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ブルボーヌ家のパーティー マリアンヌ視点

マリアンヌ視点です。読み飛ばしの可

 流石、ブルボーヌ家の豪華客船の竣工パーティー、格式高い家門だけが呼ばれただけあって、昼間とはいえ、どの令嬢達も競うように着飾っているわね。


 マリアンヌは一緒に来た父親と早々に離れ、懇意にしている令嬢達と話に花を咲かせていた。


「ねえ、知っていました?今日のパーティーに海の貴公子、ルーディ・ヒューゴ・ナッツ様がいらっしゃるらしいの」


 少し頬を赤らめて、期待に満ちた目をした令嬢達の興奮が会場に充満している。


「噂通りの方なのかしら?」


「さあ、どうでしょう?ふふふ、でも、私、今日は期待して来ましたのよ。中々、お目にかかれる方ではありませんもの!」


 エミリーお姉様が来たかった理由はコレね…。ブルボーヌ夫妻が、この事業にどれだけ力を入れているかよくわかるわ。


 つい最近まで喪に服していたマリアンヌには、この情報は入ってきていなかった。



「大公殿下、ディーン子爵御令嬢、いらっしゃりました」


 バトラーの声がデッキに響き渡ると、会場中の視線がお揃いの装いを身に纏った二人に集まった。シャンパングラスを両手に持ったブルボーヌ夫人が周りに見せつけるようにゆったりとした足取りで、にこやかに二人の側へ近寄って行く様子を会場中の貴族達が固唾を飲んで見ている。


「大公殿下、本日は足をお運び下さり、ありがとうございます。レディ・ツェツェリアもよく来てくれたわね。我が家のパーティーで社交界デビューをしてくれるなんて、とても嬉しいわ」


 セザール殿下がディーン令嬢のエスコートをしているなんて!ああ、お姉様の話は本当だったのね。パーティーの度に、エスコートを頼んだが一度もしては下さらなかったのに…。


 ツェツェリアを支えるように身体を密着させ、まるで一時も離したくないかのようにエスコートするセザールに、マリアンヌは絶望した。


「マリアンヌ様、大公殿下が…ディーン令嬢をエスコートなさるなんて…」


 驚いたような、マリアンヌに気遣うように横にいた令嬢がぼそりと漏らす。


「私、あの方、見たことがございますわ、マリン・クレトアの工房で…。大公殿下といらっしゃっていたわ。あのドレス、マリン・クレトアの新作じゃない!もしかして、大公殿下がディーン令嬢にプレゼントされたの?」


「同じ生地ですし、ああ、ショックですわ。あの、麗しいの殿下にパートナーが出来たなんて!」


 沢山の人に囲まれ、セザールにエスコートされ、居心地の悪そうなツェツェリアの表情がマリアンヌの目に映った。


 何よ、その場所が嫌なら私に譲ってよ!どれだけ、その場所に立つことを羨望してきたか知らないでしよう!


 人の輪を抜けて、セザールとツェツェリアがダンスを踊る。ほう、と溜息を漏らす男性陣と、ちっとも楽しそうでないツェツェリアにマリアンヌの苛立ちは最高潮に達したが、その目はそんな光景など見たくないという意思に反して、二人を捕らえてはなさい。


 なぜ、セザール殿下はあの女をあんな甘やかな瞳で見ているの?何故、もう一曲と誘うの?何故セザール殿下の誘いをあんなに無下に断れるのかしら?なぜ、殿下の存在をあんなに軽々しく扱うの?私なら、喜んでもう一曲、いえ、何曲でも踊るわ。


 ねえ、セザール殿下、私のどこが彼女に劣っていると言うの?言ってくだされば、いくらでも努力するわ。これまでだって、セザール様と踊るのを夢見て、ダンスだって必死で練習をしてきたの、あんな辿々しい踊りじゃなく、私の方が完璧に踊れるわ。学問だって、刺繍だってそうよ。横に立つのを夢見て、交易や外交だって学んだわ。マナーや立ち振る舞いだってそうよ。先生に完璧と言われるまで、必死で頑張ったのに…。


 セザールはもう一曲とこわれるのを断り、怠そうに角の一人掛けのソファーに腰を下ろしたツェツェリアに、マリアンヌの怒りは頂点に達した。


 セザールがツェツェリアの側を離れたその隙に、彼女の前に一人の令嬢が進み出る。その少し離れた所からニヤニヤと、その様子を伺う令嬢達の姿がある。どう見ても、デビューしたての令嬢を蔑めようとしているとしか見えない。


 まあ、意地の悪いこと。でも、少しくらい痛い目を見たらいいわ。


 本来なら、時期王太子妃として王妃に良い印象を与える為、上手くその場を取りなしに行くのが正しい判断だが、ツェツェリアに良い感情を持っていないマリアンヌは正視を決め込んだ。


「マリアンヌ様…」


 心配そうに、マリアンヌの横で、助けに行かなくては良いのかと尋ねるローランド公女に嫌気がさす。


 そんな風に思うなら、貴女が助けに行けばいいでしょう!いつも、私の後に隠れて、心配をする素振りだけ、自分は安全圏内に留まり、人を矢面に立たせるのよね。私が『助けなくても大丈夫じゃないかしら?』と言って何もせず、何かあれば、『マリアンヌ様が大丈夫と仰ったので…、私も大丈夫だと思って…』と責任を押し付け。手柄があれば、それは一緒に享受する。本当、嫌な女!


「どうしたら、良いかしら?ブロード侯女にマッケーニ侯女が相手でしたから、権家の家者でない私では火に油を注がないか心配で…」


 マリアンヌは、保守派の二代筆頭の娘を相手にするだけの力は我が家門にはないから、ローランド公女に財務大臣を祖父に持つ貴女が助けに行けば?と、しれっと促してみる。


「私には、そんな裁量はございませんわ…。ほら、心配は杞憂でしたわ。ディーン令嬢、うまく立ち回っていらっしゃいますわね。今日が社交界デビューとは思いえませんわ。流石、年の功ですわね」


 年の功は余計よ。ここで同意すれば、私が言ったことになるのよね。上手く立ち回っているディーン令嬢に救われたわね。


 ふいにブロード侯女の手がツェツェリアの頭を掠めたかと思うと、ツェツェリアがバランスを崩した。


 あっ、危ない。


 そうマリアンヌが叫びそうになった時、ブロード侯女がツェツェリアを海に突き落とした、そう見えた。


 誰がどうみても、髪飾りを取ろうとして、それを拒んだから海へ突き落としたとしか見えない状況だ。


「「キャーーー!」」


 ブロード侯女とマッケーニ侯女、そして、その周りにいた淑女達が叫び声を上げる。ザフーンという人が海に落ちる音がして、間髪置かずに二人の男性がほぼ同時に海へ飛び込んだのが目の端に映った。


 誰が飛び込んだの?ディーン令嬢は無事かしら?


 程なくして、下から船員が慌ただしく駆け上がってくると、ブルボーヌ公爵にそっと耳打ちした。公爵はその言葉を聞くと、険しかったその表情を緩めた。


「皆さまどうか静粛に、先程、不良の事故により転落された女性は無事救助されました。どうぞ、そのままパーティーをお楽しみ下さい」


 ブルボーヌ公爵はざわめき立つ会場の収集に努める。


 夫人の姿は会場に無いから、下へ降り指示を出しているのでしょうね。取り敢えず、助かって良かったわ。不慮の事故ねぇ?突き落としたのは誰が見ても明白じゃない!まあ、この場でブロード 侯女を吊し上げるわけにはいかないからなんでしょうけど…。


 会場の片隅で、ガタガタと震えるブロード侯女がお付きの侍女に支えられて、そっと人目を避けるように下へ降りる階段に向かって歩いて行くのが見えた。


 このままいっそ、社交界から消えてくれればいいのに、まあ、そんな簡単にはいかないわね。

 

 会場では今夜のプレミヤムクラスのキャビンのオークションが始まり、先程の事件など無かったかのように会場は熱気に包まれた。プレミヤムクラスキャビンの中で一番高価なキャビンのオークションが始まるとそのボルテージは最高潮まで上がり、値も釣りがって行く。


 流石、ブルボーヌ公爵ね。もう、ディーン令嬢が転落した話なんて誰もしていないわ。この様子なら明日からの話題は最高級プレミヤムキャビンの落札額と、夜のパーティーに参加されるルーディ様の容姿で持ちきりでしょうね。


 


 

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