 状況証拠だけなら、もう、犯人はマリアンヌとしか言いようがない。ただ、デッドの話を聞く分には、マントのことはまだ、誰も気が付いてないみたいだった。


 デッドと別れ、いつも通り女神様に会いに寂れた教会へ行く。入口に聳え立つ木は相変わらず、薄気味悪い。この木のせいで、ただでさえ寂れた教会が、昼間であるに関わらず不気味な雰囲気を醸し出していた。


 女神像の前で膝まづくと、いつものように祈りを捧げる。


「女神様、ありがとうございます。全て上手くいってます。上手く行き過ぎで、怖いくらいです。マリアンヌが事件の犯人なんですか?私はマリアンヌを告発すればいいんでしょうか?そうすれば、マリアンヌのいる場所が私のものになりますか?」


『王太子殿下に取り入って、マリアンヌが犯人かも知れない。自分も枯れ草色の髪だから怖いと泣きつきなさい。弟君はしっかりと慰めてあげるのですよ。貴女の助けとなるでしょう』


 ドロっと甘ったるい声がいつもの様に耳から流れ込む。


 割れたステンドグラスから金色の光が差し込み、お告げを授ける女神像を黄金に照らし出す。その神秘的な光景に暫し我を忘れて見入っていたが、そう遅くなる訳も行かず、エミリーは足早に教会を後にした。


 屋敷に戻ると、マリアンヌの甲高い声と声変わりした弟の言い争っている声が聞こえる。


「姉様、なんてことをしてくれたんだ!おかげて、俺がどれだけ苦労したと思う?」


「私が犯人じゃないわ!何故信じてくれないの?」


「信じるも何も、世の中の殆どの人がそう思っているよ。殺された令嬢達は、学園で姉様に虐められた人達なんだろ?学園で虐めた上に、それで飽き足らず、命まで奪うとはなんて人なんだ!」


 マリアンヌが虐めた人達?


 エミリーはそっと廊下の角に隠れて盗み聞きをする。


「私、虐めなんて低俗なことしていませんわ!」


「はあ?俺がそのせいで、どれだけ学園で苦労したと思ってる?全く、くだらない正義感振り翳して、彼女達の兄弟や親がしたことを責めたてたんだろ?よく知りもせずに!うちの家門の者達が姉様に付き添わないのにも、苦言を呈したらしいじゃないか?」


「当然でしょ?何故、私に付き添わないのよ!ローランド公女は付き添われてたわよ?」


「はあ、馬鹿じゃないのか?彼女には付き添う価値があるからだろ?ローランド公女は外国の王族に嫁ぐことが決まってるんだぞ?一緒に侍女として渡る者が付き添ってたんだよ!ジャネットお姉様の時も然りだ、ジャネットお姉様に付き添った者達は、婚姻の世話をして貰った上に、宝石店やブティックを任されているよ。当時、王太子妃を断った姉様に、学生生活を犠牲にしてまで付き添う旨味なんてないだろ?」

 

 無償で仕えてくれると思ってたんだ。で、学園で自分に傅いてくれる門家の令嬢がいると期待して入学したら、誰も居なかったと、笑えるわ。


「じゃぁ、貴方にも居なかったの?」


「はあ?いる訳ないだろ?もし、殺してないなら、余計なことして、王太子妃になれない事態だけは避けてくれよ!」


 そういうと、弟のマシューは立ち去った。


 マリアンヌに見つかって、トバッチリを受ける前にお義母様の所へ報告に行った方が良いわね。


 エミリーは急いで、夫人の執務室へ向かった。エミリーの報告を聞いた夫人は当然ではあるが顔色が悪い。


「エミリー、ありがとう。助かったわ。明日から王宮へ行って教育を受けなさい。決してマリアンヌに見つからないようにするのよ。もし、見つかったら、侍女の為の勉強に来ていると言いなさい、良いわね」


 マリアンヌが事件で裁かれるかもしれないから、もしもの為にスペアとして、準備しておけと言うことだう。


 エミリーの胸は高鳴る。マリアンヌの居場所を自分のモノにするチャンスが巡ってきたのだ。


 敢えて、神妙な顔を貼り付け、返事をすると、マリアンヌに合わないよう気をつけながら自室へ急いだ。ベッドに潜り込むと、頭から布団を被って大笑いをする。とても気分が良い、だが、それを家の人達に気が付かれてはいけない。マリアンヌを気遣う良い姉で無ければならない。ひとしきり喜びを噛み締めると、必死で未だ正気を取り戻さない生母のことを思い、湧き上がる心を沈めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ