レイモンド
「姉さん、好きなんです。もし、僕達が兄弟じゃなかったら、大公殿下が姉さんと結婚しなくても死ななかったら、僕の気持ち受け入れてくれましたか?」
「えっ?」
ツェツェリアの驚いたような顔に、レイモンドははんなりと笑う。
「冗談です。それくらい、姉さんが大事だっていいたいんです。僕にとっての世界は全て姉さんだから、姉さんがお嫁にいくなんて耐えられそうになくて」
「レイ私、やっぱり、頑張って探してみる。私が大公殿下と結婚しなくても、殿下が死ななくて良い方法!」
「その言葉だけで、僕は幸せでいれます。いつもみたいに抱きしめて頭を撫でて下さい。そうすれば、また、明日からも頑張れます」
ツェツェリアは座っているレイモンドの横へ行き、抱きしめてその頭を幼児にするよに優しく撫でる。
「レイ、体調はどう?」
「最近は調子がいいですよ。姉さんが長く側にいてくれる日は特に。王宮医者も安心でる相手が側にいると、気が安らかになり、回復しやすくなると言っていました。こうして、一緒に食事ができる日が増えれば、もっと安定すると思います」
腕の中で嬉しそうに見上げてくるレイモンドに、ツェツェリアの心は暖かくなる。
「まあ、ならなるべくこの部屋で過ごさなきゃならないわね」
「それより、姉さん、攫われたって聞いたけど、大丈夫でした?僕、姉さんに何かあったら...」
レイモンドは心配そうに、上目遣いで見上げてくる。
ああ、可愛い。本当に癒されるわ。
「大丈夫よ?ほら、なんともないわ」
「ん、でも、手首赤くなってる」
レイモンドは少し擦れて赤くなった手首を心配そうに見つめる。
「これくらい、すぐに治るわ」
「そうだ、薬塗ってあげるよ。これ、よく効くんだ。王宮医に貰ったんだよ」
レイモンドはテーブルの上の塗り薬を、ツェツェリアの手首に丁寧に塗っていく。
上から見下ろすとレイモンドの長いまつ毛がはっきりと見えた。
「レイモンド、本当に綺麗な顔をしてるわね。姉の私でもドキドキしてしまうわ」
ツェツェリアは美しいその顔に見惚れ、ほうと溜息を吐くと、レイモンドは嬉しそうに視線を合わせきた。
「ふーん。姉さんはこの顔が好きなんだ。なら、この顔に生まれてよかった」
子犬のように屈託なく笑うと、薬の蓋を閉める。
「もう、姉を揶揄うものではないわ!」
「揶揄ってないよ!ほら、さ、嫌いな顔より好きな顔の方がいいだろ?やっぱり!僕も姉さんの顔好きだし」
笑いながらレイモンドがそう言うと、ツェツェリアもクスクスと笑出す。
「まあ、そうね。でも、私はレイがどんな顔でも大好きよ!だって、たった一人の兄弟なんですもの」
「兄弟ね」
少し寂しそうにしたレイモンドをツェツェリアは心配そうに覗き込む。
「ん?どうしたの?」
「もし、姉さんと僕が兄弟じゃなくても、姉さんは僕のこと好きになってくれた?」
少し怯えた風に質問するレイモンドに、ツェツェリアは大丈夫よとでも言うように、レイモンドの頬を両手で包みゆっくりと視線を合わせて微笑む。
「勿論よ。もし万が一兄弟でなくても、レイのことは大好きよ。まあ、そんなことはないけどね?レイは私の大事な弟なんだから」
レイモンドはツェツェリアの手に自分の手を重ねて、それを包み込むとゆっくりと瞳を閉じた。
「ん、わかった。姉さんありがとう。今は、これで充分だよ」
コンコンと部屋をノックする音がした。
部屋を出る時間のようね。
「レイ、またくるわ」
「うん、おやすみ姉さん」
ツェツェリアは、後ろ髪を引かれながら部屋を後にした。




