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裁判 【マリアンヌ視点】

「濡れ衣です。誰かが私を妬んで不貞を捏造したのです!」


 廃妃の悲痛な叫びが法廷にこだます。


「証拠は揃っております。廃妃!」


 法務大臣の威厳たっぷりな声が廃妃の訴えを退ける。


「何が証拠です?相手の男性は死亡?死人に口無し!確かに、彼と会っていたのは認めますが、ですがそれは個人的に、彼に頼み事をしていただけよ!不貞はしてないわ!そんな馬鹿なことする訳ないじゃない!捏造よ!」


 美しかった廃妃の髪は乱れ、目の下にはクマができやつれてはいるが、その目は死んでいない。この世の不幸を一身に背負ったような儚げな雰囲気を醸し出し、王太子に必死で訴えかけるも、王太子は廃妃から目を逸らした。その様子に悔しそうな廃妃とは裏腹に、王妃は嬉しさを隠すように口元を扇で隠し口角を上げた。


「ですが、貴女の侍女が、二人きりで会っている見ている。それは動かぬ証拠です。他には、廃妃が王太子て床を共にするのも、顔を合わせるのも耐えれないと漏らしていたと、何人もの使用人が聞いております」


 廃妃はキリッと法務大臣を睨む。


「侍女とは誰よ!もしかして、サラトラ?違うわよね?誰か言いなさいよ!サラトラがそんなことをいうはずがないわ!それに、誰だって、夫と喧嘩した日くらいは、それくらいの愚痴はあるでしょう?」


 傍聴人を廃妃は見渡す。身に覚えのある夫人達はそっと下を向くき、その様子を見て廃妃はほらご覧なさいとばかりに勢い付く。


「では、その者に何を秘密裏に何を依頼したのかね?それが答えれなければ、不貞をしたと認識せざるを得ない。依頼内容が分かれば、それを精査し、その依頼に取り掛かった事実があるか調べましょう」


 廃妃は下を向き口籠り、床を睨み付けた。


 マリアンヌは傍聴席でライラック姫その一部始終を見ていた。ライラック姫の侍女として付き添っていたからだ。


 違和感を感じるわ。廃妃が嵌められたように感じるのは気のせいかしら?彼女の言う通り、秘密裏に何かを依頼することはよくある話だ。だが、彼女はその依頼を明かす事ができないようね。その内容は、不貞罪を免れたとしても、それより、重罪に問われる可能性があるのかしら?それとも、悪あがき?まあ、秘密裏に頼むことだから、この場で公開されれば、醜聞を招く内容だと分かりきってはいるわね。


「判決をいい渡す。廃妃は一ヶ月の拘留期間ののち、斬首刑とする」


 法務大臣が判決文を読み上げるが、廃妃は無実だと誰かに陥れられたのだと叫び続けながら、近衛兵に引き摺られるように法廷から退場した。


 斬首を言い渡されても、その依頼を言わないということは、依頼が無いのか依頼内容も死刑になるようなことね。


「おわりましたわね」


 隣に座って居たライラック姫の冷静で、何処となく冷たい言葉が、明日は我が身よと言われているようでゾッとした。


「そうですね」


「この後、お兄様に会いに行きますか?叔父様の為の夜会、ドレスを揃える必要があるのでしょう?」


 ライラック姫の意味深な言葉にドキッとする。


 前妃の裁判の後にする会話じゃないわよね?


「その件はもう済みました。お気遣いありがとうございます」


「そう、ならいいわ。でも、クライネット男爵令嬢とドレスが被らないように、気を付けた方がいいですよ?」


 エミリーお姉様とドレスが被る?それはあってはならないこど。そう言えば、エミリーお姉様が私の着るドレスを仕切りに気にしていたわね。姫様は何か耳にされた?


 マリアンヌの鼓動が早くなった。


「姫様、やはり、殿下と今からもう一度ドレスの打ち合わせをしたいと思います。そのまま、お暇しても宜しいでしょうか?」


「どうぞ、ゆっくりお兄様とお茶でも楽しんでね。お兄様、本日は心労が溜まっていらっしゃるでしょうから、癒やして差し上げて」


 にっこりと笑った姫に、マリアンヌは底知れぬ恐怖を感じた。


 先に退出した王太子の後を追う。


 本来なら、遣いを出し、予定を伺い訪問しなければならないが、夜会まであと一週間もない。これから、クローゼットの中を探し回り、全て揃えるとなるとそれなりに時間は必要だ。


 目の前に王太子の姿があった。しかし、その横には、なぜか侍女のお仕着せを着たエミリーの姿が…。王太子はエミリーと談話を楽しんでいる様子だ。


 お父様に頼んで、王妃様の侍女にして貰っていたんだったわね。エミリーお姉様が侍女になりたかったのは、気軽に城へ行くため?


 王妃様の侍女であれば、王宮で立ち入れる場所は一貴族より格段に増える。なにより、登城するのに、いちいち伺いを立てる必要が無い。侍女にも細かく階級があり、それはお仕着せのカラーと、ブローチで見分けることができる。エミリーは最下位だが、マリアンヌは上位に分類された。


 エミリーお姉様はこの先の建物には、立ち入る事が出来ないから、王太子殿下が建物に入られてから、話しかけるべきよね。


 一瞬、マリアンヌはエミリーと目が合ったような気がした。


「中庭の薔薇が綺麗に咲き誇っておりますわ。気晴らしに、一緒に観に行きませんか?本当は、私が摘んだで殿下のお部屋を飾りたいのですが…、私は、下級侍女ですので、殿下の部屋への立ち入りが許されておりません…せめて、中級になれたら…」


 お姉様、王太子に自分の位を上てくれとお願いなさっているなんて!


「侍女はお母様の管理下だ。私が口を挟むべきことでは出来ない。其方はマリアンヌの姉とはいえ、男爵令嬢だ。本来なら侍女になるのも難しい立場。王妃様の格段の取り計らいやによって侍女として、城へ上がっているのだから。仕方ないそのかわり、中庭の方を回って部屋へ帰ろう」

 

 王太子の返答にマリアンヌは胸を撫で下ろすが、エミリーの為に遠回りをするという、王太子の言葉になんともいえない苛立ちを感じた。


「まあ、嬉しいですわ。殿下と薔薇を愛でることができれなんて」


 ああもう、見てられないわ!先に、殿下の執務室へ行って待っていようかしら。


「ああ、君が薔薇を摘んで、護衛騎士にでも渡してくれ、我が部屋に飾ろう」


「はい。ありがとうございます。あの、殿下、私がルーズベルトの性を名乗れるように、お力添え下さい。クライネット男爵家は叔父様が継いでらっしゃいます。叔父様の娘でもない私が、クライネット男爵令嬢を名乗るのは違和感がありまして。お父様はルーズベルトに婿養子に入られました。なら、私もあの家で面倒を見て頂いているのですから、ルーズベルト家門に入るのが一番自然な気がするのです」


 なんて図々しいの、エミリーお姉様!王太子殿下に口添えを頼むなんて!


「だがそれには、公爵夫人の許可が必要だ。今は病で床に臥しておられる。そんな状況では、どちみち教会に行くことはできないだろう?」


「なら、お父様が代理人として教会へ出向けば良いではありませんか?」


 王太子の言葉に、エミリー良い案だとでもいうように目をキラキラさせて尋ねる。


 何?お父様にお母様の意思を無視して、お母様の代理人として、自分をルーズベルトに入れるように教会へ行くように言えと!なんてことを言うのよ!


「残念ながら、公爵にその権限はないな。なぜなら、彼はルーズベルトの血が一滴も入っていないからね。その権利は血族にのみある」


 二人はゆっくりと中庭の方へ歩いて行った。


 話は気になるけど、後を付けるのは憚られるわね。先に執務室へ行きましょう。


 マリアンヌは断腸の思いで、執務室へと足を進めた。


 エミリーお姉様と殿下はいつの間にあんなに親しくなったの?


 マリアンヌの頭に先程のエミリーの王太子に媚びる姿と、ジャネットの『エミリーが王太子殿下の妃の座を狙っているの?』という言葉が過ぎる。


 間違いなく、エミリーお姉様はルーズベルト家門に入りたがっている。確かに、男爵令嬢と公女では受ける恩恵が格段に違うわ。でも、理由はそれだけではないような気がする。本当に王太子妃の座を狙っているのかしら?


 マリアンヌが王太子の執務室で待っていると、程なくしてルーディハルトがやってきた。部屋に入るなり、マリアンヌがソファーに座りお茶を飲んでいる様子に、いささか驚いた様子だ。


「珍しい、君がなんの前触れもなく、ここへ来るとは」


 そう言うと、マリアンヌの向かいに腰を下ろす。


「このお時間、お一人でお過ごしになるには、些かお辛いかと思いまして…ですが、杞憂のようでございましたわね」


 マリアンヌの冷めた視線に、ルーディハルトは罰の悪そうな表情を浮かべた。


「君の気遣いを感謝する。エミリー嬢は公爵家の者ではないとはいえ、血縁上君の姉にあたる。無碍にはできなくてね」


 ルーディハルトの言い訳に、マリアンヌの周りの気温が一気に下がった。


「左様でございますか。では、あれは全て私への配慮とおっしゃりたいのですね?殿下」


「見ていたのか…。ああ、まあ、君へのというよりは、

義父になる公爵への配慮の方が近いな…」


 罰の悪そうな表情を浮かべ、必死で機嫌を取るかのように顔色を伺ってくるルーディハルトに、マリアンヌは溜息を吐く。


「私にもうし訳ないと、思っていらっしゃると考えてもよろしいかしら?」


「ああ、もちろん!」


 マリアンヌからの譲歩に、ルーディハルトは飛びつく。


「わかりましたわ。なら、夜会のドレスを変更致しますわ。それに合わせて、殿下の服を変更してくだされば、今回のことは水に流してさしあげますわ」 


 そんなことかとでも言いたげな、ルーディハルトは二つ返事で了承する。


「ん?なんだ、ドレスでも新調したのか?」


「いえ、違いますわ。ただ、新しい髪型をヘアーカタログで見まして、その髪型が前選んだドレスだとしっくりこないんですの…」


「そうか、それは重要事項じゃないか!で、何色のドレスを着るのだ?私は、どの服を着ればよい?」


 ウキウキとマリアンヌを自分の衣装室へ案内するルーディハルトに、少々面食らいながら、マリアンヌは自分が着ようと思っているドレスの特徴を話す。


「ほう、前回選んだものとは真逆のデザインだな。確かに、それでは、髪型が全く異なるか…」


 エミリーお姉様に真似できないようなデザインのドレスよ!私は婚約者を亡くし、殿下は離婚なさったのだから、本来なら、ここまで華美なモノは控えようと思っていたのだけど...。


「なら…」


 ルーディハルトは従者を呼ぶと、何着か服を持って来させる。


「どうだ、この中に其方のドレスと合うものはあるか?」


 あまりにも積極的なルーディハルトに面食らいながも、マリアンヌは礼装の服を見比べる。


 どれも、自分が着ようとしているドレスに合うデザインだ。その中でも白に濃紺のアクセントと金糸の刺繍が入っているモノが目に付く。


 あら、あの濃紺の生地、私のドレスの生地と同じだわ…。ああ、あのドレス、王太子殿下に頂いたモノだったわね。だから、機嫌が良かったのね...。


「殿下、せっかく、お揃いの礼服をお造りになっておいでですので、それになさりませんか?」


 私の許しがなけば、お揃いの服すら選べないなんて...


 その自信の無さに、マリアンヌは軽い眩暈を覚えた。



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