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前夜 【マリアンヌ視点】

 私室で、明日、城で開かれる夜会の準備をしているマリアンヌの元へ、ひどく慌てた様子のメイドがやってきた。


「お嬢様、旦那様が執務室へ来るようにと仰っています」


「わかったわ。すぐに行くと伝えて頂戴」


 あれだけ怯えた様子でメイドが呼びに来るんですもの、よくない話よね…。明日、王太子妃として紹介されるんだから、気分が滅入る話しは遠慮したいわ。


「お父様、マリアンヌです」


 緊張した面持ちで執務室へと入れば、中には案の定、泣き腫らした顔のエミリーがいた。


 お父様の機嫌が悪いわね。エミリーお姉様に何かあったみたいですけど…。


「マリアンヌ、これはどういうことだい?説明してくれないか?」


 低く唸るような低い声で、公爵はマリアンヌに手紙を叩きつけるように渡し、説明を求めてきた。


 何の手紙かしら?


 王室の紋章の入った封筒には、二枚の紙が入っていた。マリアンヌはそれを取り出し目を通す。エミリーの出勤記録と、侍女取り消しの通知が入っていた。


「説明とは?そのまま、文面通りかと思いますが?」


「エミリーは毎日のように、城へ行っていたのだぞ!なのに出勤日数1日とは、全く納得ならん!」


 ああ、そういうことね。行っていたのにこれには、行っていないことになっていると!エミリーお姉様、何をしでかしたのかしら?


「エミリーお姉様、誓約書はお持ちですか?王妃様から侍女のお仕着せを頂く際に、控えを頂いたはずですが?」


 興奮した様子で、公爵はエミリーに怒鳴る。


「何?そんなものがあるのか、すぐに持って来なさい!」


 エミリーはグズグズいいながも、侍女に誓約書を取ってくるように命令した。


 マリアンヌは侍女から、誓約書を受け取るとそれに目を通す。


 やっぱり、エミリーお姉様の教育係はマニエラ、上司はセラになっているわ。そして、セラの命令には絶対服従。王妃様、約束を守って下さったんですね。セラは我が家に入り込んだエミリーお姉様にいい感情を持っていない。でも変ね?流石にセラでも、出勤日数を1日と報告するなんて有り得ないわ。


「エミリーお姉様、城へ出勤なさった際は、必ず統括侍女であるセラに挨拶に行き、本日の業務内容を確認なさってましたか?」


「え?配置替えがあったのでは…」


 配置替え?そんな話は聞いていないわ。


「エミリー、どうなんだ?」


 公爵が青い顔でエミリーを問い詰める。


「そんな。あっ、でも、ジャネットお姉様いえ、マクレーン侯爵夫人が侍女をされていた際、好きな時に城へ赴いて、王妃様や姫様の話し相手をするのが仕事だって仰ってました。ですから…」


 エミリーお姉様は、ジャネットお姉様のことを姉と呼ぶことを許されていない。マクレーン侯爵夫人と呼ぶように言われている。エミリーお姉様は、そのことを不服に思っているみたいで、敢えてこうして、アピールするのよね。鬱陶しい!


「ジャネットお姉様は、特別上級侍女でしたから」


 マリアンヌはピシャリとエミリーの言葉を撥ねつける。


 前王妃の姪で、父親は婿養子とえ財務大臣であるブロード公爵の次男。現王妃でも気を使う存在。そんなジャネットお姉様と、お父様の連れ子でルーズベルト家のお荷物であるエミリーお姉様が同じなわけないじゃ無い!馬鹿じゃないのかしら?


「エミリー、なんてことをしてくれたんだ!!私がどんな思いで、お前を王宮侍女にしてくれと頼んだのか分からんのか!!王宮侍女は誰でもなれるものでは無いんだぞ!!まったく、王妃様はさぞ御立腹だろう。クソ、陛下の耳に入っているやもしれん。私が良いというまで部屋で大人しく謹慎していろ!」


 公爵は顔を真っ赤にしてエミリーを怒鳴りつけた。エミリーは泣きながら、自室へ帰って行った。それを見届けると、公爵は先程の態度とは打って変わって、マリアンヌに媚びるような笑顔を向ける。


「マリアンヌ、悪かったいきなり呼びつけて。お前から王妃様に上手く謝罪しておいてくれ。勿論、私も謝罪の手紙を書こう」


「お父様、エミリーお姉様からセラへの謝罪は必要かと。セラは身分こそ平民ですが、王宮での力は公爵令嬢を凌ぐものがございます。また、王宮侍女ではありますが、我がルーズベルト公爵家に長年仕えてくれた重臣でもあります。くれぐれもセラを敵に回されませんよう」


 苦虫を噛み潰した顔をなさってますわね、お父様。まあ、お父様にとってもセラは鬼門ですもの。叔母である前王妃の忠実なる僕。ルーズベルト家門の功労者でありながら、王室の裏側を知り尽くした人物。あらゆる貴婦人とのパイプを持っているが、それをお父様の為に使ったことは一度も無い。そう、お父様を主人と認めていない。


「わかった。ここへ呼んで直接謝罪をしよう」


「それがよろしいかと、セラもお母様のお見舞いにも来たいでしょうから」


 お母様が病気に倒れてから、お父様がルーズベルト門家を掌握しようと躍起になっていることは知っているわ。だから、家門の有力者がお母様に接触することを阻んでいることも!


 王妃様が送ってくださった女医曰く。お母様に処方されている薬は、根本的に治癒するものでは無く。一時的に緩和するだけの物だということだ。


 代わりの処方をいただいてから、お母様の病状は回復傾向にある。我が家に詰めていた医師は解雇し、新たな、叔母様に所縁のあった医師に在住して貰い、一安心ではあるけど…。それを、私が手引きしたと知られると厄介だわ。上手くやらないと!


「ああ、そうだな…」


「お父様、お姉様が王宮でどう過ごしたのか、ちゃんとセラへ確認と、事態の収集を頼んで下さいね。このままでは私の王太子との婚約の話が流れなねませんわ!」


 マリアンヌは大袈裟に心配そうな顔を作る。


 これだけ大袈裟に煽っておけば、私が王妃様に頼んだことを勘づかれないわよね…。


「ああ、そうだな。それは困るな…」


 力なく項垂れる公爵に、マリアンヌは心配そうな顔を作りながら内心微笑んだ。


 いい気味だわ、お父様。セラさえお母様に会えれば、

お父様がルーズベルト門家を乗っ取るのを防げるわ!


「それでは、私は明日の夜会の準備がございますので」


「ああ、手間を取らせたな」


 





 

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