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犯人はだれ

 目が覚めると、ホワイト宮殿の自室だった。


 デジャブだわ。


 横には泣きそうな顔のマニエラ。


「良かった、気がつかれて...」


 マニエラの瞳から大粒の涙が溢れ出る。マニエラは泣きながら、水差しからグラスに水を入れて、起き上がったツェツェリアへ渡してくれた。それを飲み干したころ、ノックもなく、ドアが開き少し疲れた様子のセザールが入ってきた。ツェツェリアが起き上がっているのに、気がつくと大股でベッドに近づくと、空になったグラスを取り上げベッドの前に跪くとその手を握りしめた。


「気分はどうだ?痛いとこや、苦しいところはないか?」


 泣きそうな顔をして、ツェツェリアを仰ぎ見るそこには、自信満々のいつもの大公ではない。


「大丈夫です。少し、お腹が空きました」


 心配をかけないように、少し笑ってそう言えば、食事の用意を頼む為か、マニエラが急いで部屋からで出ていった。


「良かった、ツェツェリア、君が無事で」


 そう言うと、セザールも少し落ち着いたのか、近くにあった椅子を持って来て、ツェツェリアの横に座った。


「大丈夫ですか?」


 セザールのあまりの憔悴ぶりに、ツェツェリアは心配気に視線を送る。


「ふっ、今日は珍しく気を遣ってくれるのだな。ああ、実は君が眠らせている時に、一人の令嬢が攫われてな。遺体で見つかった。これで4人目だ」


 ツェツェリアも耳にしたことがある。枯れ葉色の髪を持つ貴族令嬢が死体で見つかると言う事件だ。


「では、私も狙われていたのですね」


「あゝ、君が攫われていただろう。エメラルド宮で気分が悪くなった貴人は、基本的にエメラルド宮の貴賓室へ運び込まれるのが通例だ。その令嬢は、君が倒れた事件で、驚いてひきつけを起こし、エメラルド宮の貴賓室で休んでいたらしい」


 ツェツェリアの顔が真っ青になる。


「私がターゲットだったなんて」


 セザールが宥めるように、ベッドに乗り上げて震えるツェツェリアを膝の上に抱き上げ抱きしめる。


「ふと、ライラック姫のディーン令嬢の側で若い娘を狙った犯罪が増えていると言う言葉がよぎって、無理を承知で倒れた君をここへ連れてきたのだ。ここには、ディーン子爵の為に医者が常在しているしな」


「連れて来て下さってありがとうございます」


 セザールの服にしがみつくツェツェリアの背中をセザールは優しく撫でる。


「心配だったしな。エメラルド宮の貴賓室は、流石に俺は入れないから」


 エメラルド宮に入れる男性は、宮殿医局長と陛下だけだったわね。使用人も騎士も全て女性達だ。そんな中で起きた事件ですから、王妃様の怒りもショックもさぞかし大きかっただろう。


 忙しい中心配で駆けつけてくれ、無理をしてこの部屋へ連れ帰ってくれたセザールに心の中が温かくなった。


「犯人は見つかったのですか?」


 大事にされている事実を実感して、急に恥ずかしくなり俯いたまま話題を変える。


「ああ、実行犯はな。目星がついているが、多分もう消されているか、とっくの昔に王都から出て行っただろうな。主犯は王太子が必死で探しているよ」


 まだ、震えが止まらないツェツェリアを心配そうに見つめながら、セザールは優しく宥めるように言葉を紡ぐ。


「なら、すぐに捕まりますね」


 王宮で働いている使用人達は全て、貴族達が後見人になっているから、身元がしっかりしている。基本的に貴族の屋敷で数年仕えて、主人に推薦状を書いてもらい初めて城で働けるのだ。


「だといいんだが、難航しそうだ。今回、事件後姿を消したのはマリアンヌ嬢が推進している、貧民救済計画で城へ推薦した者達なんだ。その責任はマリアンヌ嬢へ行くと思うが、その者達の素性が曖昧なんだ」


 貧民救済計画とはマリアンヌ嬢が、マンセンディア孤児院で行っている授業のことだ。貴族に仕えるマナーを学び、貴族の屋敷で働ける機会を得るのが目的らしい。しかし、そんな機会は身元のしっかりとした、ある程度裕福な家の出の者にしか来ない。


 だから、その授業を受けるのは、授業が目的というより、お昼に出る白いパンと焼いた肉、また、授業で支給されてるインクや紙の束の転売目的の者達だ。それでは良くないと、ここを卒業すれば貴族屋敷て働けるのだと証明するため、その先駆けとして、マリアンヌ嬢が優秀な人物を数名、城へ自分の名前で推薦したのだ。


「あっ、なるほど、間借りで定住地がない人達や、仕事のたびに家を転々とする人達も多いですから...」


「ああ、そうだな。本来、このような事件を起こせば、本人はもとより、推薦者、家族から親類に至るまで処罰が下る。だが、彼等はそれがいない。家族すら、本当に血の繋がりがあるのか怪しいのが現状だし、その家族ももう、見つからないだろうな」


 これでは、実行犯を草野根を掻き分けてでも探す他ないのかしら...。


「なあ、陛下に俺との婚約を告げられた翌日、ガーデン通りの薬屋に行ったか?」


「ええ、行きましたわ。毎月その日は、そこの薬屋にレイモンドの薬を貰いに行くんです」


 薬屋がどうかしたのかしら?


「そうか、やはり」


 セザールの顔色が悪い。


「どうしたのですか?」


「ああ、全ての連れ去りがツェツェリア、君の周りで起こっているんだ。最初の事件、殺害された令嬢もその日、その薬屋へ行っていた。次に連れ去られた令嬢だが、君の家の近くにあるケーキ屋に行く予定だった。そして、その次の被害者はブルボーヌ家の船上パーティーに参加していたらしい。で、この前の外出でツェツェリア、君の連れ去り。極め付けに、王妃主催のティーパーティーだ」


 ツェツェリアはセザールの服を握っている手に力を込めた。


「私が狙われているのでしょうか」


「ああ、その可能性が高い。取り敢えず、常に俺の目の届く範囲にいるように。寝室もとうぶん同じ部屋を使おう。エメラルド宮ですら安全でないのなら、必ずしもここも安全とは言い切れない。しかし、どこから、ツェツェの予定が漏れたのか...聞き取りをした方が良さそうだな。カロ、そこにいるのだろう?ゼロニアスを呼び戻し、聞き取りをを依頼しろ!領地の方はディーン子爵家の新代官は粗方仕事を回せるようになったのだろ?」


「粗方どころか、きっちり仕事をなさっていますよ。優秀な事務次官様が代官ですからね」


 カロがスープの乗ったワゴンを押して入ってきた。


「そのような方、うちで雇うお金はありませんわ」


 膝の上に子供のように抱き抱えられている事に、急に羞恥心を覚え固まる。


「大丈夫ですよ。姫様が降嫁なさりますから、そしたら、姫様直轄地の管理も必要ですし、ほら、ブロード侯爵家から頂いた鉱山の管理もありますし。久々の腕のなる仕事だって、代官殿張り切ってますよ!ちゃーんと、ディーン子爵への報告も行ってますからご安心ください。この事件が片付いたら、我がアールディア国へいらっしゃる前に領地へ行きましょうね。みんなで!ああ、ゼロニアス様がいらっしゃるまでに、お嬢さん方とお姉様方の聞き取りは私がしときますので、ご安心を」


 カロは口を動かしながら、テーブルをベッドの側に運びスープを並べて、先程までセザールが座っていた椅子をセットして、言いたいことだけ一方的に伝えると、さっさと部屋から出て行った。カロに見られたことで、恥ずかしくなり、身体を離そうとすると、セザールはツェツェリアを椅子の上に下ろした。


「はあ、アイツ。だそうだ。領地のことは気にするな。さあ、ゆっくり食べろ。俺はそこで仕事をするから」


 応接テーブルの上には沢山の書類が積まれ、ツェツェリアが目覚めるまでそこで仕事をしていたことが伺えた。




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