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マリッサ

「申し訳ございません。私がマリッサ様に助言を頼んだばかりに」


 マリッサとは王宮侍女の一人だと説明を受ける。マニエラは泣きながら、何度も頭を地面に擦り付けて謝っている。それをセラが制するように止める。


「マニエラ、貴女だけではないわ。メイド達も他の宮殿のメイド達に助言を求めていた訳ですし。ここにいる者達は、実力はありますが朝廷では力の無い家門から推挙された者達。自分の判断に自信が持てなくて、他の宮に仕える者に助言を求めるのは自然な流れです」


「まあ、服や店、髪化型の他の宮殿の王宮メイドや侍女に聞いていたというわけだ。罰する必要はないわな。そのマリッサ様とやらも、他の侍女に聞いた可能性があると。まあ、主犯格は貴族でしょうね。それも、伯爵家以上の王宮の情報を収集できる能力のある者に限られるよね」


 カロは戯けるようにそう言うと肩をすくめる。


「ツェツェが何故、狙わられる!」


 声を荒げるセザールをカロが呆れた顔で見る。


「いや、主が原因かと。主に袖にされた御令嬢方の逆恨みの可能性が一番濃厚だと思いますよー」


「令嬢方が殺人なんてできるとは思いませんわ。それも、無関係の方の」


 軽くて嫌味。悪くて良くない噂を流されて社会的に抹殺されるくらいよね。それに、私の命を狙ってるなら、他の令嬢達が殺されたことについて説明がつかない。


「だな、あんな猟奇的な殺し方を好む令嬢はおらんだろ」


 セザールがツェツェリアの言葉を肯定した。


 首を切り落とし、頭の膚を剥ぎ取り持って行くだなんて...。人間がすることとは思えない。


「なら、何かの儀式の線が有効ですね。連れ去られ、殺害されたのが皆貴族の未婚女性。その上、枯れ葉色の髪。殺害場所は廃屋の貴族邸、そして全て主寝室のベッドの上、持ち去られた物は頭部の膚のみ。ご丁寧に装飾品は全て外して置いて行ってますから。そうなると、ディーン令嬢のみを狙ったって線は消えるのかな?」


 ふむと、首を傾げるカロにセザールが視線を向ける。


「ツェツェが、その枯れ葉色の髪の貴族女性のリストに入っていたと考えるべきといいたいのだな?」


「しかし、物騒な儀式ですこと、必要なモノが人間の頭部の膚だなんて。女神様達の儀式でもそんなの聞いたことがありませんよ」


 セラの言葉に一斉に視線が集まる。


「女神様の儀式とは何だ?」


「セザール殿下のお母様は他国の姫様でしたね。公爵家は全て、女神様の末裔であることはご存知ですよね。公爵家の当主には、代々女神様と対話する為の呪いが受け継がれるんですよ。実際に対話できるのかは知りませんけど。その儀式に必要なものが、女神様ごとに違うそうですよ。前王妃様に仕えていた時に用意を手伝ったことがありますから」


 儀式の供物。まさか、そんな物騒な物を捧げるように要求する女神なんていないわよね。


「王妃様が当主とは?当主はルーズベルト公爵夫人なのではないの?」


「違いますよ。便宜上の当主はルーズベルト公爵夫人ですが、今の本来の当主はジャネットお嬢様です。本来なら、ルーズベルト公爵はジャネットお嬢様が婿養子を貰って継ぐ予定だったのですが、何故かそれを夫人が拒まれましてね。今に至るのですが...」


 頭を抱えるセラに、ツェツェリアは疑問をぶつける。


「ルーズベルト公爵には公子がいらっしゃるじゃないですか?なら、公子が継がれるのが一般的なのではないの?」


「普通の貴族ならそうでしょうけど、公爵家だけは違います。公爵家一つにつき一人の女神がいます。それを護る者は、前当主から儀式の方法と秘宝を受け継いだ方ただ一人です。前王妃様は王妃になられたので、ご自分が当主としての役目を果たすのが不可能でした。ですから、妹君である公爵夫人が当主代理をなさったのです」


 前王妃様が儀式の方法と秘宝を渡した相手が、ジャネット様だったのね。


「儀式の供物は何だったのだ?聞いても差し支えないか?」


 遠慮がちに尋ねるセザールに、セラは気遣いは不要だといった雰囲気で答える。


「髪の毛とペルトーア時代の硬貨の用意を頼まれましたが、他にも必要な物があったのかもしれません。それを私が知る術はありませんので」


「そうだな。それは、ジャネット殿が知っていればいいことだ」


「基本的には、髪の毛か血液一滴。面倒なものだと感動で流した涙や笑って流した涙なんてのもあります。それらと、その女神様を象徴する物品が普通です」


 聞き取りを終えたゼロニアスが執務室へ入ってきた。


「詳しいな」


 感心するようなセザールの言葉に、ゼロニアスは当然だとサラリと返す。


「仕事がら、そういった情報は嫌でも集まってまいりますので」


「聞き取りは終わったのか」


「はい」


「結果は」


 ゼロニアスの表情が固くなる。


「じつは、ツェツェリアお嬢様のことを嗅ぎ回っている人物がいることがわかりました。ただ、誰かまでには特定に至りませんでしたが。赤髪の毛若いメイドだと皆が言っております。ただ、その者が本当に城のメイドかと問われれば、何とも言えないのが現状でございます。メイドなど制服さえ手に入れれば、なりすましておっても気づかれ難いものですし」


「具体的には、何を探っていたのだ?」


「予定はもちろん、普段の御召し物や食の好み、好きな花や普段どう過ごされているかまで、多岐に渡ります」


 セザールはドサッと座っていた椅子の背もたれに身体を預けた。


「はあ、訳がわからん。供物なら趣味趣向は不要だろ」


「そうでございますな。まるで娶る準備をしているみたいですね」


「ゴホ」


 ゼロニアスの言葉にセザールが咳き込む。


「あーたしかに。女の子落とす時は、相手の好きなモノとか好きなこととか調べるもん」


 ニヘラっと笑って、そう言うカロをセザールが睨み付ける。


「赤毛のメイドを探すのが得策でしょうな」


 ノックの音がして、一人の騎士が入ってきた。


「ルーズベルト公女様が、お嬢様にお会いになりたいといらっしゃっております」


「はあ、応接室にでも通しておけ」


「あの、それが」


 騎士を押し退けるように、マリアンヌが執務室へ入って来た。


「セザール殿下、ディーン子爵令嬢、ご機嫌よう」


「だれも、君の入室を許可した覚えはないんだが?と、名前で呼ぶのは止めるようにと言ったはずだ」


 セザールは不機嫌も露わにマリアンヌを睨む。


「そんなにお怒りにならないで下さいませ。つい幼き頃の癖で...申し訳ございません。私もディーン令嬢を心配して参ったのです。殿下があの事件を気にして、このホワイト宮にディーン子爵令嬢を置いていらっしゃったのですね」


 マリアンヌはチラッとツェツェリアをみて、にっこりとセザールに向かって微笑んだ。


「何がいいたい」


「いえ、元将軍の家とはいえ、今のディーン子爵家では危険でしょうから、致し方のないことですわ。ですが、殿下に甘えるのはどうかと思いますの。まだ、婚約者の身分でしょう?」


 出て行け、婚姻前に同じ屋敷に住むのは王族の婚約者として、風儀を乱すとでもいいたいのかしら?


「甘えるですか。私から住まわせてくれと言ったことは、一度もございません」


 失礼ね、帰りたいって言ったのに帰してもらえてないだけよ!


「まあ、なんて人!」


 マリアンヌは手を振り上げて、ツェツェリアの頬を叩こうとしたが、しかし、セザールに腕を掴まれて阻まれる。


「君は一体何がしたいんだ?謝りに来て、謝るべき相手を打ち据えようとするとは。ツェツェの言う通り、彼女に頼まれて住まわせているのではない。俺が帰れぬように、ここに囲っているだけだ。文句あるか?ツェツェが弟君を理由に出ていかぬように、ディーン子爵も連れ込んで、ディーン邸を勝手に改装中だから、彼女の帰る家はないが、それでも、出て行けというか!」


 マリアンヌはキッと、ツェツェリアを睨む。


「ですが、彼女は礼儀かなっておりませんわ。王宮で生活するには、最低限の礼儀を身につけなければなりません。そうしないと、本殿より奥には行けない決まりですわ」


 必死に食い下がるマリアンヌに、セザールが鬱陶しそうな視線を向ける。


「はあ、ごちゃごちゃと俺の宮でうるせぇなぁ。ここの宮に関しては俺がルールだ。なんせ、俺の管轄であり、俺の持ち物だ。ここは、本殿の奥じゃない。正確には横だな。本殿の横の脇道から連なる宮殿の一つだからな。他は、兄さんが潰しちまったが」


「でも、王族に嫁ぐのですから、ちゃんと本殿で教育を受ける必要があります。私は同じく王族に嫁ぐ身として、助言をしているだけですわ」


 本殿でではないけど、カロやセラから教育は受けている。この二人が教師に相応しくないなら、別ですけど...。正直なところ、不十分なことはわかってはいる。結婚式までの残り日数は少なく、この前倒れたことでただでさえ足りない時間をロスしたことは否めない。


「まだ、淑女としての教養が足りないことは自覚しております」


「なら、明日からでも、本殿で学習なさるといいわ。私と一緒に学べるように手配してあげるから」


 マリアンヌは勝手に話を進める。


「ですが...、私は基本的なことから勉強中でございますので、ご一緒に学習するのは難しいかと...」


「あのな、ツェツェは俺の婚約者だ。何故、ルーズベルト公女、君の指図を受けなければならない?何故、君がツェツェの学習の手配をする?一体、何様のつもりだ?ごちゃごちゃ言ってないで、自分の責任を果たせ。ツェツェに不作法というんだ。王宮の決まりくらい知ってるんだろ?」


 セザールが言う王宮の決まりとは、睡眠薬を盛って逃げたメイドと伯爵令嬢を拉致して姿を眩ましたメイド達の責任の所在だ。重大な事件を起こし、姿を眩ました場合は、その者を推挙した貴族が責任をとることになっている。


 今回は伯爵令嬢の命が関わっている。もし本当に、マリアンヌ穣が引き入れたメイド達が、この事件に関わっているなら、彼女が犯人を城へ引き入れたと言っても過言ではないわね。


「彼女達は探しておりますわ。ですが、脅され彼女達は利用されたのです。そうに決まってますわ。ですから、彼女達も被害者なのです」


「被害者か。なら、こんな事件が宮中で起こった原因は、誰にあるのだろうな?未来ある伯爵令嬢の命は、どう償う予定だ?」


「わかっておりますわ。ジャネットお姉様に相談して...」


 セザールは、呆れたような軽蔑したような視線をマリアンヌへ向ける。


「ジャネット夫人に尻拭いを頼むのか?」


「失礼致しますわ」


 マリアンヌはツェツェリアを睨むと、執務室から足早に立ち去った。


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