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憂鬱

 ツェツェリアは相変わらず、ホワイト宮に軟禁状態の日々だ。従者であるカロが懸命に、ツェツェリアに自由をと訴えてくれてはいるみたいだが、その主人であるセザールは、城で行われた夜会の翌日から、前にも増して、ツェツェリアを側から離そうとはしなくなった。


 その上、今日はセザールの機嫌が非常に悪い。財務大臣であるローランド公爵からの招待があったそうだ。ローランド公爵の力は権家の中で最も強く、セザールも無視できる存在ではない。まともな方ではあるが、一癖も二癖もある人だ。国益の為なら、孫娘でさえ他国に嫁がせてしまう冷酷な一面もあると、カロが教えてくれた。


「カロ、オレの不在中は、お前がツェツェリアの側にいろ!」


「そんな訳には、いかないだろ?相手は、ローランド公爵だぞ!俺が付き添わないと、軽んじられたって思われるだろう?」


 いつもの、ぜザールの無茶振りにカロが顔を歪めて、悪態をついている。ツェツェリアは二人のやり取りが可笑しくて、ついクスリと笑ってしまった。


 チッ、と舌打ちするとセザールは、ツェツェリアの頬に手を添え、視線を合わせる。


「そう、笑うな」


 ぶっきらぼうにそういえば、カロが盛大なため息を漏らす。


「主、そういう所ですよ、ディーン令嬢に勘違いされるのは!ほら、不敬だったかと心配されてるじゃないですか!まったく!ディーン令嬢、主は、レディが私に笑顔を見せるのが、お気に召さないだけですから、どうか、先程の主の言葉は、無視なさって下さい」


 カロのあまりの物言いに、ツェツェリアはポカンとほうけ、セザールはバツが悪そうにガシガシと頭を掻いた。


「なら、俺が外出する日の、ここへの外部の者の出入りを禁じるか...」


「主がここにいらっしゃらないなら、この宮へ来る者なんていませんよ!そんなに心配なさらなくても、良いでは有りませんか?それに、これには、婚約者様も是非一緒にと書いてあります。心配なら、ご一緒にお連れになればよろしいのでは?帰りに、ご一緒にディーン子爵邸により、レディの必要な物もお持ちになれば、よいではございませんか?屋敷は、長らく手入れがされておらず、補修に時間が必要なようですし?」


 矢継ぎ早に畳み掛けるカロにツェツェリアが食いつく。


「私もご一緒して良いものなのですか?カロの言うように、一度、屋敷の様子を確認しに帰りたいのですが...」


 ずーっと、執務室と寝室、そして、たまにレイモンドの部屋を行き来する生活に息苦しさを感じていたから、外出できるならしたい、何より、自宅に帰りたかった。


 ゼロニアスに屋敷のいっさいを任せているとはいえ、様子も見たかったし、なにより、祖父の書付けを探していた。ツェツェリアは、神経質な面のある祖父がこの結婚に関して何も残していないのは、不自然だと考えていたのだ。


「わかった」


 セザールは溜息とともに、そう答えると、もうこの話はおしまいだというように、手元の書類に視線を戻した。


「では、ディーン令嬢、これから、明日のお土産を一緒に準備致しましょう!料理長に言って、ドライフルーツの沢山入ったラムケーキを焼いてもらいましょう!。メッセージカードも用意した方がいいですね!可愛いメッセージカードは、私が用意いたしますので... 」


「カロ!」


 セザールの唸るような低い声が、楽しそうにはしゃぐカロの話を遮る。


「はいはい、じゃぁ、手紙はセラと書いて下さい。コレで宜しいですか?主?ささ、ディーン令嬢、調理室へ参りましょう」


 睨み付けるセザールをまるっと無視して、カロはツェツェリアを厨房へと誘う。


 ツェツェリアは、セザールを気にしながらも、カロについて行った。


「私は、主がディーン令嬢と結婚なさることを喜ばしく思っている者の一人です。(あの密約は抜きにしてね!)」


 最後の言葉は、小さくツェツェリアの耳にしか入らないように配慮して、カロは囁くとその懐っこい顔でヘラッと笑う。


「うそ?」


「嘘じゃないですよ!ディーン御令嬢がいらっしゃってから、主は随分とまともになられたんですから!もう、部下一同、感謝しかありません!まあ、もとより、どんなに私生活が奔放で、荒れていても、仕事だけはしっかりされる方ではあったのですが...。今までは、生き急ぐ傾向にありまして...ご自分を大事になさらないフシがあったのですが...それもなくなり、ディーン令嬢には感謝しかありません」


 子犬が尾を思いっきり振っているような屈託のない顔で、カロがツェツェリアに話かけて来る。


 歳上の方なのに、愛嬌があって憎めないないのよね。


「生き急ぐですか...」


 私が結婚していたら、命がなくなるから諦めていらっしゃったのかしら...。そう考えると、セザール殿下が不憫でしかない。


「ええ、戦地へは、いの一番に赴き、敵陣へ自ら突っ込んで行くし、深酒はするし...。側仕えの身としましては、ええ、もう、本当に大変で」


 カロは明るく愚痴を溢すが、ツェツェリアは愛想笑いを貼り付けてはいるが、心中は穏やかではない。


 セザール殿下が私との結婚を回避しても、生き延びる術を探さなかった訳はないわよね...。抜け道を探し尽くして、他に手がないとわからなかったから、こう、自暴自棄な生き方をしたのだろうことは、想像に硬かった。


「あの...セザール殿下はお祖父様との約束について、いつからご存知だったのでしょう?」


「うーん、時期ですか...、将軍と直接約束を交わしてらっしゃったはずですから、陛下が即位されてすぐですかね...私も、詳しいことは...何せ、ほら、極秘事項ですから...まあ、これも私の憶測で、確かなことは陛下しかご存じないので...なんとも...。それより、明日の注意事項を!」


 ああ、そうね。セザール殿下の婚約者として伺うのだから、粗相があってはいけないわ。


 カロからの説明で、私はセザール殿下がローランド公爵と話をしている間、孫娘である公女とお茶をして社交界に知り合いを増やすという段取りらしい。これは、社交界に友達の居ない私を慮って、ローランド公爵が配慮して下さったものだとカロは言っていた。今回は、横にセラを伴っていいから、安心して大丈夫だと。

 

 

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