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招かざる客

「今日もエミリーは来てないわね」


 セラがツェツェリアの髪をときながら、呆れた様子で香油をマニエラから受け取った。


「そうですね」


 マニエラは紅筆を手になんとも言えない表情を浮かべる。


「王妃様に頼み込んで、王宮侍女にして貰ったのに、何を考えているのかしら?あれでは、公爵も王妃様に合わせる顔がないでしょうに…エミリーの使用期間は明日までよね」


「はい、そうです」


 ツェツェリアの唇に紅を差しながら、マニエラは気不味そうに答えた。


「奥様、エミリーの王妃様へ提出したする報告書は、一ヶ月間のうち一度の出勤と書かせて貰います」


「セラ、奥様は辞めてください。まだ、結婚していないのですから。エミリーの件は貴女にお任せ致しますわ」


 来ていないのに、来たとは書けない。でも、エミリーには悪いことをしたわ。彼女は王妃様か姫様に仕えたいと思って侍女に志願したのよね。それなのに、子爵令嬢の世話をしろと言われたから、さぞ嫌気がさしたのでしょう。でも、そうセラに相談したら、そんな心構えで最初から侍女になりたいというのは痴がましいと、一蹴された。それが、此処での常識ならそれに倣うまで。

 

「大公妃と呼ぶなと仰ったので、仕方なく奥様と呼んでるんですよ」


 仕方なく、って、私、まだしがない子爵令嬢なんですよ!なんか、私の我儘みたいに言わないで下さい。


「エミリーさん、この一ヶ月、ここでちゃんと勤め上げたら、正式な侍女になれたんですけど…。私のポジションも空きますし…」


 マニエラは少し残念そうに眉尻を下げた。


「私は嬉しいけれど、二人とも本当に私に着いて来てもいいの?」


 サラとエミリーは、このまま大公の小国に付いてきてくれることになっていると聞いた。


「私は、王妃様に聞いた時は、有難いお話だと思いました。城で侍女として働いてはいますが、これも、王妃様の格段の取りなしがあってこそですから、王宮は私にとって居心地の良い場とは言い難いので…」


 待遇は悪くは無いが、他の侍女達からの風当たりはきついのね。


「私は、前王妃の侍女ですからね。王太子殿下がマリアンヌお嬢様と結婚なさると、私が王宮に留まるのは、王妃様にとっては不都合なんですよ」


 マリアンヌお嬢様とは前王妃の姪にあたる方。王宮での実権を握る為に、少しでも、マリアンヌお嬢様に有利に働く者を遠ざけたいのね。


「これは一体どういことですか!王弟殿下!!」


 中庭から怒号が聞こえる。ツェツェリアが窓から中庭を見下ろすと、そこには茶色の髪に少し白髪の混じった紳士が、左手にカードを握り潰し、セザールに食って掛かっていた。


「その書面の通りだが?」


「殿下は我が娘と結婚する意思はないと、そう仰るのですか?」


 怒りを露わに大声を出す紳士を、セザールは冷ややかな目で見下す。


「そう書いてあるはずだが?」


 あの紳士は誰かしら?身なりからして、それなりの身分のある方よね…。後姿だから、誰かわからないわね。酷くご立腹みたいだけど…。話の流れでは、セザール様がその紳士の娘さんにカードと白いチューリップを送ったのね。


「殿下がこれまで結婚を拒み続けてこられたのは、我が家門へ信頼をよせて下さっていたからと思っておりましたが、違ったのですな!残念でなりません。私はてっきり、我が娘が16歳になるまで待っていて下さったと思っておりました。なら、せめて、娘の気持ちを汲んで、次の夜会では、娘のパートナーになって頂けませんか?」


 16歳の令嬢がセザール様に求婚したのね!


「それは出来ない相談だな」


「何故ですか?この前、ブルボーヌ公爵の竣工パーティーで、ディーン嬢をエスコートしていたそうじゃないですか。なら、我が娘と入場しても差し支えないでしょう?殿下の師はディーン将軍だけではないのですからな!」


 ブルボーヌ家のパーティーにいらしていたってことは、侯爵以上の爵位よね?誰かしら?


「ねえ、あの背後、誰だかわかる?」


「馬車のあの家紋はブロード侯爵です。保守派の筆頭の」


 ブロード侯爵…ターシャ様のお父様?なら、セザール様に求婚したのは、ターシャ様?そう言えば、パーティーでセザール様から、自分の事を聞いていないのか?と仰っていたわね…。ブロード門家にセザール様の恩師がいらっしゃるの?


「師匠とは誰のことだ?まさか、侯が俺の恩師だと思ってるんじゃないよな?まともに授業もせず、侯の仕事はルビー宮の前王妃様に媚び諂うことだったろ?まあ、確かに、当時の俺の立場は王子達の中でも下の方だったが…。何はともあれ、恩義を感じる間柄では無いのだけは確かだが?」


 凍るような声ね…、これ以上、外の声に聞き耳を立てるのは良くないわね。


 窓の外から怒鳴り声が聞こえたが、ツェツェリアは好奇心を蓋をして、そっと窓側から離れ食堂へと向かった。

 

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