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陛下 1 【セザール視点】

 生きている意味を見出せず。ただ、無内容な日々の濫費。命なんてどうでもよくて。守べき者も大事なモノも特に無く。人にどう思われようが構わず、毎日毎日をぶっ壊して生きてきた。魑魅魍魎のように権力争いの道具にしようとする者達に嫌気がさし、この顔吸い寄せられ羽虫のように寄ってくる女達が鬱陶しい。


 そんな中、目の前に光が差し込んだ。運命的な出逢いというよりは、ただただ懐かしかった。幼き頃、安息を運んできた憧れの女性。その女性が目の前に現れたと錯覚した。とうにこの世に居ず、まごうことなき別人と分かりきっているのに。


 最初は単純な興味だったと思う。女達が見惚れるこの顔にも見向きもせず、必死で離れようともがく姿が面白くてつい手元に置いてみた。懐かぬ子猫を手懐けるように、ドレスや宝飾品で気を引こうとしたが見向きもしない。


 いつしか、その気持ちを手に入れたくて、必死になっている自分に苦笑いが漏れる。


 ベッドに横たわっているツェツェリアの頬をそっと撫ぜた。


 ツェツェに付けていた護衛騎士なから連絡を貰った時は肝が冷えた。たまたま、連れ込まれた馬車をマニエラが見ていたのが功を奏した。王都でも高級な貸し馬車屋のもので、その中でも最上級のものだという。


 騎士を総動員して人海術で探すとすぐに馬車が見つかった。店主もまさか人攫いに馬車を使われていたとはと、かなり驚いていた。店主の話では、もう、4回目の借入で金払いもよく安心しきっていたという。借りにくるのも身なりの良い女性で、顔は髪とフードでよく見えないものの。明に貴族のそれとわかる美しい所作に、伯爵以上がよく使うルーマン金貨での支払いだったという。


 連続殺人事件と同じ犯人なんだろか?


 手に伝わる温もりに安堵する。戦場で何人もの命を躊躇なく奪った手だというのに。


 手のひらを見つめ、拳を握りしめた。


 ああ、俺はこの温もりを失ったら、狂ってしまうだろうな。


「なあ、カロ。好きってなんだ?」


「珍しく哲学的ですね。どうされました?」


「いや、いい。なんでもない。それより、その女の身元はわかったのか?」


 貴族の屋敷に仕えるメイドか侍女だろうな。なら、犯人は厄介なことに、伯爵以上の貴族。何故、人を殺める。


「いえ、まだです。ただ、店主の話ではかなり完璧な所作だったそうで、男爵令嬢より身分が高そうだと...。自由民とはいえ、彼は高貴な人物と接する事が多い人物です。人を見る目は確かかと」


 男爵令嬢以上の所作...メイドではないな。


「髪の色は?」


「赤毛です」


 赤毛の令嬢か。


 マリアンヌ嬢の顔が一番に浮かんだ。


 いや、まさかな、彼女がそんなことを仕出かすとは思えない。ただ、赤毛の女が令嬢であれば、その背後の黒幕は考えたくないな。高位の貴族であればかなり厄介だ。


「ツェツェリア個人に恨みがあるのか、単に貴族の女性を狙ったのか。確かなのは、犯人は男と女の2名上と考えるのが妥当だな」


 カトラリー以上重いものを持つ習慣のない令嬢が、ツェツェリアをベッドまで運ぶのは無理だ。問題は主犯が男なのか女なのかということだ。高位の令嬢が企てたのなら、そのパートナーは身近な下僕。彼女は信頼できる侍従を従えていることとなる。それも、必ず自分を裏切る心配のがない者。


「うへ、手掛かりは赤毛のみか」


「男が主犯の場合は、家族ぐるみの可能性が高い。明日、兄さんに類た事件が起こってないか尋ねるか。で、その手紙の束は、いつものアレか?」


 カロは十数通の手紙の束を迷惑そうに手渡す。


「はい、どーせ、全て抗議文でしょう?」


 見る必要あります?とでも言いたげな雰囲気だ。ペーパーナイフで開封し、サラッと内容を確認する。


 どれも変わり映えのしない内容だ。ディーン家では後ろ盾にならぬから考え直すべきだ。貴方の為にこうして忠言を書いたと。婚約だから破棄は簡単だろと、全く人を頭の弱い戦争狂だと思っているのか、舐められたものだ。まあ、いままで乱雑に処理していたことのツケが回ってきたと言えばそれまでだが...。


 いらん忠告に軽い怒りが湧くが、手紙の主の中に犯人が居るかもと思うと目を通さざるを得ない。


「名前を控えて、後はどこかにしまっておけ、くれぐれもツェツェの目に入らないようにな」


 カロが別に持っている一通の手紙が目に留まる。


「で、その手紙は誰からのだ?」


 カロは言いにくそうに口を開いた。


「ブロード侯女からお嬢様への手紙です」


 本来ならツェツェリアが開封すべき手紙だ。だが、躊躇なくペーパーナイフを入れる。お茶会の招待状と、相手を馬鹿にしたような内容の手紙が同封されていた。教養が無ければ、馬鹿にされていることすら気付かず、喜んで参加するような内容に悪辣さを感じる。


 はあ、俺の力不足だな。これだけツェツェを大事にしていると、アピールしているのに、こんな手紙を寄越すとは。


 失礼な招待状は、さっさと暖炉に焚べた。


「あの、燃やしても良いのですか?一応、お嬢様へ来た手紙では?」


「手紙と呼べるものでは無いな」


 何かいいたそうなカロを黙らせる。


「わかりました」


「明日、兄さんのところへ行ってくる。ツェツェの護衛はお前自ら行え」



 

 

 

 

 


 

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